Love Letter

  She is His Sweetheart V

朝もいつものように電車は混雑している。石井と麻衣がひょんなきっかけから一緒に通学することに
なって、もう1ヶ月がすぎようとしていた。
「ゴホッ、ゴホッ」
石井がマスクごしにすごい咳をしている。新聞を読んでいるサラリーマンがじろっと石井の方をみた。
「石井君、大丈夫?」
麻衣が心配そうに覗き込んだ。
「んあー、平気ー」
とはいうものの、石井が週明に風邪をひき、週の半ばにかけて日に日に調子が悪くなってきているのは
毎朝一緒の麻衣にはよく分かっていた。
「今日、部活休んだ方がいいよ」
「様子みて決めるよ」
石井はそういいながら、鼻をすすった。
「顔、赤いよ」
麻衣が、そっと石井のおでこに手をあてる。ひんやりとした麻衣のやわらかい手は石井を心地よく
させる。
「ちょっと、熱っぽいよ」
石井は、我に返ると、急に恥ずかしくなった。余計に体が火照ってくる。
「そ、そっかな。大丈夫・・・」
(ほんと、森高って無防備だよなぁ・・・)石井はいつもながら素直な麻衣の仕草にドギマギしてしまう。
「無理しないでね」
麻衣がそんな石井の気持ちをよそに心配そうに笑った。


「石井さん、本当に具合大丈夫なんですか?!」
杏崎沙斗未は、フラフラと体育館に現れた石井努に向かって、念を押した。
「だーいじょぶ、だーいじょぶ」
ひらひらと手を振りながら、石井が答える。
「大事な時期なんですから、無理して怪我でもしたらどうするんですか!」
沙斗未がいつもの怒り口調で注意する。沙斗未と石井の喧嘩はいまや男バスの名物で、毎日の日課
のようなものになっていた。
「そうでなくても、石井さんはむちゃばかりでチームのみんなにどれだけ心配・・・」
沙斗未が石井のそばまで行って怒鳴っている。藤原巧弥と哀川和彦が横で大笑いしている。
「専属の小姑だな。」
「石井ちゃん、悪さできないねー」
言いたい放題だ。
「あー、もー、うっさい!」
石井が、沙斗未の小さい形のよい鼻を軽くつまんだ。
「い、いぢいざん!!」
沙斗未が真っ赤になりながら、両手をばたつかせる。藤原と哀川がまたもや爆笑していた。
「降参?」
「なっ!!」
沙斗未が反抗しようとすると、石井が後ろから首に手をかけ、軽くしめつけた。石井の大きな体が沙斗未に覆い
かぶさる。沙斗未の心臓が飛び上がる。
「きゃっ!」
石井は、沙斗未の反応など気にもとめず、さらに鼻をつまみあげる。
「降参だろー?」
沙斗未は、鼓動が石井に聞こえてしまうのではないかと不安になり、とうとう諦めた。
「わ、わかりました。降参、降参です」
「ははっ。おい、三浦!シュート練習つきあえよ!」
石井は、沙斗未の頭を軽くポンっと叩くと、練習に入っていった。沙斗未はその後ろ姿をみつめながら、
心臓の音がまだ鳴り止まないでいた。
「馬鹿」
誰にも聞こえないようにつぶやいた。

女バスのメンバーも加わり、合同練習が始まった。麻衣は石井の様子がいつもと違うことに気づいて
いた。
汗も異常にかきはじめているし、顔が真っ赤だ。練習のせいだけではない。そのとき、悪い予感が的中
した。石井がゴールから零れ落ちたボールをとろうと、ジャンプした瞬間、バランスを崩し、床に倒れ
たのだ。
「努!」
「石井ちゃん!」
みんなが驚いてかけよる。氷室恭子がみんなが慌てないように指揮をとった。
「拓弥と土橋は努を保健室に運んで。あとのメンバーは通常どおりよ。ほら、女子も練習にもどりなさい!!」
藤原と土橋はうなずいて、石井を担ぐと体育館を後にする。
麻衣が泣きそうな表情で、それを追いかけようとする。
「ちょっと、森高!?」
秋吉夢津美は突然の無意識の麻衣の行動に驚いた。沙斗未がそれを制す。
「森高さん、練習に戻ってください。私が行きますから」
少し怒ったような、それでいて冷静な口調に麻衣がためらう。
「森高さんには関係ありませんから」
麻衣がはっとなる。振り返ると、他のメンバーは練習に戻っていたが、秋吉と哀川が麻衣をみていた。
「そ、そうだよね。ごめん・・・」
麻衣は沙斗未に告げると、秋吉の方へ戻っていった。
「ごめん、むっちゃん」
「森高、あんたさ・・・ううん。なんでもない。さ、練習するよ!」
秋吉は言葉をそっと飲みこむと、麻衣の肩をポンと叩いた。

麻衣は練習どころではなくなっていた。沙斗未の言葉がきにかかる。
(関係ありませんから)関係ない。うん、関係ないかもしれない。でも、心配なのはなんでだろう。
友達だから?むっちゃんが倒れたらどうなったかな。同じようにやっぱり心配してるだろうな。
やっぱり後で様子を見に行こう。もやもや考えているより、顔をみて安心したい。
後で保健室いってみよう。麻衣のシュートが綺麗な弧を描いた。

石井の額には絞った冷たいタオルがのせられている。沙斗未は保健室のベッドの横に椅子をもってきて
石井の寝顔を見つめていた。
「だから言ったのに・・・」
人が心配してるのも知らないで、気持ちよさそうに寝ている石井に少しだけ腹が立った。
石井が寝返りをうつ。額にのせていたタオルが落ちた。沙斗未がそれを拾おうとしたとき、石井の口元
がそっと動いた。
「もりたか・・ナイスシューッ・・・」
沙斗未の表情が一瞬凍りつく。夢を見ているのだ。それも森高麻衣の。
「石井さん・・・私・・・」
沙斗未は気持ちを抑えられなくなっていた。ここ最近、石井が毎日楽しそうなのには気づいてた。
それが、麻衣と一緒に学校に通うようになってからだってことも、気づいてた。毎日見ていたから。
「石井さん・・・」
沙斗未はそっと石井に顔を近づける。
そして
キスをした。
一瞬のようで、ずっと長いようなキス。

ガタン!!!!!!突然、保健室の外から大きな音が聞こえた。
沙斗未ははっとなって、慌てて起き上がると、廊下に飛び出る。そこには、転んで倒れている麻衣の姿があった。
「あ、あの、わ、私、その・・・」
麻衣が真っ青になりながら、焦点の合わない瞳をおよがせていた。見られた・・・!廊下から見える
位置だったことに今更ながら気づく。しまった。
「違うんです!」
沙斗未が慌てて否定をしたが、麻衣の耳には全く届いていないようだった。
「ご、ごめん・・・なさ・・い・・あの、私・・・関係なくて・・・」
麻衣の瞳から涙が零れ落ちた。麻衣は自分でそれさえも気づかないで、立ち上がると、
落ちたかばんを拾って廊下をかけていった。
「も、森高さん!!」
沙斗未は叫びながら、その後ろ姿を追いかけられずにいた。
保健室に戻ると、ちょうど石井の目が覚めたところだった。
「んあ〜、よく寝たぜ!お、杏崎、いてくれたの?悪かったな」
何も知らない石井が優しい笑顔を向けた。沙斗未はこらえきれなくなって、石井の胸に顔をうずめた。
「おっ、おい!杏崎!?大丈夫か?どっか痛いのか?」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
次から次へとあふれてくる涙に、石井は困り果て、少し戸惑いながら、杏崎の頭をぽんぽんとずっと
叩いていた。


To Be Continued.


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