| ▽馴れ初め▽ |
| 「っ…う…」 硬く冷たい床の上、白い裸体がびくびくと、引き攣るように震えている。 限界まで開かされた足の間に陣取った主人の命令で、意識を失うことを許されていないのだ。 頭に残るヘッドドレスと太腿までのニーソックスが、横たわる彼女がかろうじて身に付けているもの。 絶頂をやり過ごさねばならない辛さにか、つぶらな瞳には涙が今にもこぼれんばかりにたまっている。 彼女の姿とは対照的に、足の間に座り込んだ初老の男は、衣服を身に着けたままであった。 好色そうな笑みを浮かべて、彼女の痴態を眺め、 「いやらしい口だ…。これだけ咥えこんでもまだ足りなさそうにしておる」 「ひっ…あ…お許しくださ…っ…ご主人様あっ」 詰め込まれた張り型を、ぐるりと内壁を抉るように動かされて、たまらずリュカは身悶える。 彼女の名前はリュカといった。十四の時に家族が離散し、色々な家屋敷でメイドとして働きながらなんとか生きてきたのだ。 一六になった年に、今の屋敷に働くことになり、屋敷の主であるヴァルゾットに目をつけられてしまい、こうして折檻じみた行為を日を置かずにされている。 身分の低いメイドのことなど見て見ぬふりなのか、他の屋敷の者はリュカに冷たかった。 …ただ一人を除いて。 「駄目ではないのであろう?ほれ、また出てきた…」 ヴァルゾットの指が、いっぱいに頬張らされた肉の周りを動くたびに濡れた音がするのだから、それは間違い無いのだろう。 受け入れる限界だと思っていたのよりも更に太い、雄を象った張り型は、リュカの中でまざまざとした感触を主張する。 少しでもそこに力をいれると飲み込まされているものの形と冷たさを感じて、泣きたくなる。 ふと、今までと違う動きをみせた主の指が、何をしようとしているかを悟り、リュカは慌てて制止の声をあげた。 「やっ…ご主人様…何を…っっ」 「ここはまだ物欲しそうであろう?」 言うなり、ヴァルゾットは己が指を強引にリュカの中にねじ込んだ。 「いっ…やあああっ…」 赤い紐で拘束された手首は頭上でまとめられ、物理的な抵抗一つできはしない。 ずくんと、太い指を奥まで受け入れさせられたのと同時、悲鳴をあげてリュカは意識を失った。 うっすらとした茂みから垣間見える黒光りする物体が、充血したリュカの秘肉の色と卑猥なコントラストをなしている。 忌々しげに舌打ちしたヴァルゾットは、 「フン、まだ締め付けているではないか…。起きろ、この淫乱!」 「あうっ…」 と、無意識への逃亡も許さず、頬を張り、リュカを無理矢理引きずり起こした。さらに、 「誰か、ゲイルをこれへ!」 と、家人を呼ぶ。 今度こそリュカから血の気が引いた。 ゲイルはこの家に仕える執事である。ここに引き取られてきた時に、リュカに優しくしてくれた唯一の人間だ。 その彼に、こんなところは見せたくない…、いや、見られたくない。 意識が戻ってきたことで、再びリュカの中に収まっているものがリュカを快楽へと苛む。 ただ、中にあるだけで、性感を刺激されるのだ。 快楽と羞恥の狭間で、凍りつきそうなほどに長い時間が経ったような気がしだした頃、ノックの音とともに慇懃な態度でゲイルが主の部屋へと入ってきた。 「お呼びに従い参りました、ヴァルゾット様」 「おお、流石に早いな」 「有難うございます」 「それの始末を頼もうかとな」 くいとしゃくった顎の先には、あられもないかっこうでうずくまるリュカがいた。が、ゲイルは、特に表情も変えることなく疑問を呈することも無く、淡々とヴァルゾットに向かって一礼した。 「畏まりました」 ゆったりとしながら律動はきびきびと、執事らしい動作でゲイルは着衣はヘッドドレスとニーソックスのみのリュカへと向かった。 「や…」 「足を開きなさい」 「……っ」 言葉もなくただふるふると首を横に振るリュカに、ヴァルゾットが忌々しげに舌を打つ。 「フン。まあいい。明日までに使い物になるようにしておけ」 「はっ。畏まりました。」 「今日はこれで許してやろう」 「うっ…ひっく」 捨て台詞を残してヴァルゾットが他の女を渉猟しに部屋を出て行ったのを機に、リュカのつぶらな明るい茶色の目から大粒の涙がこぼれ出る。 くしゃりと歪んだ表情は、庇護欲をかき立てられるような痛々しさを伴ってゲイルへと届く。 その涙は感情の昂ぶりの所為というよりは、開放されたことへの安堵からくるものであろうと、ゲイルは、彼女が落ち着くまでその傍らで佇んでいた。 嗚咽が止んだのを見計らって、殊更事務的に宣言する。 「服装を整えたら来なさい、リュカ」 「あ、はい。ゲイル様」 涙を拭ってリュカはこの屋敷の執事である五歳年上の青年に頷いた。 この館の主であるヴァルゾットは嗜虐的な性癖を持っており、一番の新米でとびきりの美人であるリュカを呼び出しては彼女をいたぶるように弄ぶのが常だった。 今日も、テーブルの拭き方が悪いといって執拗にいたぶられたのだ。 この家は傾きかけているというのに、当の本人は全く気にせず栄華を誇っていた頃の暮らしを止めようとはしない。 男としての盛りも過ぎたというのにむしろ、その行状は輪をかけて悪くなっている。 「リュカ、」 執事に与えられた広い私室に初めて足を踏み入れたリュカは、ヴァルゾットが触れてくるときのように、延ばされた手に反射的にぴくんと体を揺らし、目をきつく閉じた。 だが、ゲイルの両手はリュカに無体を働くのではなく、柔らかい彼女の頬をそっと包み込むだけで、決して乱暴なことはしなかった。 「ゲイル…様?」 「…リュカ。随分ひどい目に合っているんだな」 痛ましそうに言われ、止んだ筈のなみだがまたぽろりと零れた。 「マ、ゲイルさま?」 言葉を忘れてしまったかのように、ただ、執事の名を呼ぶことしかできないリュカに、彼は優しく涙の道筋に合わせて指で頬を辿る。 体温の低いゲイルの指に、先ほど撲たれて熱を持ったところが癒されるようだった。 意を決するように濡れた睫を上げて、おずおずとゲイルと視線を絡める。 闇色だとばかり思っていた彼の眼だが、近くで見ると、藍を含んでいた。 慰撫の手があまりに心地よくて、顔を上げたまま、ふわりと長い睫を合わせる。 視覚を塞げばいっそう、ゲイルの体温が近く感じられた。 「リュカ…」 何か、緊張を孕んだ声に促されて再び目をあけると、いやに真剣な面持ちのゲイルがじっとリュカを見つめていた。 「はい…」 頷けば、執事の青年はリュカと目線を合わせるように屈み、ゆっくりと言い聞かせるように言葉を紡いだ。 「リュカ…俺は、前からお前のことが好きだった」 「え…!?」 驚きに言葉も無いリュカに、 「済まない、ずっと黙っていて。だが…リュカ!?」 今まで秘めていた胸の裡を話そうと口を開くより先、ゲイルの言葉はリュカの溢れて止まらない涙の前に途切れた。表情もなくただ静かに流れる涙。漸くリュカが自分でそれを拭い、震える声で 「わ、わたしはあの方の手が、声が貴方のものだったらと。それだけを思って…あの方に…」 「済まないリュカ。俺に勇気がないばかりに」 「いい。ゲイルさまが私のこと嫌いじゃないって解っただけで」 健気な表情で言われた言葉に、体中に広がった罪悪感が消えていくような気がした。 「リュカ、さまはいらない…俺の名を呼んでくれないか?」 頬だけに触れていた大きな手が項と腰に回り、リュカは逞しい胸の中に抱き寄せられた。 「ゲイルっ!ゲイルっっ!!」 涙を浮かべたまま、リュカは彼の首に白い腕を巻き付かせて肩口に顔を埋め、整髪料のすっきりとした香りを胸一杯に吸い込んだ。 抱きしめ返してくれる力強い腕に、泣きそうな安堵を覚える。 一方のゲイルは、大方ヴァルゾットの命令なのであろうが、下着を着ずにメイド服を着ているらしく、みかけよりもふっくらと柔らかいリュカの胸が体にあたり、気が気でなかった。 「リュカ…」 「え?…あっ!」 ゲイルに抱きついてから漸く己の恰好を思い出したらしい。 頬を染めて顔を背け、じたばたと腕の檻から逃げようともがいている。 そんなリュカの柳腰を捕らえて離さず、ゲイルは細い体を抱きしめた。 「リュカ…好きだ…」 「んっ…わたし…も」 先ほどのむちゃくちゃな扱いの所為で、心とは関係なく高まってしまっている身体を抱きしめられ、それだけでリュカは艶のある吐息を漏らした。 髪を撫で、頬を辿り、顎にかけた手でそっと仰のかせたリュカの唇にそっと己のを重ねる。 啄ばむように触れれば、長い亜麻色の睫が再び伏せられて、赤い唇が薄く開いた。 リュカに今度は深く、唇を合わせる。 ゲイルのスーツにしがみついてゲイルが仕掛けてくる舌の遊戯に必死に応えようとする拙い動きが愛しくて、 窒息しそうなほどの時間をリュカとのキスに費やした。 「…っは…あ…ゲイル…」 「リュカ…いいか?」 くたりと力の抜けたからだを抱きとめて、甘い香りのする肩口に顔を埋めて問えば、言葉ではなく、背中へと回った手にこもった力が頷きを返した。 背後にあるボタンの列を背骨の辺りまで外して手を差し入れれば、遮るものもなく吸い付くようにしっとりとした感触の肌に触れた。まるで、内側から光り輝くように白い肌は、うっすらと上気していて、 「ゲイルっ…やっ」 まだ何もしていないのに赤くつんと尖っている胸の色づきを指で摘めば見る間に肌が紅潮した。 手の中にちょうどおさまるサイズの胸をやんわりとしだき、 「本当に嫌か?」 と聞きながら体を密着させれば、リュカにゲイルの状態が伝わったらしく、顔が真っ赤になる。 「やだ…なんでっ」 「お前に漸く触れられたんだ、仕方あるまい?」 恥じるどころか開き直ったゲイルはさらにボタンを暴き、脇腹から大胆にリュカの茂みの前を素通りし、太腿へと手を這わせた。俯いた彼女の表情を伺うことは出来ないが、嫌がらないのは受け入れてくれている証と都合良く解釈し、ゲイルはリュカの一番敏感な所に触れようと、手を潜り込ませた。 「やんっ」 内股をなぞり上げれば悲鳴のような声があがる。そこはもはやぐっしょりと濡れてゲイルの指を待ち兼ねていた。 「濡れているな、リュカ」 「あっ…ごめんなさい」 震えるリュカからドレスを剥いで、輝かんばかりに白い裸体をあらわにする。 柔らかそうな太腿に食い込んでいるガーターだけが残り、何とも煽情的な有様となった。 「これもヴァルゾット様の命令なのか?」 「は、はい。いつでも…その」 口にはしたくなかったのであろう、見る間に泣き出しそうになるリュカの口を、啄ばんで噤ませる。 「その後は言わなくていい…そこへかけて」 「はい」 「足を開いて…」 「は…い」 恥ずかしそうにおずおずと執務机の椅子に座った彼女の足を少々強引に開かせる。 すると、先ほどまでどんな扱いをされていたのか、リュカの秘肉は真っ赤に充血していた。 「腫れているな」 リュカを座らせた椅子の下に跪いて、痛々しいほどに膨らみきって勃ち上がっていたそこを舌の先であやすように触れれば、ゲイルの首がリュカの両腿に挟み込まれた。 「あ…んっ…」 声と共に、柔らかい内腿に力が入ってきゅうと締め付けられる。抱きしめられているような感触がたまらない。 だが、そのことで、リュカもまたゲイルの短髪が太腿に刺さり、なんともいえない刺激へと変わっていた。 「マ…イクロト…フ…あ…ぁ…っ」 含羞の声は、雄を高まらせるに十分の媚態である。 秘肉から柔らかい内腿にかけて、ぴちゃぴちゃと音を立てて舌で辿ると、感極まったリュカの体がぴくりと跳ねた。 「リュカ…好きだ…」 「んっ…ゲイル…わたしも…っ」 椅子に座らせたリュカを抱きしめれば、抱きしめ返してくれる。 甘そうな色をした唇にそっと二度目のキスを仕掛ければ、さっきよりも深く合わさって、白いおとがいに唾液がつたった。 「いい…か?」 何を、とは聞かずそっと顔を伏せて頷く様子は、初恋を叶えた女の子そのものといった風情で、ヴァルゾットに弄ばれていたとは到底思えないほど清らかに思えた。 体をどうされようとも心までは渡さなかったのだろう。 いじらしいまでに潔癖だ。 「えっ…あっ…」 腕の中で頬を染めるリュカを姫抱きにして、彼女を寝台の上へと運ぶ。 敷布の上に羽毛を扱うかのような鄭重さで彼女を下ろすと、所在無さそうに身を縮めてうろうろと視線をさまよわせていた。 優しく扱われたことがなかったのだろうと推測させるに十分な、 態度に、ゲイルは彼女を大切にしようと心の中で誓った。 手早く己のスーツを脱いで、ベッドの上に待たせていたリュカの上にそっと覆い被さる。 「好きだ…リュカ…」 「はい、私もです」 幸せそうな笑みが合図であったかのように、ゲイルは、リュカへの甘い侵略を再開した。 「んっ…あ…あっ…」 「くっ…」 最後とばかりに締め付けてきたリュカの内壁に耐え切れず、ゲイルは彼女の中に熱を放った。 熱くて、きつくて、まるで天国のようだった。 ゲイルの胸に額を預け、薄い胸を上下させて、呼吸を整えているリュカに、そっと唇を落とす。 「大丈夫か?」 無理はさせないように、と心がけていたのだが、リュカの見せる艶めいた反応につい、思いのままに彼女を貪ってしまったのだ。 「平気…ゲイルだから…」 ちょっとだけ掠れたリュカの声が、胸板に直接響く。 執事とはいえ、鍛え上げられた逞しい体つきのゲイルにとっては、リュカを己が腹の上にのせたままでも一向構う様子はなかった。 「うれしいことを言ってくれるな。なあ…リュカ…」 初めての情の通い合う行為に、泣き出しそうなほどの幸せをかみ締めていたリュカの耳に、先ほどまでの甘く、雄の猛々しさよりも、もっと真摯な響きを持ったゲイルの声が届いた。 「はい?」 「仮定なんだが…」 そういって、ひそりと耳打ちされたのは、事後の気だるさとは無縁の内容で。 それでも、リュカはゲイルの言ったことに頷いた。 愛されることの喜びを知ったリュカの美貌は、いっそう磨きがかかり、ただ軽く笑うだけで、ゲイルがドキリとするぐらいに美しく、そして愛らしかった。 ――半年後―― 「本当に良かったと思うか?」 「だって、ゲイル様が言ったことでしょう?『俺はあいつからこの屋敷を奪い取る』って」 そう。 ヴァルゾットのあまりに過ぎた振る舞いに耐えかねていたのはゲイルだけではなかったようだ。 ゲイルの翻意に従わなかったのはヴァルゾットと一部の人間だけ。 その事実からも、余程忌まれていたのか、と。新参者のリュカにはそれくらいの感慨しかない。 それよりも驚いたのは、ゲイルが家人を全て解雇してしまったことだ。 あれよあれよという間に、この屋敷からは人がいなくなり、結局はゲイルとリュカしかいなくなってしまった。 「お前の仕事を増やしてしまったかな?」 「そんなことはないですけど…これからはゲイルのことを『ご主人様』って呼ばないといけませんね」 にこり、と笑ったリュカに、ゲイルはそれはそれは嬉しそうな顔で首肯したのだ。 「じゃあ…、早速呼んでもらおうか」 「んむっ 」 部屋に備え付けの呼び鈴で私室へ呼び寄せたリュカの化粧などしなくても十分に可愛らしい唇を強引に奪う。 「んっ…ごしゅ…じんさ…ま…朝から…っ…」 折角きちんと着たメイド服を脱がされることにも不満があるらしいリュカの口の中をまさぐると同時に、すべすべとしたさわり心地の背中へと手を這わせ、手の中に収まる小振りな胸を隠す下着の金具を外そうと指を動かす。 「朝だからかな?朝食代わりにお前を頂こうか…リュカ?」 「馬鹿あ…っっ」 かくして、メイドなリュカさんと、ご主人様なゲイルさんは幸せに暮らしたそうな…。 《完》 |
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