クロイハナとナナシネコ。


 都会の隅に一輪の黒い花が咲いていました。
 とても、可哀想に泣きながら咲いていました。
 その花の影を猫が踏みました。
 その猫には表情がありませんでした。
 都会の荒んだ風に当たり、とても衰弱していました。
 歩く姿も見るも無惨で、片足引きずっていました。
 そんな猫は黒い花を見つめていました。
 「ボクを見てて何が楽しいんだい?」
 黒い花が猫に話かけます。その度に猫の耳はピクンと動きます。
 「いや、別に楽しくて見てるわけじゃないんだよ」
 そう猫は俯いて弱々しく答えました。
 「そこにいると風邪引いちゃうよ」
 黒い花は心配そうに言いました。
 「ボクの事はどうでもいいんだ。ただ、君の事が心配で…」
 猫がそう言うと、黒い花はキョトンとしました。
 「どうして?」
 「え?だって泣いてるじゃないか。」
 すると、黒い花はクスクスと笑い始めました。
 「なんで笑ってるの?」
 「ううん。ただ雨に濡れてそう見えるだけだよ」
 「あ…ごめん…」
 「気にしないで。心配してくれてありがとう」
 猫は赤くなりました。
 「こちらこそ」
 猫は初めて「ありがとう」って言われました。それがとてもうれしかったのです。
 「じゃあね」と猫は言ってこの場を去りました。
 黒い花はとてもうれしかった。嘘をついてしまったけど、みにくい姿の自分に話しかけてくれたからです。
 「じゃあね」と黒い花は小さく呟きました。
 

                                         2003 5/26 モトロク。




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