気がついた時はもう朝だった。
どうやらあのまま寝てしまったらしい。
あんな歌でも子守唄になるんだな〜なんて思ったらおかしかった。
近くを見渡してみると、昨夜の青年も凄まじい寝相で地面に転がっていた。
手にはかろうじてギターの端が握られている。
そういえば昨日旅をしていると言っていた。
あちこちを歌でも歌いながら旅しているんだろうか。
起きたら聞いてみようかな。

別にもう会うことのない人だけど。
これから先こんな人にはもう会えないかもしれないし。

それから少しして彼が起きて、色々聞いてみたけどほとんどかわされて
ちゃんと答えてくれたのは2、3こくらいだった。
お兄さんは誰なのと聞いても、

『・・・ぼくは放浪のギター弾き・・・。世界中を歩いては人々のココロのスキマを埋めるため歌を歌ってやっているのさあ〜。
ヒッヒッヒ・・・偉いでしょ・・・。』

とかなんとか、本当なのかどうか怪しい答えが返ってきた。
・・・多分本気ではあるんだろう。
本当ではないと思うけど。

名前とか出身地とか、そういったことは教えてはくれなかった。

その後村の近くまで送って行ってくれると言うのでついて行った。
でも何も疑わずついて行ったのが間違いだったらしく、村の近くに着いたのはその日の夕方。
あっちをウロウロこっちをウロウロしてるうちに日が暮れてきて、ああ今日も帰れないのかなと思った頃に見慣れた風景が
木々の間から顔を覗かせた。
夕飯の時間なのか村の方向からいい匂いがしてきた。
おれがほっとしていると青年は察したようにじゃあここまででいいかな、と言った。

「うん。ありがとう・・・。」

「いやいや・・・。それじゃあお別れだね・・・。」

「うん・・・。」

振り回されていただけのような気がしないでもないのだが、お別れ、と聞くと何だか寂しかった。

「あ、そうだ・・・。」

思い出したように彼が呟く。

「キミ名前なんていうの?」

別れ際に名前を聞いてきた。

普通こんなことしないだろと思いつつも常識を脱している人みたいだしおれもそんなに気にもせず答えた。

「・・・・アッシュ。」

「アッス君かあ〜。渋い名前だねェ〜。」

渋いなんて初めて言われた。
しかも間違っている。

「それじゃあまたね、アッス君。」

「う、うん。また・・・。」

もう会わないだろう相手に名前を聞いた上にまた、とか普通言うだろうか。

おれはちょっと名残り惜しみながら彼に背を向けた。

「帰り道転んで事故死しないようにね〜。」

「そんなのしないよっ!!」

呆れたように悪態をつきながらおれは家に向かって走って行った。

視界の隅に彼の手を振る姿が見えて。

それからすぐ振り返って見たら、もう彼の姿はなく。

そこには暗く深い森だけが広がっていた。





家に帰ったら母親が顔をトマトのように真っ赤にして怒っていて、尻を何べんも叩かれた。
その後泣きながら抱きしめられて、おれは窒息しそうになりながら胸の中で何度も謝った。


それからおれは二度とあの森の奥には行かなかった。
あの城を明るい日の中で見てみたいような気もしたけど、何故か足が向かなかった。
あそこに行くまでにまた迷って母親に尻を叩かれたくはないというのもあったけど、
今はまだその時じゃないような気がして。

あの日の旅人についても目撃情報を集めてみようといろんな人に聞いて回ったが収穫はゼロだった。
でも『また』と言ったんだから、もしかしたらいつかどこかで会えるかもしれない。
また会えたらあの変な歌を聞かせてくれるかもとその時の事を思い浮かべてみたら、少し心が弾んだ。


それがいつになるかはわからないけれど。



でもいつか。



いつかきっと。



あの時の城と旅人に。






+++おしまい+++














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