<作>坂田靖子 小学館 全5巻 |
マーガレット奥さんがとにかく可愛らしいというかキュートというか、この作品のすべてを物語っている人物かもしれない。植物好きで、少々気の弱いご主人のタルカムさんとは好一対である。
この漫画は、坂田作品のなかでもコメディ的要素が多く、読んでいてとても楽しいが、それは彼女の可愛くデフォルメされた絵柄が作品内容によく合っているからだろう。マーガレット奥さんの目など、ただの丸であることが多いし(特に「まあ」と言うとき)、タルカムさんのヒゲも10本ほど線を引いただけである。人物を構成する線がいたってシンプルなのだ。背景についても余分な線を省いてあり、やはりシンプルである。それが彼女のまるいタッチを良い方向に引き出していて、疲れているときに読むとほっとするような、やさしい雰囲気が画面全体を覆っている。登場する人々は、ロンドンの人でも南洋の人でも大抵楽しそうである。いろんなところに旅行するタルカムご夫妻がうらやましい限り。
やさしさと旅情が詰め込まれたこの漫画は、しかし、なによりラストがすばらしい。人生どころか,生命の営みそのものに旅情を見るマーガレット奥様は、なかなか懐の広い方である。
作者である坂田靖子はかなり多くの単行本を出版しているが、その中でも出色の出来栄えと言っていいだろう。小学館からのものよりも、早川文庫から全二巻で出ているもののほうが手に入れやすい。おすすめ。
| Top / What's new ! / Search / Links |
Copyright (C) 2000.12 Iwashi Hachiman