先輩の身体はいつも傷だらけだった。
いつもは見えないところだけに付けられる傷が、その日は腕にまで広がっていて、何があったかなんてすぐに分かる。
「先輩、また」
目の前で蹲る彼女に声を掛けると、彼女はゆっくりと顔を上げた。
その顔は涙で汚れてはいなかった。
ただ、口端に赤黒い痕が付いていて。
彼女は俺の姿を確認すると、力なく微笑んだ。
「いやーもうホント、参ったよ。普通彼女の顔、殴んないよね」
俺はただ、やるせない思いでその場に立ち尽くしていた。
よくよく見ると、殴られた傷以外の痕が身体中至る所に残されているのが分かった。
「昨日なんて、手首千切れるんじゃないかってくらいキツく縛られてさ。痛いって言ってんのに、笑ってんだよ?どんだけSなんだろうね」
「…………」
「しかも、ゴム付けてくんなかったし」
できちゃったらどうしてくれんの、と言って彼女はまた笑った。
(なんで)
「ええ加減、別れたらどうなんすか」
「うーん」
彼女は曖昧に言葉を濁し、また笑う。
なんや、それ。
彼女の前に屈みこんで、少し傷の残ったその顔をじっと見つめると、俺の意図を汲み取り、彼女はゆっくりと目を閉じた。
そのまま俺は彼女に口付けた。
切れて血が滲んだ部分をわざと舐めとってやると、彼女の身体がビクリと震える。
するりと彼女の太腿に手を這わせると、彼女がゆっくりと膝を開いた。
俺はその開いた隙間に入り込み、更に深く口付ける。
(なんで)
「…別れる気ない癖に、俺との関係は続けるんや?」
「光は、優しくて、すきだもん」
「ほんなら、俺と付き合えばええやん」
「うーん」
彼女はまた誤魔化すように笑って俺の首に手を回してくる。
「アイツの、何がええん?」
「…分かんない、けど、…ぁ、」
指の動きに翻弄されて、彼女が少し呻く。
「……滅茶苦茶にされて、犯されてる感覚が、すき…っ」
「そんなら、」
そんなら、俺がアンタを縛りつければ、殴り倒せば、噛みつけば、ムリヤリ犯してやれば、アンタは俺を選んでくれるんか?
言葉になる前に、それは喉の奥に飲み込まれる。
彼女はそんな俺の姿を、愛おしそうな眼差しで見て、笑った。
「光は、優しいね」
アンタを傷つけることなんて、出来るわけないやろ。
絶対俺の方が先輩を愛してやれるのに、なんでアンタはアイツやないとあかんのや。
俺はいつも、この付けられた傷痕を、舐めるだけ。
愛狂しい君へ
(…くそったれ)