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怒涛のヒーロー Mr.BP

第0話 「裕子 ヒロインになる」


「はぁ…、なかなかいいバイトないなー。」
 この春、大学生になったばかりの裕子はアルバイト情報誌をめくりながらため息をついていた。



 裕子の家庭は決して裕福ではない。
 実家から遠く離れた私立大学にしか合格できなかったため、実家は破綻寸前の財政状況である。
 そのため、アパート代や食費もろもろの生活費は自分で稼ぐことを条件に、大学に行かせてもらっているのである。

「働く時間が短くてー、アパートから近くてー、もちろん給料よくってー…」
 などとムシのいい独り言をつぶやきながらページをめくっている。
 初めてのバイト探しなので、初めはこうした贅沢な条件を満たすアルバイトを本気で探していたのだが、情報誌の終りに近づくにつれ、現実はそう甘くないことを認識しつつあった。
「ん?なんだこりゃ。」
 条件を修正しまた最初から探さなくてはと思い始めたとき、一つの紹介記事に目が止まった。

 募集者  ) 18〜25歳の女性
 仕事内容) 簡単なアシスタント業務(資格・経験問わず)
 給   料) 一回の業務につき30,000円
 勤務時間) 毎週土曜日 17:00〜17:30
 連絡先  ) 有限会社 秘密研究所

「3万円!?」
 他のバイトとは給料の桁が違う。さらに勤務時間も僅かだし、週末の夕方なので講義の妨げにもならない。この情報が正しければひと月に12万円も稼げることになる。それにしても…。
「怪しいかも…」
 さすがに世間知らずの裕子もそう思った。
「だいたいなんなのよ、このいいかげんな社名は。」
 風俗系ではあるまいなとも思ったりしたが、仮にまともな仕事なら大学生活を犠牲にせずに生活費も十分に稼げる。
 少し悩んだが、無謀にもとりあえず詳細を聴きに行ってみることにした。


 街中のとある雑居ビルの5階に上がり奥のドアを見ると、「有限会社 秘密研究所」と書かれた表札がついている。
「ほんとにあったのか、こんな会社…」
 裕子は扉の前で一瞬躊躇したが、思い切ってノックした。
 「開いてるよー。」と中から声がした。
 扉を開けると、部屋の中には訳の分からない機械が並べてあり、その奥に一人、年配の男が座っている。



 部屋の様子を見る限りでは風俗系の会社ではないと推測できるが、怪しい印象にはさらに拍車がかかった。
「バイト志望の子だね? まあ、お掛けなさい。」
 言われた通り男の前にある椅子に腰掛ける。
「あの…」
「ふむ、わしのことは博士と呼びたまえ。」
「博士?じゃあ、あの、博士…」
「わかっている、まず仕事の内容を詳しく知りたいのであろう?」
「あ、はい。」
「説明しよう。最近謎のメカモンスターが現れ悪事の限りを尽くしていることは知っておるな?」
「はい。なぜか毎週土曜日になると現れるやたら迷惑なやつですよね?」
「さらに、謎のヒーローが登場しそのモンスターどもを駆逐していることも知っているな?」
「はい。マスクかぶった、なんとなく古くさいデザインのヒーローですね?」



「うむ、彼の名はMr.ブラボー・パーフェクト、通称Mr.BPと呼ばれている正義の味方だ。実は彼は我が社に所属しておる。そして君の仕事は彼をサポートをするというものなのだ!」
「うそっ!!」
 信じられない。実在するヒーローとして脚光を集め、今や○゚・ヨンジュンよりも有名なあのMr.BPのアシスタントにならないかと言うのである。
 つまり、これまた実在するヒロインとして一躍有名になれる恐らく最初で最期のチャンスである。
 裕子は有名になって、どこかの芸能プロダクションにスカウトされて、永遠のアイドルなどと言われて、もてはやされる自分の姿を勝手に想像していたが、ハッと我に戻った。
「…それってすごく危険な仕事のような気がするんですけど。」
「心配ない。」
「あたし、運動苦手だし、力も全然ないですよ?」
「問題ない。実はMr.BPも普通の人とさほど変わりはないのだ。」
「え?」
「彼が身に着けている衣装はわしが開発したパワードスーツで、これを着れば強力なパワーと強固な耐久力が備わり、誰でも安全にモンスターと戦えるのだ。」
 たしかに、Mr.BPの強さは超人的であり、人間がいくらトレーニングを積んだとしてもあのような力が身につくとは思えない。
「あたしなんかでも強くなれるんですか?」
「もちろん。」
「毎週土曜日に戦って3万円?」
「その通り。」
「ほんとに安全?」
「保障しよう。」
「あたし、やります!」
「うむ、よく言った。それでは、契約の前に適正検査をするとしよう。」
「適正検査?」
「そう。検査といっても君の健康状態その他をみるだけの簡単なものだよ。」
「はぁ。」
「では、服めくっておなか出して。」
「えぇ!?」
「大事なことなのだ。イヤならこの話はなかったことに。」
「や、やります…。」
 こんなおいしい仕事は滅多にあるものではない。
 初対面の人に腹を晒すのは少々恥ずかしいがここは我慢して素直に従うしかない。
 裕子は服をまくり上げると、柔らかそうな腹があらわになった。
「うーむ、なかなかよいぞ。」
 博士は裕子の腹に手を当て、ペタペタとさわりだした。



 博士は「ふむふむ」などと言いながら裕子の腹をさすったり揉んだりしている。
「うん、適正は申し分ない。」
「(今ので何の適正がわかったんだろう…)」
「それではこの契約書にサインしてもらおうか。」
 裕子はペンを取り契約書にサインした。
「これでめでたく契約成立だな。では早速裕子君にこれを支給しよう。」
「?」
手渡されたのは一見なんの変哲もない携帯電話であった。
「この携帯で変身するのだ。」
「すごい!ほんとにヒーローみたい!!それでどうやるんですか?」
「iモードからhttp://www.mrbp.comにアクセスし、トップページの [ 変身しますか? ] の問いに対して [ はい ] を選択するのだ。」
「は?」
「さすれば、当研究所から電子分解されたパワードスーツが電波にのってNTTの中継基地を経由し携帯に転送され、携帯内部の特殊コンバーターがスーツの分子構造を解析し、実体に還元し、裕子君に装着されるというわけだ。」
「なんだかよくわからなかったけど、やってみていい?」
「やるがよい。」
「よーし。」
 言われた通りに携帯から指定のホームページを開き、「はい」を選択。
 すると、体の周りに光が集まりだし、次の瞬間体全体が強烈な光に覆われた。
 やがて、光が弱まり裕子の姿が再び見え始める。
「うわっ!!何これ!」



 裕子にとってかなり予想外のスーツであった。
 太ももや腹部がモロに露出し、布地も薄く、パワードスーツと呼ぶにはあまりにも心細い。
 頑丈そうな部分と言えばヒジとヒザだけではないか。
「スーツってこれで全部?」
「完璧だ。」
「こ、このカッコで戦うんですか?」
「そうだ。」
「なんで体操服…。しかもすごくちっちゃいし。」
「動きやすかろう。」
「なんでこんなに肌を出すんですか!?ぜんぜん安全っぽくないんですけど!」
「特殊なエネルギーフィールドで守られているから大丈夫。」
「恥ずかしいよー!!(ToT)」
「そのデザインの意味を業務内容の補足説明も兼ねて教えてあげよう。
 Mr.BPはその名の通りパーフェクトなヒーローだが、たった一つ時間にルーズであるという欠点がある。その欠点をカバーするのがアシスタントたる裕子君の役目だ。」
「ど、どうやって?」
「具体的にはMr.BPが現場に到着するまで、モンスターの攻撃を一手に引き受け周囲に被害が及ぶのを食い止める。つまり囮だ。」
「えー!!」
「さっきの検査で裕子君の腹を調べさせてもらったが、見た目にも手触りも弱点として申しぶんない。」
「じゃ、弱点?」
「その柔らかそうな腹をあえて晒し、モンスターの攻撃意欲を引き付けるのがそのスーツの狙いなのだ。」
「わざとあたしのおなかを狙わせるっての!?」
「そのとおり。」
「い、痛くないよね?」
「モンスターの攻撃は強烈だ。特殊フィールドで保護されてはいても、それなりに痛かろう。」
「簡単だし、安全だって言ったのに!」
「攻撃を受けるだけなのだから簡単だろう。それに特殊フィールドは完璧だ。死んだり大怪我するようなことは絶対にない。ま、それなりに痛いけどな。」
「やっぱり、やめます!!」
「そうはいかん。契約期間は一年間。それを途中で破棄すれば違約金100万円を支払うハメになるぞ。」
「そんなこと契約書のどこにも書いてないでしょ!」
「甘い!この超高倍率プラズマ顕微鏡でよくみるのだ。」
 顕微鏡を覗いて愕然とした。たしかにそう書いてある。1/1000mm単位の細かい字で…。
「では今週の土曜から頼むぞ。安心しなさい。給料は約束通り払うから。」
 ハメられた…。上京して、いきなり痛烈な社会勉強をさせられてしまった裕子であった。
 報酬は約束通りというのは救いではあるが、それが割高なのか割安なのかは今度の土曜日にならないとわからなかったりする。

第0話 完


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