その日付


毎年この日には、私は弟子になにかを渡した。

最初の年はほんとうに偶々だったはず。
そのときとりかかっていた不思議な林檎が出来上がるまであとすこし、というときに明後日がクリスマスだと思い付いてしまったから、どうにか間に合わせてそれを渡した。あの子がそれを喜んだかって?さあねぇ。貰った側の心がわかるわけじゃないのは、何をあげたときでも同じだからねぇ。
次の年もクリスマス直前に思い出して。その次の年は最初から照準をあわせて研究を進めた。その次の年は不思議な杏の開発の真っ只中でまだ先が見えないころだったから、たしかケーキか何かを作ったんだと思う。
大戦のさなかは声を掛けるだけで終わった年もあったけど、蓬莱島に来てからも毎年なにかを渡している。翼の改造をした年もあるし、飼育用バイオキシンαを水槽付きであげたことも。

とくに今日が何の日だなんて言ったことはない。
この日付じゃなくても私があの子に何か食べさせたり改造したりしているのはしょっちゅうだから、あの子は気付いてないと思ってた。実際、これはただの私の日付のお遊び、それ以上の意味なんてないのに。私がそれに満足し楽しんでいる、それで十分だったのに。

どうやら甘かったらしいねぇ。
目覚めたらベッドの横に置いてあった新しい帽子を見て、私は呟く。
ぽりぽりと頭を掻いて、そしてそれを身に付けた。
少々大きすぎるようだけど、まあ、悪くない。

「おはよう」
食堂で顔を合わせたとき弟子の視線の行き場を確認する。
私が新しい帽子をかぶっているのを見たその子の目が一瞬輝くのを見逃したりはしない。
隠しているつもりでもこの子は顔に出るから。

私がいま何を上げてもこの事実以上にはこの子を喜ばせはしないかも。
今年はもうこれで良いかな、そんな思いが頭をよぎった。
どうせ何をあげたって、それが喜んでもらえているかどうかはわからないのだから。

「雷震子。今日が何の日か、知ってるかい?」

「知らねぇ、けど」
弟子はいつものように偉そうに答えた。
「俺様がはじめててめぇに物をやった記念日だ」

ほんとうに知らないのかねぇ。それとも、単に照れているんだか。
まあでもそんな記念日にするのも悪くない。
どうせ確たる根拠のある日付ではないのだし、与えることがこの日の本質。

「そう。じゃあそのお祝いに、不思議な杏Z、いるかい?」
その子は非常に胡散臭そうな顔をしたけど、素直に手を伸ばしてきた。
「まあ今日のところはもらっといてやるぜ。ありがとな」

照れているのは私かもしれなかった。私はぽんと手を叩き、まるで今思い出したかのように言うのだ。
「・・・そうだ、忘れていたよ。所々ほつれていてちょっとぶかぶかな新しい帽子、ありがとう」
「うるせー!つべこべ言わずに黙ってもらっとけ!」
雷震子は顔を真っ赤にして怒鳴る。出来がいいから貰って嬉しい、ってものでもないことぐらい君もわかっているだろうに。

何を贈ったからって相手が喜ぶかどうかはわからず、喜んでくれたときだってそれが何故なのかはやっぱりわからない。それでもこの日、人は何かを与えようとするのだ。
まったく不可解だねぇと、結局のところ不思議な杏Zを手渡しながら私は思った。



短く短く書きたかったんですが。まあ、どうにか?
実はリクエストのお題→クリスマスが入り込み天化が語り手になりえずに中断。
単にイロモノ+天化+α のクリスマス→長すぎてクリスマスに間に合いそうになく放棄。
こうなったらとにかくクリスマス、でこの結果。
ちゃんと(?)クリスマスしてそうだといちばん思ったのがここの師弟でした。

「日付に根拠がない」は「キリストの誕生日かどうか不明」くらいの意味で。
しかし、今回嘘報告を書き上げる余裕はないようです(^_^;)。
もちろん、そもそもからして嘘でございます。

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