束縛されるんは嫌いやない。
むしろされたいし、自分もしたい。
せやから、もっとヤキモチやいてくれたって、ええんやで?
素直じゃないところもかわいい
俺はどうやらモテるらしい。
いや、元々わかっとった事やけど、という彼女が出来てから更にそれが顕著に表れていた。
「白石くん。ちょっと、ええ?」
そんな風に呼び出されることは、と付き合う前から日常茶飯事やった。
ただ以前と違うのは、その瞬間、俺の隣に必ずがおるという事。
俺を呼ぶ、割と化粧の濃い彼女たちは、わざわざ俺とが一緒におる所にやってきて、をチラリと見、くすりと笑いながら俺を連れ出していくのだ。
は、飾るのが嫌いな子やった。
髪は一度も染めたことがなく、ピアスやアクセサリーも少なくとも学校では絶対に身につけない。
決して、校則を遵守する優等生タイプというわけではない。
ただとにかく、内面も外面も、自分自身ではない異物を被るのを嫌がった。
そんな彼女の、彼女自身の香りに惹かれて、俺は彼女を好きになった。
香水の匂いではなく、だからと言って強すぎるシャンプーの匂いでもない。
本当に、彼女自身から漂ってくる香りだった。
嗅覚で感じる香りだけではなく、彼女自身の纏う雰囲気とも似た香りに惹かれたのだ。
彼女も同じ気持ちであると知った時の喜びは、言葉では言い尽くせない。
付き合うことになって、の周りに変化が起きたことは俺にでも分かった。
イジメというほど陰湿な物でもあからさまな物でもなかったが、一部の女子から時折発せられる発言や視線がに刺さっていることは明らかだった。
いつもすっぴんで、飾ることのないに、自分たちが劣るはずがない。
そんな風にでも、思っていたのだろうか。
「白石、呼んでるで」
その日もいつもと同じように、その女子は昼休み、俺とが一緒に話しとるところに現れた。
教室の入り口に立って俺を呼ぶその子を、クラスの男が知らせてくる。
途端に、の顔が一瞬歪んだのが分かった。
は、俺が彼女たちに言われるがまま付いて行くことに、一度も不満を言ったことはなかった。
いつもしれっとした表情をして、「呼ばれてるんだから、行ってきたら」と。
俺のことをそれだけ信じてくれとるってことなんかも知れんけど、正直俺は、もっと我儘を言って欲しかった。
飾るのを嫌う君が唯一仮面を被るこの瞬間に。
「行って欲しゅうない?」
「…別に、行けばいいじゃん」
だって、君の奥に隠された想いなんて、俺には丸見えやから。
(ああ、なんてかわええんや)
「今日は、そない気分やないな」
「…え?」
フッと視線を寄越したの腕を取り、立ち上がる。
そのまま教室の入り口に向かってすたすた歩いて行くと、後ろから「く、蔵!」との抗議の声が聞こえたが、そんな事は関係ない。
俺を待っていた女子生徒の前で少しだけ足を止め、にっこりと笑いかけ、言った。
「ごめんな。俺、この子しか見えてへんねん」
呆然とするその子の横をを連れて通り過ぎる。
廊下に出ると、俺との繋いだ手にチラチラと視線が集まっていくのが分かった。
顔を真っ赤にして俺の手を振り払おうとするを無視し、更に強く手を握ってそのまま階段を上っていく。
連れてきた先は、古い資料室。
をその中に押し込めると、後ろ手でドアのカギをカチャリと閉めた。
「く、蔵…?」
少しだけ怯えた表情をする彼女の手首を掴み、俺は噛みつくようにして唇を重ねた。
後ろの本棚にの身体が軽くぶつかる。
白い包帯で半分隠れた自分の指をの綺麗な指と絡ませ、強く握りしめた。
同時に、深く深く溺れるようなキスをし、唇をこじ開けて舌を侵入させると、の口から甘い声が漏れる。
――たまらない。
そのままの口端をぺろりと舐め、頬に、顎に、首に、ゆっくりとキスを落としていく。
首筋に舌を這わせると、が少しだけ高い声を上げた。
「ぁ、蔵…ッ」
同時に、カタン、と閉じられた資料室のドアが揺れる。
(……どうでもええな)
外で聞き耳立てとる子らがおるのは分かっていた。
でも、そんなの、
(聞かせたれば、ええやん?)
俺はそのままの首筋に顔を埋め、徐々に力が抜けていく彼女の身体を感じていた。
そう、これは。
君は俺の物だという証。
俺は君の物だという表明。
そして、可愛すぎる君への、ささやかな罰。
***
「…学校でするんは、どやった?良かった?」
「全然よくない…!」
「ははっ、いつもより興奮しとったくせに」
「…っバカ蔵!」