最近の男の子って、ホントみんな細すぎると思う。
腕も脚も、女の私より細いんじゃないかって思えるくらい。
蔵ノ介の包帯を換えてやりながら、そんな事を考えた。
体に似合わぬ手の力
「、手、止まってるで」
「え、あ、ごめん」
蔵ノ介に声を掛けられ、私は再び包帯を巻き始めた。
ここは蔵ノ介の家。
私はと言うと、この男の彼女―――というわけでは全くなく、
ただの親戚、俗に言うイトコというやつ。
大学の関係で、ここに居候させて貰っている。
「蔵ちゃんさあ」
「なんや。ていうか蔵ちゃん言うんヤメロ」
「こんな細っちくて大丈夫なの?」
「はあ?何が?」
私は包帯をぐるぐると巻きながら言葉を続けた。
「いや、こんなヒョロヒョロじゃ、彼女とか守れないんじゃないかと思ってさー。いやむしろ、彼女より弱いんじゃね?みたいな」
「失礼なやっちゃな。俺、こう見えてもモテモテやねんで」
「強いからモテるってわけじゃないからねぇ。ていうか、告白されて付き合ったけど、彼女が蔵ちゃんの弱々しい姿見て幻滅しちゃってフラれた――なんてこと、実はあるでしょ?」
本気なのか冗談なのか判別できないような真顔でそんな事を言ってみたら、
蔵ノ介は思いのほか憤慨してしまった。
「おま…っ!!」
私の手に委ねられていた彼の腕の感触が失われ、
目の前にはわなわなと身を震わせる彼の姿。
やばい、からかいすぎた、と思い私は少し身構えた。が、
「どないな巻き方しとんねん!腕が二回りも太くなっとるやんけ!」
憤慨したのは私の言葉に対してではなく、包帯の巻き方に対してであったらしい。
「いやぁ、少しでも逞しく見えるようにと」
「お前、アホやろ」
蔵ノ介が盛大な溜息をついて包帯を解き始める。
「せやから俺、自分でやる言うたやないか」
「ごめーん」
「本気で謝れや」
あ、怒ってはない、けど。
ちょっとだけ、拗ねちゃった?
細い、というキーワードは、意外と思春期の男の子の胸を抉るものであったらしい。
(私の方がお姉さんだからなあ。やっぱ慰めるべき?)
よし、見た目は細いけど、わー意外と筋肉しっかりしてるねぇ!
みたいな感じで慰めてやるか!私って大人だなぁうん。
そう思い、私は蔵ノ介の二の腕に手を伸ばした。
ちょん、と肌が触れた瞬間、蔵ノ介がビク、と肩を震わせた。
(…あれ?)
肩に力が入ってる。…と思ったら力抜けてきた。
………でもなんか小刻みに震えてない?
(もしかして)
「蔵…ワキ、弱いの?」
「弱ない」
「ふーん」
私は少し考えた後、再び蔵ノ介に対して手を伸ばしてみた。
「触んな」
「なんで?」
「触ったら襲うで」
包帯を綺麗に巻きなおしながら、蔵ノ介は眉間に皺を寄せ、そう言った。
脅そうとしているのかもしれないけど、私にとってその姿は可愛い小鹿の精一杯の威嚇と同じようなもので、思わずふふ、と笑みをこぼしてしまう。
「なに笑っとんねん」
「いや、可愛いなあと思ってさぁ」
「細いの次は可愛いてか。お前はどんだけ俺をオンナノコにしたいんや」
「男の子だったら、ちょっとは我慢してみなさい?」
そう言って私は蔵ノ介の脇腹をくすぐり始めた。
「ちょ…っ、…っ!」
蔵ノ介は慌てて包帯から手を離したが時すでに遅し。
バランスを崩して、蔵ノ介はカーペットの上に転がった。
「や、ヤメ…っ、まじで…ッ」
「やーめない。悶える蔵の姿とか、貴重だし」
「アホ、か・・っ、あはっ」
「悪態つきたいのか笑いたいのか、どっちなの」
「…っ、ッ!」
刹那、手の動きが制止される。蔵ノ介が私の両手を強く掴んだのだ。
細いのに、力だけは大学生の男子たちとも大差ない。
二つも年下の男の子に、不覚にもドキッとしてしまった。
少しびっくりして、私は蔵ノ介を見つめた。
顔を少しだけ赤く染めて、ぜえはあと息を整えている。
手には力を込めたまま。
「…エクスタシー、感じちゃった?」
からかうように言ってやると、蔵ノ介が「ふざけんな」とでも言いたげに私を睨んだ。
「エクスタシーっちゅうんは、もっとキモチのエエもんや」
そう言って蔵ノ介は私の手をぐいと引っ張った。
ぐるりと視界が反転したかと思うと、蔵ノ介が私の上に跨っていた。
「、さっき俺が言うたこと覚えとる?」
「えーと、なんだっけ」
「触ったら襲う言うたやろ。覚悟はええな?」
解きかけた包帯が、私の腕に絡みついている。
逃げるのは少し難しいかもしれない。
私はふう、とため息をついて腕の力を抜いた。
「…困ったなあ、私、少年を喰う趣味はないんだけど」
「誰が少年や」
蔵ノ介が私の鼻をピンと弾く。
「いたっ」
「心配せんでも、お前は被食者や。喰うのは俺」
「えー私襲う方が好きなんだけどな」
「女の子がなんちゅうコト言うんや。お前ホンマ汚れとんな」
襲う相手は、蔵に限るけどね。
心の中で呟いて、私は少し笑った。