生誕祝になるのかどうか、アラバスタ(040130)
砂漠の民の衣装は頭からすっぽりと布で覆われるので、おれみたいにそれとなく顔を隠したい人間にはありがたい。 王都には復興しつつある国の活気があふれていて、道行く人々の表情も明るい。 左右を家臣に守られて向うから歩いてくる彼女は、王族に相応しい安らかな顔をしていた。 おれと一緒に居た頃の彼女の顔は、いつも固く強張っていて、極度に緊張していた。そのせいで時折深夜に嘔吐したり、腹痛に脂汗を浮かべたりしていた。
雑踏の中で次第に近づいてきた彼女の声も、あの頃とは比べ物にならないほど穏やかで、大地に染み込むように潤っていた。淡く色づいた唇が可憐にほころんで、陽の光を集めた瞳は優しい形をしていた。 ――よかった。良い顔で笑っている。 人込みに紛れてすれ違いながら、彼女はいまゆるぎなくしあわせなのだと確信する。 君のその笑顔を胸にこの国を去ろう。幸福に過ごしたまえ、バイバイベイ…
「ぶわっ!?…ぐ、げっ…がっ!」
突然後ろから乱暴に肩を掴まれて、無理矢理振り向かされたところに強烈な往復びんたを食らい、道の真ん中で仰向けにひっくりかえった。
「…なっ!…いっ…だ…っ!…」
おれの上に馬乗りになって、さらにびんたを繰り出しているのは、かつてのパートナー、ミス・ウェンズデーだった。いやアラバスタ王国王女ネフェルタリ・ビビ。
「なんで黙って行こうとするのっ!?ナメんじゃないわよっ!!」
ミス・ウェンズデー、君の家臣はありえないほど驚いた顔をしているよ。 かつては見せることの無かった涙と鼻水をぼたぼたとたらしながら、凄まじい形相で彼女はおれを殴り続けている。そんな顔もできるようになったのは良いことだと思う。 振り下ろす手の力が弱まり、ひとつ盛大にしゃくりあげてから、彼女は勢い良くおれにしがみついた。 |