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| 願わくば |



肉と肉を打ち付けあう音が響く。建物は古く、天窓から漏れてくる夕日に埃が舞う。
「…あ、あ、うっ」
揺さぶられるたびに、甘くかすれた声がルフィの口から漏れる。
ルフィの体を大きく開き、組み敷きながら、ルフィの肩口に顔を埋めてゾロは規則正しい律動を続ける。
自由にならない腕で懸命にゾロの濡れた首に縋りつくルフィだが、たまに来るきつい突き上げで手を滑らせてしまい、また腕を持ち上げ直さなければならない。
ゾロがルフィを突き上げるリズムが徐々に強くなる。
「ぞろ、ぞろ」
名を呼ばれたからだろうか。
ゾロは腕を立ててルフィの顔を覗き込む。律動が止むとお互いの繋がっている部分が終焉を前にひくひくと痙攣しているのがわかる。
平らなゾロの額から落ちた汗がルフィの頬を伝わり落ちる。
「・・・」
快楽かまたは何か別のものを耐えているのか、険しい顔をしてゾロはルフィの紅潮した顔を見つめた。目を逸らすことなく、ルフィの中の己を一度大きく揺らす。細い首が大きく仰け反り、ルフィの悲鳴に似た声がゾロに届いた。
それが合図になったのか今度はめちゃめちゃに規則もリズムもなくルフィを突きまくる。
「あ、あぁあ!あ…も…はっ…あ!」
ルフィが苦しそうに何度も頭を振る。黒い髪が汗で頬に額にまとわりつく。暴走し始めた快楽に翻弄されるルフィの目が潤み見る間に涙が流れ落ちた。
ぐぐぅ、ゾロも自分の動きとルフィの体内の動きに快楽を煽られて、獣のうめき声を出す。

目の奥で白い光がちかちかと見え始め、限界の近さを感じながら、ゾロは意識を三本の刀に向ける。

今、あれでこいつの首を斯き斬ったら。

血の幻を思い描いた瞬間、ゾロはルフィの中に白濁を吐き出した。


「ここだろ?ロビンが云ってたこの島の『聖地』」
身支度を終えたルフィは、すっかり暗くなった建物の中をきょろきょろと見渡した。
「たぶん、な」
ゾロが応える。
建物の天井は高く尖っていて、入り口から奥の綺麗な色の硝子をはめた窓の下まで真っ直ぐに通路が伸びている。
通路の左右には、規則正しく椅子が並んでいて、数十人が建物の奥を一斉に見て座ることが出来る造りになっていた。
ただ、今は入り口の両開きのドアは片方しか残っておらず、正面の窓もひび割れ、天井と壁を蜘蛛の巣が結んでいる。
窓の下には大きな祭壇があり、今は古びてしまっているが、繊細な刺繍を施した織物が架けてある。
『ここの島の人たちは聖地と呼ばれる建物で、選んだ人間を自分の手で殺して、神として祀ったのよ』
深いアルトの声を思い出す。

「変な連中だよなー。だから誰も島からいなくなっちまったんだよ」
ルフィは、闇の中に少し煌めく窓ガラスを見上げたり、壁際に並ぶ銀の燭台を立てたり倒したりとガチャガチャ音を立てている。
ゾロはそんなルフィを見ながら問いかける。
「殺すことが、不思議か?」
「不思議だろ。普通殺すかよ」
笑い声に乗せてルフィの返事が響く。
「…」
目につく光るものを一通り見て回ったルフィは、祭壇の前から動かないゾロの元へ戻ってきた。手には銀の燭台が一本。ナミへの土産だろう。
二人並んで祭壇を見つめる。先ほどまで二人はこの上で抱き合っていた。
唐突にルフィが、ゲ、とうめき声をあげた。
「ひょっとしてここで殺してたんじゃねーか?」
ルフィが少し困惑した声で呟く。まじかよ。
恐らく正解だろう。造りもしっかりしているし良く見ると祭壇の下には「液体」を逃すための筒が通されいる。
やっちまったよ、っていうか残してんじゃねーぞんなもん、ルフィが悪態をつく。
「俺には不思議じゃねぇ」
ぶつくさといいながら建物の出口へ向かうルフィの背中にゾロがそう呟く。ルフィには聞こえていないようだった。
もう一度口の中で「全然不思議じゃねぇ」と呟く。
この島の連中の考え方は、これ以上ないほどすっぽりとゾロの胃の腑に収まった。
ルフィのしなやかな後姿を見ながらゾロは三本のうちのどの刀がルフィの首を斬り落とすのにふさわしいか考える。三代鬼徹が良いだろう。一番鮮やかに落としてくれるだろう。
血で覆われた祭壇に落ちたルフィの首をうやうやしく掲げたときに、ようやくルフィに触れることができるのだろう。
今は世俗に大きな用がある。それを全て終えた頃に、ルフィを誰も汚すことの出来ない静謐な場所へ送るのも良いかと思う。そう遠い先の話ではあるまい。


ルフィはゾロからの殺意を首筋の産毛に感じながら歩く。
自分に信仰めいた感情をゾロが勝手に抱いていることを知っている。それが殺意へ結びついていることも知っている。
ゾロは執着しているのは自分だけだと思っているようだが、ルフィだってゾロを手放す気なんてさらさら無いのだ。ゾロの信仰が刃となり終に自分へ向けられる日を思うと、快感が背筋を震わせる。
ゾロが自分への執着から開放され、正気の人間に成り果てるくらいなら、ゾロの刀に首を斬られてやろうと思う。
その時は、鞘の黒い刀がいい。

(030715:完)

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