恋愛なんて馬鹿げている。



そう思うようになったのはいつからだったろう。

嫌い

「ごめんなさい」
「そ、そんな…さん」
「あなたの事、そういう風には見られない」
「こ、これから変わるかもしれないじゃないか。試しに、ちょっと付き合ってみようよ、ね?」






あぁ………。




うざい。うざすぎる。



恋愛なんかしたくないって思っている時ほど言い寄ってくる奴が居るのはどうしてなのか。
でもそんな事口に出す訳にはいかない。


何故って?



あたし、学校では才色兼備を演じているから。




「…試しに付き合って、今の関係が崩れるのは嫌なの。あなたとは、今のままの付き合いをしていきたい。…大好きだから」


男はあたしのこの一言に感動したようだった。


「…さんの気持ちはよく分かったよ。でも、キミを好きな気持ちは変わらないから」
「…ありがとう」


そう言ってあたしがにっこり笑うと、男のほうもちょっとだけ笑い、そして去っていった。







………ばっかじゃないの。

ぬぁーにが『キミを好きな気持ちは変わらない』よ。
男ならスッパリ諦めろっての!!






ちゃん」
「!!!!」

突然後ろから声を掛けられ、あたしはぎくりとした。

まずい、仏頂面をしていたのを誰かに見られた?


悟られないように慌てて顔を元に戻し、あたしは凛とした表情で声のしたほうを向いた。


……げ。


壁から顔を出して、にこっと笑いかけてきたのは、千石清純。
あたしが最も苦手とする男。


一体いつから居たのだろう。大方昼寝でもしていたのだろうけど。



「相変わらずモテるねー。あいつF組の秀才クンでしょ?」
「…そう、ね」


あの人の事を秀才なんて思ったことないから、なんて反応して良いか分からずにあたしは口ごもった。



「…ねぇ、ちゃん」
「え?」

千石は校舎の壁にもたれかかり、ゆっくりと口を開いた。


「もし俺がちゃんに告白したら、俺もああいうフラレ方するのかな」



………。


何を言っているのだろう、この男は。



「そんなの分からないわ。大体千石君が私に告白なんてありえないじゃない」

あたしは少し困った顔をして笑って見せた。


「そうでもないかもよ?俺ちゃんの事気に入ってるし」


千石が突然真面目な顔つきになったのであたしの動作が一瞬鈍り、左手首を掴まれるのを回避することが出来なかった。


「せ、千石君…痛い。放して」
「嫌って言ったら?」
「…なっ……!!!!」


突然、千石が手の甲にキスしてきた。
一瞬にして頭にカッと血が上り、気付いたら 右手で千石の頬を思いっきり殴っていた。


「ちょ…ッ信じらんない、何すんのよ!!!」
「何ってキス…。生半可なアピールじゃちゃんは振り向いてくれなさそうだからね」

千石は赤くなった頬をさすりながら苦笑している。




ば…


「ばかじゃないの!?あたしにとってね、恋愛なんてくだらないし、この先何言われても誰とも付き合う気もないし、何より!!」


あたしは力いっぱい千石を指差して、言った。


「あんたみたいな尻軽男、大ッッッ嫌いなの!」


あたしはそう言い放つとダッシュでその場を離れた。











……やってしまった。
三年間で積み上げてきたものがよりによって大嫌いな奴に崩されるなんて!!!

千石はあたしの本性をみんなに言いふらすだろう。
千石の言うことを、どれだけ周りが信じるかは分からない。
でも、あたしが動きにくくなるのは事実なわけで。

あたしだって人間だから、人に軽蔑されるのは、怖い。



…そう、思っていた。




でも、三日たっても周りの態度はさほど変わった様子もなく、皆がいつもの通り あたしを信用しきっていた。

千石の奴、何考えてるんだろ。











「千石君いる?」

奴のクラスに行って 丁度近くにいた男子に声をかける。

「え、さん? よ、よりによって千石なの?」

信じられないという顔をして、男子生徒は千石を呼んだ。


ちゃん!!どうしたの?俺になんか用事??」

千石は嬉しそうにこちらに近づいてきた。

「ちょっと聞きたい事があって。時間もらえる?」
「モチロン」

千石はにこりと笑って、外にいこっか、と誘ってきた。







「…で、どうしたの?まさかみんなが噂してたみたいに、告白なんておいしいシチュエーションじゃないよねぇ?」
「そんなわけないでしょ。…どうして何も言わないのよ」
「へ?」
「こないだの事。…てっきり言いふらすかと思ってた。…幻滅したでしょ?あたしは皆が言ってる様な、立派な人間なんかじゃない」

千石はうーん、と唸って、腕を組んだ。


「別に、幻滅はしてないよ。だって俺知ってたもん。いつものちゃんは、ホントじゃないってこと」
「……え!?何で!!?」
「んー、イヤ、何となくだけど。いつもの君はホントの君じゃないんだろうなーって思ってたから」




猫かぶりを見破られたのは初めてだった。
誰だって 上辺だけのあたしで『あたし』を決め付けてた。

あたしは思いがけない展開に固まってしまった。



ちゃ〜ん?…あ、もしかして 俺に見とれちゃってる?いやぁ〜、俺ってそんなにイイ男?」

千石のその一言であたしは現実に引き戻された。


「だからッ、そういうとこが嫌いだって言ってるの!!」

あたしが怒ると千石は楽しそうに笑った。



何笑ってんのよ。
こっちはあんたにイラついてるってのに!!



「もう戻る!!」

あたしはそう言い捨ててその場を逃げ去った。







もう もう もう!!!
なんなのよあの男!!




教室に戻ってからもイライラはおさまらず、家に帰ってからも千石のことが頭から離れなかった。
あまりの気持ちの昂りにそのまま一睡も出来ず、気が付いたら窓の外が明るかった。





身体がだるい。
でも、学校は行かなくちゃ。


フラフラの身体を何とか支えて学校の敷地内に入っていくと、後ろから衝撃を受けた。


ちゃん、オハヨ!!」
「千石…何抱きついてんのよ」

ボソリと呟くと、千石はえっと驚いた顔をした。
普段表に出す喋り方でなかったのだから無理もない。


ちゃん…どうかしたの?」
「良いから放して…」


ぐい、と千石を押しやると同時に、あたしの目の前が真っ白になった。













夢を見た。
初めて男の子に告白された時の夢。

クラスが違ったけど、行動が派手な人だったのでよく目立っていて、よく知られていた。

憧れだった。


その憧れの人に告白されて、もちろんその場でOKした。



でも数日後、それを知った周りの女友達から猛反対された。
話を聞いてみると、彼は色んな人に告白しまくっていたらしい。

あたしと同じクラスの友達だけで、告白された子は五人ほどいた。


でも、あたしは彼を信じた。信じたかった。
好きになる人は変わっていくものだと、そう考えた。


当時仲の良かった男友達も、あたしを心配してくれた。

(本当に好きでいてくれてる?を、大切にしてくれてるの?)

ハッキリとは言わなかったけど、遊ばれてるんじゃないのって事も言われた。
彼は、そんな人じゃないと そう言った。そう信じてた。


それでもその子は心配してくれて、直接彼に聞くまでした。
彼の答えはこうだった。



(だって 彼女はいた方がいいじゃん。 『彼女』ってさ、言っちまえば男のブランドだろ。さんはそこそこ人気あるし、良いかなって)



その友達は、その場で彼を殴った。



その日に、あたしは彼に別れてくれと言われた。

友達は、何度もあたしにごめんと謝った。
あたしは笑って 気にしないでと言った。

半分は 自分に対する言葉だった。
哀しくて、切なくて、胸が苦しかった自分自身への保身の言葉。


そして もう恋はするまいと決めた。



…そうだ、あの日から あたしは――…















「…あ、ちゃん、気が付いた?」

うっすらと目を開けると、千石の顔が見えた。


「突然倒れるからびっくりしたよー!貧血だってさ。最近寝てなかったんじゃない?
あ、まだ起きちゃ…」
「平気」

ベッドに押し戻そうとする千石の手を押し返す。


「…ずっとここにいたの?」
「うん」

あたしはきゅっと唇を噛んだ。



…やめてよ。

優しく、しないで。



「…どうして?」
「え?」
「あたし、二回も千石の事嫌いって言ったんだよ。なんで、そんな普通にしていられるの?」


千石はきょとんとしてあたしを見た。
そして、ちょっと寂しそうに笑った。


ちゃんは、自分では分かってないんだね」
「…何を?」
ちゃんの『嫌い』には棘がないから、言われてもあんま堪えないんだよね。寧ろ、俺にだけそういう反応してくれるのが、嬉しい」


千石は照れくさそうに笑った。
あたしは更に唇をかみ締めた。



…悔しい。

こんな奴に、心を動かされようとしているのが、とてつもなく悔しい。





「…別に、特別とかじゃないし」

千石は一瞬驚いた顔をして、柔らかく笑った。

「うん」
「…あんたの事ばっか考えちゃうのも、うざいからだし」
「うん」
「また…恋がしたいなんて…思ってないし…ッ」
「…うん」


涙がボロボロと出てきた。


あたし、何で泣いてるんだろう。



千石は、無言であたしの頭を引き寄せた。
あたしは千石の胸に顔をうずめて肩を震わせていた。


「あんたなんて…大っ嫌い」

そう言うと千石は、ハハと笑った。

「俺も、大好きだよ」
「…あたしは嫌いって言ったのに」
「いいからいいから」





…やっぱり、悔しい。


どうして、裏に隠された意味を、颯爽と奪って行っちゃうんだろう。




捕まって みようかな。


大嫌いで 大好きなあんたに。

お題元:恋愛小説が書きたいあなたに10のお題

千石には素直じゃない女の子が似合うと思う
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