ビジュアルは結構、いや、かなりいい男だと思う。
校内でも結構モテてるって噂を聞いた。


両耳のピアスはプレイボーイを象徴しているかのようなのに、
たまに聞ける優しくて素直な言葉とのギャップが良いのかもしれない。
ほんっっっとうに、ごくたまにだけど。

だって、今この瞬間も、



「先輩、そんなん食ったら太るんちゃいます?」



私の向かいに座って頬杖をつきながらそいつは言った。




いくつもピアスを開けてちゃらちゃらしてるくせに
心臓を抉るような的を得た毒舌で、いつも私の幸せ気分を一瞬にしてぶち壊す。



そういう男だ、財前光というヤツは。

のは

「そういう財前だって、同じの食べてんじゃん」


私はむっとして言い返した。
財前の目の前にはすでに空になったぜんざいのお椀が3つ。


「しかも私の3倍も」
「当たり前っすわ。運動量がちゃいます」


財前は面倒くさそうにしれっと言い放つ。
もうほんっと、いちいちむかつく!かわいくない。


「帰りにぜんざい食べに行こうって誘ったのは財前じゃん。うわ、財前とぜんざい紛らわしっ。もう名前もぜんざいにしちゃえば?てか一緒に行くだけ行って、私には何も食べるなってか!」
「さり気なく人の名前否定せんでくれます?食べるななんて言うてませんよ。そのカロリーに見合った運動するんやったらええと思いますよ」
「馬鹿にしないでよね!ぜんざい1杯分のカロリーなんて大したこと…」
「ですよねえ。ジョギング45分くらい大したことあらへんすよね」
「……」


作った笑顔が、無駄にキラキラしてる分余計にむかつく。


「そ、んなに走んなくても、だって、マネージャーの仕事で走り回ってたんだし、」
「へえ」
「ちょ、なにそれ!うざ!」


財前との付き合いは1年近くになるけど、その頭の中は未だによく分からない。

クラスによく遊びに来るし、
部活の時も手伝ってくれること多いし、
こうして放課後に誘われることも珍しくない。

そういうことが続いて、全く期待してないと言ったら嘘になる。


でも、よく考えてみたら
私のクラスには謙也がいるし、
一時期、不器用マネとあだ名を付けられたほどだし、
放課後の誘いも、女の子と一緒の方が店に入りやすいという理由かもしれない。
別の日に他の女の子と行ってる可能性だって否定できない。


更にこの毒舌。
仮に私に好意を持ってくれてるとするなら、ここまで言わなくないか?
それともドSなの?

もしかして私を虐げて喜んでるわけ?このヒト。
うわー!引く引くどん引き!!



「…先輩?」
「…はっはい!」
「どないしたんすか、顔青いですよ」
「いや、あの、」


ドS財前を思い浮かべてドン引きしましたなんて言えない。
なんかもう、殺される気がする。


「や、ちょっと考え事を…」
「なんや、妄想ですか?もうなんかキモイっすわ、先輩。フツーに引きますわ」
「……」


うっざああああああ!
なにこいつ!なに、殴っていい?


財前は私の顔色の変化など気にも留めず「あ、メールや」と言って携帯を弄り始めた。


「この、…ウザいぜん!帰る!バーカ!」

きょとんとする財前に小学生のような捨て台詞を吐いて、私は店を後にした。




あいつが私のことを好きなのかもなんて一瞬でも考えてしまった自分が恥ずかしい!
なにもうやだホント恥ずかしい!
ありえないありえない恥ずかしい穴に入りたい!


雑念を払うべく、私は駅に向かって全力疾走しようとした。
しかし、店から出て数歩のところで、右手が何かに引っ張られた。


「!?」


振り返って目に映ったのは、部活で見慣れた端正な顔立ち。

「どないしたん?財前と一緒やったんちゃうん?」

驚くでも、心配するでもなく、ただ不思議そうに白石はそう尋ねてきた。


「むかついたから店に置いて来た。てか、何で知ってんの?」
「メール送られてきてん。それにしても、またケンカしたんかお前ら。ホンマ仲ええなぁ」

クスクスと笑いながら白石は自分の携帯を取り出し、何やら操作し始めた。

「どこをどう見たら仲良く見えんの!もうあいつの毒舌には耐えられないよ私は!」
「こんなメール送られてきたらそりゃ仲ええんやなぁ思うで〜。“今先輩とぜんざい食うてます〜先輩とこうして過ごしとる時間は最上級の至福の時間っすわ〜最高にエクスタシーっすわ〜”ってな」
「……それマジ?」


最上級の至福って、なんだそれ…。
似合わないセリフすぎてキモイ。どうしよう。

私が青ざめたのを見て白石はまたククッと笑った。

「いやまあ、冗談やけど。見たいんやったらどーぞ、お嬢さん?」


白石の携帯を覗き込むと、確かにかなり誇張されてはいたが、
似たようなニュアンスの内容が書かれていた。
いつの間に撮ったのか、私がぜんざいを食べている写真付きだ。

ぱっと白石を見上げると、相変わらず綺麗な顔のままで「愛されとるなあ〜」とにやにやと笑っていた。

恥ずかしくなって白石から目を逸らすと、制服のポケットから振動音が響いた。
ポケットからそれを取り出し、見慣れた名前が小さなディスプレイに表示されているのを確認する。


『財前光』

「……」


カチリ、と携帯を開くと、いつも通りの殺風景な文字列。



Fr 財前光
Sb Re:
――――――――――――
すんません、さっきのは冗談
やから、帰ってきてくれませ
んか。

先輩がおらへんと、困る



白石の肩越しに店のウィンドウを覗き込むと、片手で頭を支えて少しだけ項垂れている財前の姿が見えた。

なんてことない言葉が甘く感じるのは、いつもの毒舌のせいと分かっているのに、
こんな言葉でキュンとさせるなんて、やっぱり、かわいくない。

「ほら、早よ行ったりい」
「っ、…うん」

すれ違いざまに白石にポンと肩を押され、
私は再び店のドアをくぐり、項垂れた毒舌ピアス男に近付いていった。



かわいくないけど、そんな憎まれ口叩くあんたが、私はどうしても好きらしい。
ドMとドSでつり合い取れてるのかもね、なんて思ったけど、やっぱりちょっと気持ち悪くて考えるのを止めた。

***
「先輩、良かった、戻ってきてくれはった」
「まあ…私も大人げなかったかなって、思って」
「…ありがとうございます」
「ちょ、え!?なに抱きついてんの!?」
「先輩、俺…」
「え、え、え!?!???(ギャーーー見つめるな!)」
「今日、財布忘れたんすわ」
「…………は?」
「いやぁさすが先輩やなぁ〜可哀想な後輩の為に奢ってくれはるなんて先輩の鏡っすわ」
「ちょ、え、誰も払うなんて…!」
「すんませんーお会計頼みますー。あ、このヒトが払うんで」
「ちょっバカ!なに先に帰ろうとしてんの!?え、本気!?ちょっとーー!?」


騙す為なら甘い言葉も厭わない気がする。

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