明日の花



「おめでとう」と師匠は仰った。

そのひとことに僕はわずかにたじろいだのだ。

師匠の眼差しはまっすぐに僕に向けられていながら、
でも、僕ではない何かをご覧になられている気がした。


その一言は決して軽くおざなりなものではなかった。
師匠が話されるとき常にそうであるように。
まっすぐに僕に向けられていた。それはもう、疑いなく。
そして祝ってくださっていた。確かに。

それ以上僕は何を求めているのだろうか。
立ち止まって首を傾げても、思い当たることはない。

それ以上何かを求められているのだろうか。
振りかえって自分を眺め返してみても、答えは見当たらない。

自分の容姿も、戦闘能力も、術の腕も。兵法も、書画も作法も。
僕自身が、そして師匠が、いちばんよく知っている。
そしてそれはかなりのものだ、自分で言うのもなんだけど。

何をたじろぐ必要があるだろう。
師匠が祝ってくださる言葉は飾りなく率直で。
そして我に帰った僕はようやくお礼を言った。
「ありがとうございます」

師匠は僅かに微笑まれ、それからすうっと目を細め。
少々首を傾げられ、じっと僕の全体を眺めて仰った。
「どうした、楊ゼン?」

それは先刻の祝いの言葉と同様に、
含みなく僕のためだけに発せられていて。
やはり僕は感謝以外にお返しするものを知らない、はず。
だから僕はただこう答える。
「いいえ、何も?」

何かお伺いしたいようなお伺いすべきような疑問符は
心の何処かに浮いたままではあるのだけれど、
言葉として捕まえられるほど明らかではない。
だからお礼申し上げる以外には何もない、そう僕は言ったのに。

笑われた。

目を細めて師匠が仰ることには。

「私の言葉を信じられないのだな」

「いえ、そんな!」

「結構なことだ」

・・・。
思いっきり焦ってうろたえた僕を尻目に、
師匠はまだ上機嫌で笑っておられた。

途方に暮れて師匠を見返す。
笑いを納められた師匠はぽん、と僕の肩を叩かれ、
さらり、とそのままその手で僕の髪を梳いた。

「大きくなったな、楊ゼン」

そんなことを言われたのはもうだいぶ久しぶりで、
どことなく気恥ずかしい。
けれど言葉が胸に落ちるのには何のわだかまりもなくて。

「そしてお前はもっと大きくなる」

これ以上大きくはなりませんよ、
そんなふうについ反射的に思ってしまったけれど、
勿論師匠の言葉は比喩。

「おめでとう」

師匠は仰った。
いまの僕に向かって含みなく。
同時に師匠の眼差しは、僕の明日にも向けられているのだ。

やはり僕はわずかにたじろぎ、たじろいでいられないと思い。
そして、たじろぐ必要はないのだと知る。
だって、それが師匠の眼に映っているのなら。
何をたじろぐ必要があるだろう。

「ありがとうございます」

もう一度そう申し上げる僕の横顔が。
いつもいつでも師匠の眼に鮮やかだといい。


頂戴して半年後にお礼申し上げるような形で恐縮ですが、
6月24日が楊ゼンさんのお誕生日だそうですので。
いえもうあの素敵な横顔にうずうずしていたのですv

ちなみに、相変わらずタイトルは最後でした(笑)。
(別の題をつけて書いていたのですが、書き上げてから変えたのです。)
亭主はイメージソングで話を紡ぐことはできないのですが、
今回そうであったように壁紙で書くことはままあります。
今回は壁紙がプロット(?)で、頂いた絵がラストシーンになるようにと。
どうにか着地点は外していないものと思っておりますが、どうでしょう?
壁紙は雲水亭さま。 ぱんこさまの絵の色調に合わせて探し、一目惚れでしたv

ぱんこさま、素敵な素敵な楊ゼンさんの横顔をありがとうございました。

04.06.24 水波 拝

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