いつも面倒くさがってデートのプランなんか全く立てないような光がお祭りに誘ってくれた。
私はただただ純粋に嬉しくて、光の為に目一杯可愛くしていこうなんて思って浴衣を着て、髪をアレンジして、髪飾りも付けて、新しいリップグロスを付けてみたりなんかした。
それなのに今、どうして私はこんなに情けない気持ちでいっぱいなんだろう。
「せんぱい、遅いすわ」
「ご、ごめん…あいたっ」
人混みの中を光と二人で歩く。いや、正確には、光の数歩後ろを。
光を見失わない様にその少しだけ逆立った頭を目印に人の波を掻き分ける。
けれど到底動きやすい服装とは言えない私は、せいぜい小走り程度にしか走れないし、下駄のせいでバランス感覚も良好な状態とは言えない。
ああもう、こんなんなら浴衣なんて着てくるんじゃなかった。
半ば泣きそうになりながら光の後を追うけれど、一歩踏み出すたびに人の肩にぶつかって後ろによろけ、後ろに戻され、横にふらつき、そんな状態で私はもうヘロヘロだった。
「ひ、かる…ッちょっと待って…!」
人の波が少しだけ緩やかになったところで私は足を止め、弾む息を整えた。
下を向いて項垂れた頭の向こうから光の溜息と共に「しゃーないすわ」という声が聞こえ、ぢゃり、と光のスニーカーが道路に擦れる音がする。
次の瞬間、膝についていた腕を取られ、そのままぐいと前方に引っ張られた。
驚いて顔を上げると、「フラフラしすぎなんすわ」と低く呟く光の顔が見えた。
私と目が合うと光はプイと顔を逸らして、ずんずんと進んでいく。手はしっかりと握ったまま。
握られた手を確認して、もう一度光の後ろ姿に目をやると、髪の隙間から少しだけ赤くなった耳がチラリとのぞいた。
それを見て思わず声を出してクスクスと笑うと光が面白くなさそうにこちらを一瞥する。
「…何笑っとんすか」
「別にー?」
さっきまで私を置いてどんどん歩いて行っちゃった仕返し。
そう思って笑いを堪えながら光を見ると、光の眉間に更に深く皺が寄ったのが分かった。
「…むっかつく」
突然繋いでいた手が力強く引っ張られ、気付いたら光にキスされていた。
呆然と目の前に広がる光の顔を見つめていたら、相変わらず眉間に皺を寄せたまま光がそのつり目がちの瞳を開く。
一瞬だけ唇が解放されたと思ったら、「目くらい閉じろや」という光の言葉と共にもう一度唇を塞がれた。
こんな人混みの中での少し長いキスを終えて、再び光に手を引かれて歩き出す。
「俺をからかおうやなんて100年早いんすわ」と鼻を鳴らして言う光の言葉に、私は光の顔を見ることも、顔を上げることすら出来なかった。
残念やけど俺の勝ち
「…かわいくない」
「それは先輩の役目やろ」
「……!」
「はよ俺よりかわいなってください」
「うざ!」