「もしも、もしもだけど。幽助が生きてたらどうする?」
 友人達は螢子の言葉に顔を見合わせた。
「浦飯くんはもう死んじゃったのよ」
「気をしっかり持ってよ、螢子」
 そう言って心配そうに見つめられ螢子は内心ため息をつく。
 気持ちはありがたいけれど私はどうもなっちゃいないわよ。
 だが幽助の復活を知らない彼女達のこの反応は当然で、つまりはこれが螢子の聞きたかった世間一般の見方というわけだ。
「ありがとう。参考になったわ」
 二人を安心させようと螢子は笑顔を浮かべた。だがその顔は彼女達によって知らされた幽助の行動によってすぐに引きつることになる。

 最近皿屋敷市周辺ではあの浦飯幽助が化けて出るとまことしやかに囁かれている。
 今日もこんな話があるけど会いに行こうなんて思っちゃ駄目よと忠告されてしまった螢子は、真実を知るがゆえに対応に苦慮している。それなのに、だ。当の本人は今日も風説を静めるどころか逆に煽るようなことをして、しかもそれを楽しそうに彼女に話しているのだ。
 今度は最近この辺りでもよく姿を見るようになっていた三図野川の向こうの累ヶ淵中学の不良生徒を暗がりで幽霊のふりをして追い返したらしい。本人いわくちょっとした悪戯だそうである。つっぱっている男子中学生が泣いて逃げ出すようなちょっとした悪戯がどんなものかは知りたくもないが、幽助は嬉しそうに詳細にわたって説明してくれる。仕方なく螢子は相づちを打つ。さらに幽助は話す。そしてそのときの驚かし方のアイディアと幽霊のふりをした演技を「オレって天才かも」と自分で褒める。
 死んでいる間幽霊と一部の人間以外には存在にすら気付いてもらえなかった幽助は、人と話すことに飢えていたのか、以前と比べて格段によくしゃべるようになった。
 それはいいことだし嬉しいと螢子は思う。
 しかしその内容は、そういやオレの戸籍どうなったんだと真面目に考え始めたと思いきや、せっかく死んだんだし闇に紛れる秘密の仕事人になろうかとか、仕事人と言えばオレこの前初めて妖怪を見たぞとか、突拍子のない方向へ発展したりする。説明が足らなくて――それとも死んだ経験のない螢子には理解できないのか――意味が分からない部分がかなりあるのだが、幽助はこのまま学校へ行かずどこかで働こうとしているらしい。
「バカは死んでも直らないが事実だと確認したわ」
 螢子は呟いた。
 中学生を雇おうと考える者など、ろくでもない輩としか思えない。話に乗れば最後、そのまま彼らのいる暗く恐ろしい世界へと絡め取られて逃げられなくなってしまうのだ。
「何怒ってんだよ、螢子?」
 不思議そうに首を傾げた幽助の前髪は今は下ろされていて、そんなとき彼は年齢よりも幼く見える。そのままならほとんどの者が彼があの浦飯幽助だとは分からないだろう。
 一部の者を除き死んだことになっているため幽助は学校に行っていない。これ幸いとばかりに彼は街で遊んでいるのだが、あの浦飯だと見咎められないように髪を上げずにいる。そしていざ誰かを脅かす時にリーゼントで気合を入れる。だからよく知らない者には幽助が不意に現れたように見える。それが噂の幽霊の正体だった。
「これであいつらもしばらくはこの辺りへ来ないぜ」
 幽霊相手にはどうも出来ねえだろ笑うと彼は火をつけようと煙草に手をのばした。
「それでいいの?」
 きつい声を出すとキョトンとした顔をしている。
「幽霊よ。死んでいると思われてるのよ。幽助はここにいても、気のせいだ、もういないんだと思われるのよ」
「螢子」
 両手に幽助の体温を感じた。自らの手で包み込むようにして幽助は螢子の手を持ち上げていた。
「何よ」
「誰が何と言おうとオレはもう生きてるし、どこにも行かねえよ」
 思わず螢子は二人の両手を見つめる。
「でもこれからどうするの? いつまでもこうしてる訳にはいかないでしょう」
 螢子の視線を辿っていった幽助は、自分が螢子の手を掴んでいたことに今まで気づかなかったのか驚いたように手を離した。ちらりと見た彼の顔は少し赤くなっている。
「あんたに聞いても無駄よね。温子さんと相談しないと」
「え?」
「だから、これからのこと。まずは学校ね」
 一人で喋りながら幽助のあんな照れたような表情を見ることが中学に上がってから少なくなっていたことに気付いた。かわりに増えたのは怒った顔、つまらなそうな冷めた顔、鬱陶しそうな顔。口うるさくすればまたあんな顔に戻ってしまうのだろうか。
 いくら今が楽しくても、このままではいられないことを、あんたも知っているでしょう?
 また取り返しがつかないことになる前に。今度は後悔をしないために。あの日学校を途中でさぼらなければ幽助は死ななかった。立ち去る幽助をなんで引き止めなかったのだろうと螢子はあれから何度も泣いた。
「中学だけでもちゃんと卒業するのよ」
 どんな表情をされてもいい。死に顔だけは二度と見たくなかった。

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相変わらずの螢子が保護者状態。 幽助が思っているよりも、 もしかしたら彼女自身が自覚しているよりも、 螢子は彼が死んだことが心の傷になっているんじゃないかと思います。
そして霊界探偵。 そういえば初代も二代目も三代目の幽助も現役の頃は中学や高校の子供ばかりなんですね。

2006/06/19



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