何もかもが輝いて見えた、あの頃。



話し掛けることすら躊躇われて、想いが届かなくてもいいと思った。

王子様

三年のクラス替え。

が興奮して言った言葉を覚えている。


「ちょっと、あんた不二君と同じクラスじゃん!!」
「不二君?誰?」

あたしがきょとんとして答えるとは大袈裟な悲鳴を上げた。

「あんた あの不二様を知らないわけ!?顔よし、性格よし、頭もよし、スポーツ万能のテニス部の貴公子を!?」
「ふーん」
「ふーんて!!!」


…だって別に興味なかったんだもん。


初めて話をした、あの日まで。







昼休み。

特にすることもなく 教室の喧騒の中でボーっとしていた時だった。



さん」
「え、はいっ」


突然話し掛けられたものだから妙に飛び上がった返事をしてしまって。
振り返ると『不二様』がクスクスと笑っていた。


「ごめん、びっくりさせるつもりじゃなかったんだけど。職員室、先生が呼んでたよ」
「あ、ありがとう…」

どういたしまして、と言ってふわりと笑った彼に、あたしは一瞬目を奪われてしまった。


その笑顔は反則だと、そう思った。



それからだった。
あたしは怖いほどに彼に惹かれていった。

存在も知らない人だったのに。
皆が騒いでるだけ。それだけの人だって 思っていたのに。

普段、自分がどれだけ遠い存在にいるのか分かっていても。
彼が見せる笑顔は 万人に対するものだと分かっていても。


怖いくらいに。
狂おしいほどに。










、これ!!」

ある日、そう言ってが差し出したものはハート柄の紙にラッピングされた可愛らしい箱だった。

「…何なの、これ」

はちょっとエヘヘ、恥ずかしそうに笑った。

「今日さぁー、手塚君の誕生日なんだぁ。で、渡してくれない?」
「はぁ?なんてあたしが」
「だって手塚君カッコ良いけど怖いんだもん!!要らないって言われたら悲しいしさぁー」
「大体あんた、不二君はどうしたの」


はきょとんとして、きゃははと笑った。

「不二様は遠くで見てるだけの存在だよぉ。めっちゃ完璧で恐れ多いもん」


――の言葉が妙に胸に刺さった。
…恐れ多い、か。 そうなのかも。


「まぁ手塚君も遠くで見てるだけに変わりはないんだけどね。でぇ、は男子の前でも普通でいられる子だしィ、そのほうがスムーズかなあーって。…ね、お願い!!!」
「あーもう、そんなぶりっ子しなくても、分かったよ。嫌って言ってもやらせるんでしょ」
「さっすが!!じゃぁ頼んだ!!」

そう言っては駆け足で逃げていった。


…ってか もう夕方だから早く渡しに行かなきゃ。
そう思ってあたしはテニスコートへと向かった。








青学のテニスコートは広い。
練習の邪魔にならない所に立ってあたしはきょろきょろと周りを見回していた。

手塚君は意外とすぐに見つかった。
丁度今休憩をしているらしかったので、あたしは急いで手塚君の元へ走っていった。


既にいくつもプレゼントを貰っていたらしく、大して驚いた様子もなく「悪いな」と言って受け取ってくれた。

の名前を出したら、「あぁ、彼女か」と言っていた。
普通にアプローチされてたみたい。なにが「遠くから見てるだけ」だ!


それじゃあ、と言ってあたしはコートを離れ、もう一度端の方へ行き、足を止めた。


不二君は…居ないのかな。



――笑ってしまう。

さっきに言われて、諦めようって思ったところなのに。

叶わぬ恋なんてしたくないから。
こんなに一人の人に夢中になるなんて、初めてだった。





「…さん?」
「うわっ、はいっ」

びっくりして振り向くと その人は肩を震わせて笑っていた。


「ふ、不二君!?」

不二君はふふ、と笑って顔を上げた。

「いや、ごめん。…前にもこんなことあったなぁって思って」
「あ、うん…そうだった。あたしビックリしてばっかりだね」

あたしが苦笑すると不二君はにこっと笑った。


「別に、良いんじゃないかな。そういう反応、可愛いと思うよ」


ドクンッ


あたしは喜びに動き出す心臓にセーブをかけた。

危ないなぁ…。
こういうことも、みんなに言ってるのかなぁ。
ちょっと複雑。


「フォローありがとう」

あたしは あはは、と笑ってそう言った。


「そういえば、さっき手塚に渡してたのってプレゼント?」
「あぁ…うん、そうだよ」
「へぇ、手塚と仲良かったんだ」

あたしはえっと声を上げて 慌てて手を振った。

「ち、違うよっ。アレはあたしからじゃなくてあたしの友達から!」
「そうなの?」
「そうなの!」


なんだ、と言って不二君はまたにこっと笑った。


「良かった、安心した」


………え?


「あ、安心?…って、なんで…」

あたしがそう聞き返すと不二君は あ、とコートの方を見た。

「…もう練習に戻らないと。またね、さん」


クスッと、謎の微笑を残して不二君は去っていった。



…安心って、あたしがプレゼントあげなかったのが?

だって、それで安心するって、まるで…


まるで不二君が…あたしを…



え、え、えぇ!?




――この苦悩は、次の日まで続くのでした。






恋をして良かったと 初めて思えたあの日。

お題元:恋愛小説が書きたいあなたに10のお題

王子っつったら不二でしょう。
ブラウザバックでお戻りください。

Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!