どっちから告白したとか、どういう経緯で付き合うことになったのかとか、私は一切知らなかった。
興味がなかったわけじゃない。
ただ、それを嬉々として話す謙也を想像したら、怖くて聞けなくなってしまった。謙也に彼女が出来て、私は謙也にハグをしなくなった。まるひえもーしょん!
―ぶらざーこんぷれっくす!―
もちろん、謙也も。
肩を叩いたり、つついたり、腕を引っ張ったり、
私の中でそれは許される範囲内だったから、やめなかった。
でもある日、白石に言われた一言が、その行動すらも規制した。
「は謙也にボディータッチ激しいよなあ。彼女妬くんちゃうん?」
そんな白石の言葉を、謙也は笑って「アホ」と流していた。
「そんなんいちいち気にせんやろ」
謙也はそう言ったけど、私には謙也のその言葉が却って辛かった。
私が謙也に触ったくらいで、二人の関係は揺るがない。
そう言われてしまったような気がして。
「ま、謙也がおらんでも俺がおるやん?好きなだけ触ってええんやで〜」
「結構です。光がいるから」
両手を広げておいでおいでと合図してくる白石を無視して、私は光の腕にしがみ付く。
「ちょ、めんどいんで巻き込まんといてください」
そう言いつつ、光は私の手を振り払うことはしない。
うん、やっぱ好きだよ光。かわいい。優しい。
謙也に彼女が出来てから、光と過ごす時間が増えた。
謙也が彼女ばかりに構って私に付き合う時間が無くなった、って訳じゃない。
時間の使い方は変わらなかった。
むしろ、彼女といつデートしてんの?って言いたいくらい。
それでも、何となく彼女に悪い気がして、私は謙也の時間を拘束するのを止めた。
その影響をモロに受けたのが光というわけ。
もともと家も近かったから、最近では一緒に帰るのが当たり前になっていた。
「ひかるー」
光の横に並んで歩きながら、私は口を開く。
「…なんすか」
こちらを見ずに答える光。
「お兄さんが結婚したときさぁ、ショックじゃなかった?」
「……そら、まあ、ちょっとは」
「そっか」
お互いの間に若干気まずい沈黙が生じる。
私は光の制服の袖をくい、と軽く引っ張った。
「…先輩として、慰めてくれてもいいんじゃない?」
「なんの先輩や」
「ブラコンの」
「アホですか」
いつの間にか私より半歩先を歩いていた光がこちらを振り返る。
「謙也さんは、結婚したわけやないですし」
「……」
そんなの分かってる。けど、
「なんでこんな寂しいんだろーね」
「知らんすわ」
「ひかるーーー冷たい!」
「あー、もう、うざ!」
ぐいぐいと制服を引っ張っていた手が光の大きな手によってがっちり掴まれる。
「そんなん、時間がそのうち解決してくれますわ」
そのまま光に手を引かれ、歩き出す。
「光も、そうだった?」
「せんぱい重度やから、かなり時間かかるかもしれへんですけどね」
ふん、と面倒くさそうに鼻を鳴らす光。
慰めて、くれてるんだよね?
「ありがと、光。だいすき」
「キモイすわ」
相変わらずの減らず口。
やっぱりちょっとだけむかついたから、一発殴ってやった。***
「弟に手上げるやなんて最低の姉やな」
「光が悪いんですー!ばーか!」
「ホンマうざいすわ」
(人の気持ちも知らんと、勝手なことばっか言いよる)
(絶対教えたらん、アンタの感情の正体なんて)