機動警察パトレイバー

多脚型ロボット「レイバー」が普及した近未来、レイバー犯罪対策用に導入された、警視庁警備部直属のパトロールレイバー中隊の活躍を描く。現代社会にガンダムのようなロボットが出現したらどうなるか、というようなことを、作者であるゆうきまさみの近辺で企画ごっことして始まったのがこの漫画の由来らしい。彼らの企画ごっこは本当にちゃんとした企画として取り上げられ、バンダイからOVAとして発表、後にテレビアニメ化もされた。それの宣伝的な意味合いを持った漫画がこれである。いわゆるメディアミックスという、いくつもの媒体で同時に企画を進行するという手法がとられた、最初の作品でもある。もっとも、第一次グリフォン戦まではOVAとのタイアップを意識したつくりになっているが、それ以降は完全にゆうきまさみの独立した漫画として取り扱って差し支えないかと。

話の筋としては、シャフトという多国籍企業と警視庁の虚虚実実のかけ引きが、話の大まかな流れをつくっている。それに最新鋭機・イングラムを駆る新米府警の泉野明と、篠原をはじめとする第二小隊（と整備班）の青春譚を絡めながらストーリーが展開していく形をとっている。

特に、この作品では実にうまく「大人」が描かれている。後藤隊長や同輩の女隊長南雲、刑事の松井、整備班長の榊、どれも本来の主人公である野明を食ってしまいそうなほどに魅力的だ。なんともしぶいのである。

そして何より強烈な個性を放っているのが、敵役であるシャフトの面々たち。そのなかでも、企画７課課長の内海は、漫画史上おそらく例を見なかったキャラクターである。いやほんとに。大人なのに本質的には子供、善人とも悪人ともいえないという個性は、副官役の黒崎の冷酷な有能さとの対比で、より目立つ仕組みになっている。

この漫画のひとつの面白さは、大人と子供の対比のなかで、後藤に代表される「世間知」を肯定的に捉えている点である。これはBS漫画夜話で岡田斗士夫が言及していたことなのだが、この指摘は非常に鋭いものがあると思う。ボランティアなどの社会的活動が、最近意義あるものとして見られるようになってきたが、そういったもののベースにあるのは、この作品に見られるような倫理的価値観だろう。野明の「警察官であるのに無力な自分への不甲斐なさ」という迷いを通して、時代の倫理的なスタンダードを見事に提示したとも言える。作者自身も、それが子供の代表である内海のクライマックスでの扱いにつながっていると、友人の漫画家とり・みきとの対談の中で述べていた。いつまでも子供のままでは許されない、社会性というのは必要なんだということを、少年漫画の枠の中にありながら明確に示したのである。上記のような思索があるからこそ、この漫画はただのオタク向けロボット漫画とは一線を画した作品となり得たのだろう。

他にも、架空とはいえ基本的には警察の話ということもあってか、社会的な問題をいくつも取り上げている。外国人労働者の問題、下請け会社の悲哀、遺伝子工学の功罪、環境保護団体のテロ的行為といったさまざまな問題を、的確な視点で物語の中に盛り込んでいる。少年誌での連載では、このような内容は珍しいだろう。どうも作者の興味のおもむくままに取り上げられている感があるので、作品全体のまとまりとしては必要のない話があるようにも思うが、これはこれでいいんじゃないだろうか。それが味になってるし.。

映像表現としても、この漫画はなかなか小技が効いている。タバコの灰皿にある吸殻の量で時間の経過を表したり、闇夜に光るライトの光源にこだわって見たりと、芸が細かい。そういう表現へのこだわりが出ているのが番外編的な年末・年始ものの回で、この話では、最後のコマ以外一言も登場人物をしゃべらせずに描いて見せた。また、線の少ない絵柄の割にはレイバーの絵も違和感なく描けている。ただ、アニメ絵が嫌いな人には多少鼻につく画風のようで、内容云々以前に読者を選んでしまいがちなのがもったいない。（ちなみに、レイバーのデザインは出淵裕）

作者のゆうきまさみはもともとアニメのパロディから出発した人だそうで、その意味ではこの漫画は、作者のアニパロの集大成にして、それを一つの作品へと昇華したものと言えるかもしれない。少なくとも、漫画家・ゆうきまさみの一つの画期となった作品であることは間違いない。

数年前の連載であるが、携帯電話の普及まではさすがに予見できなかったらしく、すでにオールドSFの味わいがあるのは、なんとも可笑しい。最近の時の流れの速さは、想像力の持続性を随分と損なってしまう模様。