もう、キスとかしたのかな。
もしかして、既にそれ以上まで行っちゃたのかな。



謙也に彼女がいるって考えると、どうしても発想はそっちに向かって行ってしまう。
そんな日が続いていた。

まるひえもーしょん!

―伯父さん、それはセクハラです―

「ねえ、やっぱ彼女にはちゅーしたいとか、思うの?」

教室内、クラスメイトでもあるユウジの前の席に腰かけて、ユウジの机に頬杖をついて私は尋ねてみた。


「はあ?何やねんいきなり」

何となく口を割って出た言葉だったから、言ってしまってから自分の質問の違和感に気付く。


「アレ、そっか、ユウジは小春ちゃんが彼女なんだもんね」

うっかりしてたよ、と頭をポリポリと掻くと、ユウジが「ドアホォォォォ!」と頭にチョップをしてきた。
ちょ、容赦ないんですけどこのヒト!ちょう痛い。


「小春は彼女なんて軽いもんちゃうわ!俺らはもっとこう高尚な奥深いところで繋がっ」
「あ、ごめんもういい」

ユウジに聞いたのが間違いだった。
小春ちゃんの魅力を語り出すと長い。

私は話が長くならないうちにユウジの元から退散した。



そのまま自分のクラスを後に、校舎の外に出る。

千歳を探す為だ。
ユウジよりはまともな答えをくれる気がする。

もう昼休みも終盤だけど、千歳が真面目に授業に出ることなんてほとんどない。
次の授業の間も、またどこか、裏庭あたりでぶらぶらするか、昼寝をするつもりに違いない。



案の定、千歳はテニス部の部室近くの木陰で猫と戯れていた。
猫を自分の眼前に抱きあげると、猫がヒクヒクと鼻を動かす。

「ん?なんね?」

千歳が首をかしげると、猫が千歳の鼻をぺろぺろと舐めた。

「はは、こそばかけん、やめんか」

そのまま猫の頬にちゅっちゅと口付けている。


私はそろそろと千歳の後ろに近付いていき、「わっ」と声を掛ける。
千歳は驚いて、同じように「わっ」と声を上げた。

その千歳の声に身を震わせ、大きな手に収まっていた猫がひらりと逃げていった。
その猫の後ろ姿を名残惜しそうに「ああ…」と見つめる千歳。
ちょっと悪いことしちゃったかな。

ゆっくりとこちらを振り向いて、千歳がはあー、と安堵の息を吐いた。


「たまがったー、か。どげんしたと?」
「なんだと思ったの…?」
「トトロとか」

私は若干呆れた笑みを浮かべて千歳の隣に腰かけた。



「ねえ千歳はさー、今彼女いるんだっけ」
「ん、おらんたい」
「じゃー彼女がいた時さあ、ちゅーとかした?」
「あんま覚えとらんけんど、したんじゃなかかね」

千歳はぼんやりとした調子で答える。

え、覚えてないようなもんなの?
そんな疑問を抱きながら、その後に続く言葉を聞きたくて千歳をじっと見つめる。

千歳はそんな私の視線に気づくと、ふわりと笑った。

「俺は、むぞらしかと思ったもんにば、いつでもしとったい」
「あ、聞こうと思ってたんだけど、むぞらしか、ってどういう意味?」
「ん」


千歳ははにかんだように笑うと、私の頭を軽く引っ張ってきた。
そのまま髪に埋めるようにして旋毛あたりにキスされる。

私が反応するよりも先にぱっと身体を離し、いたずらっ子のように千歳は笑った。


「かわいらしかって意味ばい」


そんな顔されたら怒るに怒れない。
私はただ「もう!」と言って千歳の背中をばんっと叩いた。(痛か!)


千歳に彼女が出来ても長続きしない理由が分かった気がする。
そりゃ自分以外の人にキスする彼氏なんて、嫌だろ!

***
「え、もしかして金ちゃんにもしてんの…?」
「さぁ、どげんかねぇ」
(するわけなか。あほたい)
(ばってん、そんがむぞらしかね)


千歳は天性のタラシ。
ボーっとしつつやることやってる。…と、良いな!きゅん

ブラウザバックプリーズ。

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