実りのとき



「お、ウマそうじゃねえか」
そう言いながら雷震子は師匠を見る。

「今日は何も変なモン入れてねえだろうな?」

弟子に胡散臭そうな視線で見上げられるのにはすっかり慣れ切っている雲中子は、 何も答えないで笑った。
食卓の上には無花果、梨、アケビに林檎、そして柿。

そんな顔してわたしを見ても、眼の奥は輝いているようにしか見えないんだから、君は。
そんなふうに思ってしまったら、笑うしかないよね。
そうしてふたりが席につく。

するとやっぱり雷震子も、返事がないのに構わず食べ始めるのだ。
「ま、いただくぜ!」
入れてないよ、なんて笑って言われても、どうせ信用できやしねえしな。
それでも師匠に向かって問いかける、そんな矛盾に彼はきっと気づいていないのだ。

そういえば。
食べ物を前に手を合わせることなんてわたしは教えていないけど、と雲中子はふと気がつく。
この子がここに来てからどれだけの月日が経ったかもう忘れてしまったのに。
大地の上で愛されて育ったのだろうこの子の中身は変わらない。

何度も痛い思いをしてるのにね。学習しないのかな?
その変わらなさに自分が安堵しているのか、それとも嫉妬しているのかは微妙なところだ。

結構いろんな物を食べてもらったのにね。

力が強くなったり空を飛べるようになったりちょっと賢くなったり風を起こせるようになったり?
雲中子はいろいろと実験してはいるのだが、でも効果が長続きするのはごくわずかだ。
もちろん何の成果もなくて、ただ高熱で意識を朦朧とさせたり とんでもない腹痛を起こさせたりしたことも数え切れない。
あるいは動きが遅くなったり跳びあがることもできなくなったりとか。

まあ実験には失敗がつきものだからね、とそんなことを思い出しながら、 次はどうしようかなと何時の間にか食事の手を止めて雲中子は考えていた。

この骨格と筋肉のままじゃ、定着する能力にも限界があるんだよね。
やっぱり元から改造しなきゃだめかな?そのためにはどうしたら上手くいくかな?


「・・・・、おい、雲中子」

「え?あ、何?」

自分の世界に入ってしまった雲中子が気がつくまでに、 雷震子が呼びかけたのは一度や二度ではないらしい。
ようやく焦点を合わせて見た顔は、あからさまに不機嫌だ。

「何?じゃねー、さっきから呼んでんのに!・・・・食わねえのか?」

言われて自分が食事の手を止めていたことに気がついて。
食卓の上を見るとほとんど片付きかけている。
それでいて、ちょうど雲中子が食べたいと思う程度の果物が、皿の上には残されていた。

「あ、うん、食べるよ。半分食べる?」

そう言うと目の前の子供は複雑な表情をした。

「足りるのか?」

「足りるよ」
雲中子は素っ気無く答える。

ひとりぶんの半分じゃ足りないけど、ひとりで食べてもつまらないでしょ。
それに君は食べたがっているんだしね。
遠慮しながら嬉しさを隠せないんじゃ、やっぱり子供だよねえ。

それじゃ、と雷震子はまた皿に手を伸ばす。
何かが入ってる、って疑惑は否定できないのにどうしてこんなに嬉しそうに食べられるんだろう、と 雲中子はやっぱり不思議でならない。
そうして一緒に最後の無花果を食べながら、きれいな果実が選ばれて残されていたことに気がついた。

全く、この子は・・・

それは笑えないほど、力強く健やかな愛情がこの子の中には息づいている。

それはわたしが何をしてもきっと壊れることはないよね。そんなふうにも雲中子は悟って、 また実験の続きを考え始めるのだった。



食欲の秋によせて。
食欲の秋、というタイトルの話が第1目標でしたが失敗。
無花果が年に2度取れることを亭主は今年初めて知りました。
実はアケビは食べたことありません。
スーパーにも去年はあったんだけどな。高かったんだよな。

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