1コ下の私の彼氏はちょっと、いや、かなりの問題児だと思う。
なんていうか、暴力的。
私に暴力を振るったことはないけど、いつかそうなる気がして、正直怖い。
「赤也、またテニスで相手怪我させたって、本当?」
共に帰路につきながら、隣を歩く彼に尋ねると、ちらりと私を見て少しめんどくさそうに返答する。
「誰に聞いたんスか」
「…ブン太」
「…ったく、丸井先輩、余計なことを」
チッと舌打ちして再び前を向く赤也に、私も少しだけ苛立ちを覚える。
「余計なこと、じゃないでしょ。ブン太だって心配してるんだから」
「何の心配っスか?俺がいつか本当に誰か殺しちまうんじゃないかって?」
「なッ…そ、そういうんじゃなくて、私たちは純粋に…!」
そこまで言ったところで赤也にぐい、と腕を取られ、そのまま細い路地裏に連れ込まれる。
「ちょっ…!」
反論しようとしたらそのまま壁に押さえつけられた。
背中と頭に鈍い衝撃が走る。
反射的に閉じた目を再び開くと、目の前には口角を上げて口を歪める赤也の姿。
「純粋に、…なんスか?」
鋭い目に射抜かれて、恐怖で思わず足が竦む。
「だ、から…赤也の、」
目の前のこの男を刺激しないような良い言葉が見つからなくて、私は言い淀んだ。
赤也は私の手首を強く掴んだまま、下を向いて喉を鳴らす。
「ムカつくんスよねえ…どいつもこいつも」
ぼそりとそう言って顔を上げた赤也の顔から笑みは消えていて。
「ついでに、人の女と必要以上に仲良くする先輩にも、ムカついてきちゃいましたよ」
「…ッ」
「次は、丸井先輩あたりを潰しちゃいましょうかねぇ」
再び浮かべられた歪んだ笑顔と、その口から発せられた物騒な言葉に一気に血の気が引く。
そもそも、赤也が心配でブン太に問い詰めたのは私だ。
私のせいでブン太まで傷つくなんてとんでもない。
「ブン太は何も…ぁっ、ッ!」
説明しようと口を開くと、突然肩に噛みつかれる。
ギリギリと歯が立てられ、鋭い痛みが首筋に走った。
「や、だ!赤也…ッ」
癖っ毛の頭を掴んで必死に身を捩ると、赤也の歯が更に深く食い込んできた。
同時に、ピシッと肉が裂ける音が耳に響く。
「きゃ、ぅ…ッ!」
痛みで目をギュッと瞑ると涙が滲んだ。
肩に感じていた鋭い感触が離れ、恐る恐る目を開くと、口元に血を滲ませた赤也の顔。
「俺が嫉妬深いの、知ってるっしょ、先輩?」
楽しそうに、その血をぺろりと舐めとる。
「それとも、忘れちゃったんスかぁ?」
笑顔で、敬語で、話しているのに
その姿に威圧感を纏って。
本能的に察知した不気味な違和感にぞっとする。
「じゃ、今ここで、思い出させてあげますよ」
赤也の膝が脚に割り込んでくる。
こんなところで、ありえない。
そう思うのに、恐怖で体が凍りついたかのようで
(ああ、また、)
その腕で、その脚で、傷つけられたことは一度だってないけれど。
きっとその拳より痛い傷を付けて、貴方はまた口を歪めるのだろう。
だって、アンタは俺のモンでしょ?
(悪いのは先輩っスから)
(これくらい、当然の報いっスよね)