謙也に彼女が出来て3ヶ月。
なんとなんと、びっくりすることが起こった。
ユウジが告白された。ちゃんと女の子に!
「せやねん、まさか女子からとはなぁ〜…って、何でびっくりすんねん!」
ユウジは部室の机をバン!と叩いて立ち上がった。
さすが関西人。ノリツッコミは基本だよね。
私はわざと更におどけた表情をして見せ、「だって…ねえ?」と光に同意を求める。
光は興味なさそうに「はあ」と、から返事をする。
「ほんで、どないしたんスか」
「決まっとるがな!小春がおるから言うて断った」
「先輩、どこまで本気なんスか。キモイすわ」
光はすすす、と私の陰に隠れる。
ちょ、こら。私を盾にするんじゃないよ。
「アラ、アタシは別にええのよ、ユウくん。卒業したらどうなるか分からへんのやし」
「こ、小春ぅぅ!!」
涼しい顔で笑う小春ちゃんにユウジが泣き付く。
ていうかこの二人まじで付き合ってんの?
どこまでがネタでどこまでが本気か相変わらず分からん。
「でも、卒業したら、って…」
「そら、違う大学やったらしゃーないやん?」
こればっかりはなぁ、と小春ちゃんは少し寂しそうに(恋人としてなのか相方としてなのか分かんないけど!)
言った。
そういうもん?
その感覚も、私にはよく分からなかった。
「なあ?謙也クンはちゃうん?」
小春ちゃんが制服に着替えている謙也に声を掛ける。
私は少しドキッとして、謙也の方を見た。
謙也はシャツのボタンを一瞬にして留め(相変わらず速い)、頭をポリポリと掻きながらこちらを振り返る。
「んー、ま、そやなあ。ガッコ同じやから付き合えとる感じはあるな」
「ふうん」
なんだか、少し嬉しくなった。
でも、ここで喜ぶのもなんだか嫌な子みたいだし、そっけなく相槌をついてみる。
というか、何頑張って興味ないフリしてるんだろう、私。
未だに彼女に妬いてんのか。どんだけブラコンだよ。
「せや、今度の週末…っちゅーか、明日のことやけど」
白石が口を開き、話が中断される。
「先月は財前のリクエストでぜんざいやったから、今月は金ちゃんリクエストのタコヤキな!」
イエーーイ!とみんなのテンションが上がる。
親睦会だか会議だか、どういう名目で始まったのか今となっては思い出せないけれど、月一で集まってなんたらパーティというものを行うのだ。(なんたらの部分は主に食べ物。たまにゲームだったりもする)
その時々でお店に行ったり、誰かのおうちにお邪魔したり、部室で行ったりする。
ちなみに先月は光お勧めの甘味屋さんに行った。
「確か謙也ん家が空いてんねんな?」
「ん?おん」
そうなのだ。
2泊3日の温泉旅行が当たったとかで、謙也の両親は息子を置いて行ってしまったらしい。
『3名様ご招待』の3人目は、謙也が受験生だという理由で迷わず弟が選ばれたとか。
「ありえへん!」とかって憤慨して話してくれたのを覚えている。
「ほな、明日は各自、謙也ん家に集合っちゅーことで!」
以前は光や白石と一緒によく行っていた謙也の家。
彼女が出来てから3ヶ月間、一度も行くことがなかった。
私は謙也をお兄ちゃんだと認識していても、彼女はきっとそれを理解してくれない。
そう思っていたから。
本当の兄妹だったら、何も気にしないで謙也の近くに行けるのに。
ずっと一緒にいられるのに。
そんな風に、私は勝手に謙也と「お兄ちゃん」の方程式を絶対的な物にしていた。
翌日のタコ焼きパーティーはいつも通りのバカらしい盛り上がりを見せた。
謙也の家に既にたこ焼き台があるにもかかわらず、白石もユウジも金ちゃんも、小石川や銀まで各家の分を1台ずつ持参した。
過剰に集まった台にも驚いたけど、それよりも私が気になったのは「何でみんな持ってんの!?」ということ。
「関西では一家に一台あるんが常識や!」とかユウジに言われたけど、え、そうなの?
調子に乗って全部使って焼き始めたら、ブレーカーが飛んだ。
真っ暗になった部屋で、また大爆笑。ほんとにここのレギュラーはバカばっかりだ。
その後は取りあえず3台だけ使って、焼いては食べ焼いては食べの繰り返し。
みんな育ち盛りの男子なだけあってよく食べる。
途中から大食い競争みたいになっていた。
私は早々にお腹いっぱいになってギブアップ。
リビングのソファに腰かけ、テーブルを囲んでがつがつとたこ焼きを頬張るテニス男児たちを見守っていた。
(ほんとによく食べる…)
見ているこっちが気持ち悪くなってきそう。
その数分後、同じくリタイアした光がテーブルを離れ、私の座るソファの方にフラフラと寄ってきた。
心なしか顔が青ざめている。
「光、大丈夫?」
「大丈夫に見えるん?」
光はそう言うと、ソファの私の隣にボスっと腰を下ろした。
「先月はあんなにぜんざい食べてたのに」
「ぜんざいやったら、なんぼでもいけますわ。タコヤキはあかん…」
光はふうーとゆっくりと息を吐きだすと、ちらりとテーブルの方を見やる。
「それワイのやー!」「金ちゃん、人のモン盗ったらあかん」というやり取りを見て、うぷ、と嫌悪感を顕わにする。
「匂いだけで吐きそうや…謙也さん」
「んーーー?」
謙也は大量のたこ焼きを次々と口の中に放り込みながら光の呼びかけに答える。
「謙也さんの部屋におってええっスか?しばらく匂いも嗅ぎたないんで」
「んーーー」
謙也は口をもぐもぐと動かしながら指でOKと示した。
そして再びすごい勢いで手を動かし、目の前のたこ焼きをひっくり返している。
(うわー…速すぎて見えないとか、どんだけ…)
落ちることのない食欲に、ホントに私も気持ち悪くなってきた。
すると、突然腕をぐい、と引っ張られる。
「ほら、せんぱい、行くで」
「え、え?私も行くの?」
「ここおってもどうせ暇やろ。謙也さんの部屋探索しようや。恥ずかしいモン出てきよるかもしれんスよ」
「よし行こう」
こそっと囁かれた光の誘惑にあっさりと負けた私は逆に光の手を引いて謙也の部屋へと向かう。
「ほな、終わったら呼んでください〜」
手を取り合って部屋を出ていく私たちが、メンバーの目にどう映るかなんて考えもせずに。
***
「…あいつら、やるつもりなんちゃう?」
「は!?俺の家やで!?」
「せやけど財前ならありえるな。謙也のモン汚すん好きそうやし」
「…ッと、止めてくる…!」(ガチャッバタン!)
「(単純バカ…)よっしゃ!今のうちに謙也の一人勝ちを食い止めるんや!」
「おー!」