それは私がベッドに入って寝る前の読書を楽しんでる時だった。
そこへ突然セバスチャンがやって来て
呼んだ覚えはなかったから、何か用?って訪ねたのだけれど、彼は無言のまま近付いてきて
どういう訳か
私の二の腕に噛み付いた。
カ ニ バ リ ズ ム
「ったぁー・・・」
それは甘噛みなんて優しいものじゃなく
本気で喰い千切られるんじゃないかってくらいの力加減だった。
二の腕にくっきり残った歯型が痛々しい。
っていうか、痛い。
「いきなり何するのよセバスチャン!ばか!」
恨めしそうに睨みつけてやれば
セバスチャンは、すみません。なんて一応謝ったけど
大して悪びれる様子も無く
「様のこと、喰べてしまいたくなったんです。」
言った。
セバスチャンが人間じゃないことは知ってる。
でも悪魔が喰べるのは人間の魂であって、人間そのものを喰べるなんて聞いた事が無い―
が、目の前にいるとは言え、そもそも悪魔だなんて非現実的な存在。
私の耳に入った情報なんて所詮人間が作り出した空想や想像でしかなく
悪魔である彼が「喰べる」と言うならきっと喰べるんだろう。
「いやいやいや、私なんて喰べたってきっと美味しくないよ。」
「そんな事ありません。様はとても美味しそうですよ。」
「ど、どこが。」
「そうですねぇ・・・白くてやわらかいところとか。」
この辺なんて特に。って頬を突付かれたから
「・・・人をマシュマロか何かみたいに言わないでよ。」
ちょっとむっとして顔を顰める。
そんな私をセバスチャンは目を細めて見て
「それに、様を喰べてしまえば、私達はひとつになれるでしょう?」
「え・・・?」
「そうすれば二度と離れることもなくずっと一緒にいられます。」
永遠に。
本気なのか冗談なのか判断つかない顔と声色で吐き出すから
私はどういう反応をすればいいのかわからなくなった。
今、この場で喰べられてしまうかもしれないっていう恐怖からじゃない。
だって、それは、最上級の―
「・・・な、に言ってるんだか。」
取りあえず誤魔化すように笑ってみたけれど
動揺は隠せてなかったらしく、引き攣った笑い方になってるのが自分でもわかった。
きっと、凄い顔してたんだと思う。
「変な顔ですね。」
「なっ!誰の所為―」
私の顔を見つめていたセバスチャンが控えめにだけど吹き出したから
誰の所為よ。って言い返してやろうと思ったのに。
それはセバスチャンからのキスで遮られてしまって。
ついでにそのままベッドに押し倒された。
「でもまぁ・・・勿体無いので喰べませんけどね。」
唇が離れて、私を見下ろすセバスチャンは
こういう楽しみが無くなってしまいますし?って楽しそうに口許を吊り上げた。
「・・・そう簡単に喰べられて堪るもんですか。」
「おやおや、随分と強気じゃありませんか。」
「万が一喰べられたらセバスチャンのお腹の中で大暴れしてやるわ。」
「それは怖い・・・」
冗談交じりに笑い合う。
ああ、どうしよう。幸せすぎて目眩がしそう。
「愛してます、・・・」
それは、悪魔からの最上級のプロポーズ。
END.
―――――
カニバリズム、セバスチャン編でした。
うーん・・・何か微妙な感じです、ね。すいませんorz