陽光



蓬莱島でも、季節はめぐる。
ふわっと一陣の風が吹いたとき、天祥の目の前を何かがよぎった。
「あ、・・・・」
手を伸ばして捕まえてみれば、それは桜の花びらだった。

太乙真人はこの星のハイテクノロジーのすごさを時折嬉しそうに語るけど、 それは天祥にはよくわからない。 天祥にわかるのは、ここが地球と全く変わんないってことだけ。 自分たちがむかし住んでいた、そしていま人間界と呼ぶ世界と、 ここではおんなじ風が吹き、おんなじ花が咲く。
でもここは地球とはもちろん違う。
ここにはナタクがいる。武吉がいて、雷震子がいて、楊ゼンがいる。
そしてここには兄たちがいない。 天化兄さまも、父さまもいない。
吹く風は同じでも、そこにいるひとだけが、人間界とは違うんだ。

・・・・違うのは、そこだけ?
なんとなく、けれど強く何かに突き動かされて、 天祥は桜の花びらを握りこみ 風が吹いてきた方に歩き出した。

ほどなく桜の木は見つかった。
まだ枝の先では蕾が固く締まっていた。
それでも優しい風が吹くと、 開いた花びらのいくつかはふわっと風に乗る。
薄紅色の花は美しかった。
それなのに、咲ききる前に散りはじめるのか。

桜が散るのなんて何度も見ているのに。
今年の桜はどうしてこんなに切ないのだろう。
ひとつ、またひとつ、時にはいくつもいちどきに、花びらは風に舞っていく。
散る花びらを追いかけて遊んだことを覚えている。
けれどいまはもうそんなことはできそうになかった。

それでも花びらに手を伸ばす。
それは難なく掌のうちにおさまった。
こんなこともむかしはできなかったのだ。

あっ、そっか。

違うのは世界じゃなくて、僕なんだ。

手のひらにのせた花びらは、じんわり重い。
それは自分が桜の花びらに重ねる想いが重いから。
桜の下で遊んでいた僕を見つめてた母さまを、 花見が好きでお酒が好きで白くて大きい父さまを、 そして咲ききる前に散ってしまったような兄さまを、 散る桜に重ねるようになったからだ。


そして手のひらにのせた花びらは、じんわりと温かかった。

蓬莱島でも陽の光は降りそそぐ。
万物は太陽によりいやがおうにも育まれていく。



400Hitリクエスト第一弾。 お題は「スミレさまのイラストに文章をつけること」。
そこでキリリク(嘘だろ)で頂戴した絵に文章を合わせさせていただきました。
が。合わせたといえるのか?壊したって言わないか?
ほのぼのを書きたいのに妙に痛い話になる亭主(涙)。
「咲く前に散る」ことなど連想するからいけないのですが・・
そのため、ナタクの出番がなくなりました。
少し大人に近づく天祥、はいつか書きたかった。
スミレさまの絵は幸せそうな天祥くんの絵です。素敵です。
余談ですが亭主にとって飛虎って桜のイメージそのものですね。
スミレさま、400Hit踏んでくださって、さらにイラストもくださって、
本当にありがとうございました。
こんなので申し訳ありませんがスミレさまに捧げます。

01.04.03. 水波 拝

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