ケッコンしたから何が変わったっちゅうわけでもないけど、
とりあえず、何しとる時も一緒におれるんはええなあ、と思う。
顔真っ赤にして否定されても
「旦那様のご帰還やでー」
くぁ、と欠伸をしながら後ろ手で玄関のドアを閉めると、部屋の奥からパタパタとスリッパの音が聞こえてくる。
ひょこ、と顔を出したのは最愛の妻の姿。(ええ響きや)
「謙也、おかえり」
俺の顔を確認すると、嬉しそうにこちらに歩み寄ってくる。
(ああもう、ホンマかわええなぁ)
そんな事を思いながら、の身体をぎゅっと抱きしめる。
途端に彼女の良い香りが鼻腔をくすぐり、それだけで仕事の疲れなんて吹っ飛ぶ。
「ご飯?お風呂?」
少しだけ身体を離し、じっとこちらを見つめて首を傾げる。
欲目のせいもあるかも知らんけど、ホンマにいちいちかわええ奴。
「ジブン、ゆう選択肢は無いん?」
「あ、お風呂ね、分かった」
にっこり笑ってくるりと方向転換。
初めのころはそのまま勢いで、ちゅー事もしょっちゅうやったのに。
(かわすん、うまなったなあ)
せやけど、そない簡単に逃がしたらん。
俺はリビングに戻ろうとする彼女を後ろから抱きしめた。
そのまま耳にするりと唇を近付け、軽く耳朶を噛んでやる。
「ひゃ、け、謙也?」
「なぁ、一緒に入らへん?」
俺の言葉に、が顔を真っ赤にしたんが分かった。
長いこと一緒におるのに、未だに行動に移されると弱いねんな。
まあ、その方が可愛くてええんやけど。
「や、やだ、よ」
「ええやん、俺ら新婚やで?」
が「だからって…」と口籠る。
異論なんて受付けへん。
食事でも風呂でもええけど、とりあえずと一緒におりたい。(勿論どっちかっちゅうと風呂の方がええけど)
もう一度耳を甘噛みして舌を這わせるとの身体がビクリと強張った。
そのまま耳元で囁いてやる。
「ここでするか、一緒に入るか、どっちがええ?」
が風呂を選ぶのに、そう時間は掛らんかった。
「…えっちはナシだからね」
「へいへい」
そして今。
お風呂は絶対広いやつ!というの拘りで、二人で入っても余裕のあるバスタブに浸かっている。
ただし、向かい合わせで。
触れてるんは爪先くらい。
こんなん生殺しや。
は落ち着かない様子で濁り湯に首まで隠れている。
髪先が湯の上でゆらゆらと揺れ、それが妙に色っぽく感じられた。
「…って、間違っとるわ!」
「な、なに、いきなり」
「一緒に風呂いうたら、こうやろ!」
「え、ひゃ…っ」
ぐい、との腕を引っ張りこちらに引き寄せる。
軽く抵抗する彼女を構わずくるりと方向転換させて、自分の足の間にすっぽりと収めた。
俺の手を掴んで逃げ出そうとするその小さな体をそのままぎゅっと抱き締めると、
彼女は少しだけ驚いたように動きを止めた。
湯の温度と共に、彼女自身の温度が密着した肌から伝わってきて、
それだけでこんなにも舞い上がった気持ちになれる俺は単純やと思う。
「あーもう、ほんま、めっちゃすき」
「………ッ」
パシャン、と音がして、飛沫が俺の顔めがけて飛んでくる。
「っと!…何すんねん」
「…ばか」
風呂の温度のせいか分からんけど、は顔を真っ赤にしてこちらを睨みつけてきた。
いや、せやけど、8割は俺のせいやんなぁ?
そう言ってからかうと、彼女は「違うもん」と言ってそっぽを向く。
そんな彼女が可愛くて、俺は堪らず少し濡れたその唇にキスをした。
それでリミッターが外れるなんて、…まあ、予測はしとったけどな。