あの日あの場所でキスをしたこと、あなたは覚えているだろうか。
まだあたしたちがとても小さかった頃。
ガラス越しの・・・
「俺、真選組にならァ」
すべてはその一言から始まった。
「総ちゃん、・・・ホントに?」
真選組って、危ないんだよ。
死んじゃうかもしれないんだよ。
半泣きになってそう言ったのを覚えてる。
「何言ってんでィ。俺は死なねェよ」
あなたは、自信たっぷりにそう答えた。
それでもあたしは不安でたまらなくて、やだやだと首を振った。
「俺の言葉が信じらんねェのかィ?」
「だって、総ちゃん嘘つきだもん」
あたしがポロポロと涙をこぼしながら言うと、あなたは少し困った顔をしたね。
「じゃあ、誓いのキスしよ」
思いがけない台詞に、あたしは驚いて顔をあげた。
「だ、だめ!!」
慌てて制すると、指の隙間から不服そうな顔が覗いた。
「なんで」
「そうゆうのは、ケッコンする人とじゃないとしちゃダメって、お母さんがゆってたもん」
「…しょうがねェなァ」
お前の母ちゃん怖いからなァと言って、あなたはあたしの手を引いた。
連れてこられたのは、廃墟。
もとい、あたしたちの秘密基地。
元は立派なビルだったらしいが、今ではビルの外観すら分からない。
そんな廃墟に、一つだけ綺麗に残っているガラス窓があった。
何年も前の物のはずなのに、いつも磨かれた直後のようにピカピカだった。
このビルを初めて見つけたときから、このガラスはあたしたちの宝物になった。
「これなら良いだろィ」
見ると、ガラスを挟んだ向こう側にあなたは立っていた。
「ホラ、も顔近づけろィ」
ガラスに吸い込まれるようにして、あたしは顔を近づけた。
強く強く、目を瞑って。
ガツンッ
「あいたっ」
「…何やってんでェ」
顔を上げると、そこには呆れた顔の『総ちゃん』が見えた。
ココは、喫茶店…?
…そっか、今日は総悟が非番だから、遊びに出かけてきたんだ。
「歯にグラスぶつけるか?フツー」
「えっ。あぁ、うん…ボーッとしてた」
あたしが呆けて答えると、総悟はおかしそうに笑いだした。
「、変わんねェなァ」
「え?」
「あん時も、ガラスに歯ぶつけてたろィ」
必死に笑いをこらえる総悟を見て、あたしは赤面した。
「…覚えてたの?」
「忘れられるかィ、あんな面白ェこと」
「…っもう!」
席を立ち上がって向かいに座る総悟を殴ろうとしたら、その手を逆に捕まれてしまった。
「もう、子供じゃねェんだから、ガラス越しじゃなくたって良いだろィ」
そうして、奪われた唇。
初めて触れたあなたの唇は、性格とは裏腹で とても温かかった。