Love Letter

  She is His Sweetheart W Side I

「今日、森高はうちにとまってるから、明日の朝は待ってなくていいわよ。」
そう秋吉夢津美がわざわざ石井の携帯に連絡してきたのは、夜11時を過ぎたころだ。
麻衣が夢津美の家に泊まったということは、明日は石井と共に学校に行けないということだ。
待たせると悪いと思って恐らく電話してきたのだろう。
それより、週の真ん中の平日に泊まるなんて、少しひっかかる。
この間の痴漢の問題といい、また麻衣に何かあったのかと思うと心配になる。
石井は夢津美に尋ねてみた。
「明日のことは分かった。それより・・・森高になんかあったのか?」
石井の問いに、一瞬の沈黙が訪れたが、すぐにいつもの強い口調で夢津美が答えた。
「女の子にはねぇ、いろいろ話すことがあるのよ!石井君には関係ないでしょ!」
夢津美の突然の怒り口調に石井もぶすっとなる。
「あー、はいはい、そうですか。」
まぁ、秋吉がついていることだし問題ないか。
石井はそう思ったが、念のため麻衣の声を聞いて安心したいと思った。
「森高は?」
「・・・・。」
また、沈黙だ。石井は少し不安になった。やはり何かあったのだろうか?
しばらくして、また夢津美が電話にでた。
「・・・ごめん、もう寝ちゃったみたい。それより、石井君のほうこそ具合はどうなの?」
そうだった。今日は練習中に情けなくも倒れ、気がついたら保健室に収容されてたのだった。
まぁ、保健室でぐっすり寝たことにより、今ではすっかり具合はよくなっていて
忘れてたくらいだが。
「おう!超完全復帰さ。さすが俺様。悪かったな、心配かけて。」
「そっか。。。了解。お大事にね。じゃあ、また」
「え?あ、おい!森高は・・・」
ツー、ツー、ツー
最後まで言い終わらないうちに、電話が切れた。
「ちぇっ」
石井はそのまま携帯を枕になげつけながら、自分もベットに横になる。

今日、保健室で倒れた後まっさきに森高がかけつけてくれるような気がしていた。
心配そうに顔を覗き込んで、そばに居てくれるような気がしていた。
ところが現実は違っていた。
目が覚めると杏崎がそばにいて、なぜだか知らないが泣いているし
麻衣の姿はなく、先に帰ってしまっていた。
「なんだかなぁ。。。」
一緒に通学するようになってから、麻衣が石井に黙って帰るなんてことは今日がはじめての
ことだった。しかも、自分が倒れたこんな日に。石井の胸が少しだけ痛んだ。
麻衣にとって、自分の存在なんてそんなものなのかもしれない。
哀川と一緒にいる麻衣の楽しそうな姿が頭に思い浮かぶ。
焦燥感、苛立ち?それとも・・・
「くそっ!」
石井は自分でもよく分からない気持ちのまま、枕に顔をつけ目を閉じた。


次の日の朝練に、麻衣の姿はなかった。石井は練習の合間に夢津美をつかまえた。
「森高は?昨日おまえんち泊まったんだろ?」
「今日は体調悪いから、部活休むって。午後もね」
「あ、おい・・」
石井が続きを聞くまもなく、夢津美は練習に戻っていった。

6限の授業が終わると同時に石井は麻衣のクラスに向かった。
夢津美の話では体調が悪いと言っていっていた。一人で帰れるかどうか心配だったし、
昨日自分が倒れてからというもの、全く顔を合わせていないのも気になる。
もやもや考えているのは性に合わない。直接顔をみて安心したいと思った。

麻衣のクラスはすでに解散していて、閑散としていた。
適当に近くにいた奴に声をかけてみる。
「おい、森高は?」
「さっき帰ったよー」
遅かったか。石井は玄関に向かった。今なら追いつけるかもしれない。
階段を2段、3段抜かして飛び降りる。
靴箱のところで、麻衣が上履きから靴に丁度履きかえているところを発見した。
「森高!」
麻衣がビクっと肩をゆらし、ゆっくり振り返る。
石井の姿を見つけると、急に外に走り出した。
「え?あ、おい!ちょっと、待てよ!」
石井はなぜ麻衣が逃げるのか理由も分からないまま、上履きのまま追いかける。
校庭を出て、しばらく行った坂道でようやく麻衣の腕をつかんだ。
全速力で走ったため、二人とも肩で呼吸していた。
「なんで逃げるんだよ!」
石井が麻衣を振り向かせようとさらに腕をぐいっとひっぱる。
その瞬間、石井の表情がこわばった。麻衣の瞳には涙がいっぱい溜まっていた。
「・・・どうしたんだよ。何があった?」
石井は腰を少し落とし、麻衣と同じ目線に顔をもっていく。
麻衣の瞳からこぼれおちた涙をそっと親指でぬぐう。
「・・・なんでもない」
「なんでもないわけないだろ・・・どうした?」
麻衣がまばたきをした。また涙が零れ落ちた。
石井はどうしていいか分からず、麻衣を壊さないよう、
小さな顔をそっと両手でかこみ、また親指で涙をぬぐった。
「・・・石井君、あたし・・・」
「・・・。」
麻衣が石井の名前を呼んだ。
潤んだ瞳で自分の名前を呼ばれた瞬間、石井は自分でも驚くほど
無意識に行動していた。麻衣の手を引っ張ると自分に引き寄せる。
「あっ・・・」
反射的に麻衣の華奢な体が石井の胸に寄りかかる。
石井はそのまま腕を麻衣の体にまわしそっと抱きこんだ。
麻衣の体はやわらかく、少し震えているように感じた。甘い匂いがする。
それは、はじめて自分以外の誰かを愛しいと思った瞬間―。
どれくらいの時間がたったのだろう。麻衣が石井の腕の中で小さい声で言った。
「・・石井君」
麻衣の声にハッと我にかえる。急に気恥ずかしくなり、慌ててそっと離す。
「あ、わ、わりぃ!」
麻衣は、赤面した石井を見て、少しだけ困ったように弱く笑った。
涙はもうおさまったようだ。
石井はようやく、ホッと一息つくと、駅まで麻衣を送ることにした。
「大丈夫か?」
結局麻衣が泣いていた理由も、石井から逃げた理由も分からずじまいだった。
でも、麻衣が少しだけ落ち着いたのは感じられた。
「うん、もう大丈夫。ありがとう。石井君はもう部活行って。」
「なんかあったら言えよ!おれ、こんな性格だからさ、言ってくれないと
気づかないかもしれないし」
「・・・うん。ありがと。」
麻衣は笑ってみせると、改札をくぐった。軽く手をふる。
石井は麻衣が見えなくなるまで見送ると、学校に向かって走り出した。

麻衣の様子がおかしかった理由は結局何もわからなかったが、
一つだけ分かったことがあった。
石井は、なぜ自分がこんなにも彼女のことが気になるのかようやく分かったような気がした。

 


To Be Continued.

 


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