「リズムに乗るぜ♪」


テニスコートから聞こえてくる声。
毎日毎日――。

絶対コイツ、神尾アキラって　バカだと思う。

Crazy for?

「ちゃん、お願いッッ！！」
「イヤ」
「マジ頼む！今度なんか奢るからさ！！」
「その台詞聞き飽きた。まだ1回も奢ってもらってないから」
「う…」


あたしの目の前で両手を合わせているのはクラスメイトの神尾アキラ。

今日は部活に行きたいから残りの日直の仕事をやって欲しいとのことだった。
そんなこと言っても日直の仕事は意外に多い。

確かにあたしは帰宅部だけど、ここですんなり受け入れてあげるほど、あたしはお人好しじゃないのよ、神尾クン。


「とにかく！いい、このリズムバカ！」
「リ…！」
「やって欲しいなら1000円払いなさい」
「ええっ！！？」
「あ、今までのツケが溜まってるから7000円」
「お、俺いつのまに6回も頼んだ！？」
「利子よ。当然でしょ」
「………」


神尾は奈落の底に突き落とされたような顔になった。


「勘弁してよ、ちゃ〜ん…。あっ、じゃぁ俺とデート7回で手を打とうぜ！」
「…はぁ！？冗談でしょ！？」
「アレ？駄目？じゃぁ〜、キス7回ってのでいこうぜ！」
「…ちょ、えっ！？ななななな何言ってんのよバカッ！」

あたしは不本意にも赤面してしまった。
そんなあたしの表情の変化を、神尾は見逃さない。


「あれー？なに、ちゃん　照れてんの？」

神尾は面白そうにあたしの顔を覗き込んでくる。

「て、照れてないっ！！だっ大体、あんたは杏ちゃんが好きなんでしょ！」


そう言った次の瞬間、



ちゅっ



神尾がキスしてきた。


「俺、ちゃんの事すげぇ好きなんだけどなー。…もしかしてヤキモチ焼いてくれてた？」
「…っバカ！！出てけ！バカぁ！！！」


あたしがぐいぐいと押し返すと、神尾はニヤニヤ笑いながら教室を出て行った。
――神尾の姿が見えなくなって、あたしはそこでハッとした。



「……日直…！！！」



神尾アキラ。
彼がただのリズムバカではないと知った瞬間。

そういえばこんなのあったなあ…。
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