アジア変幻記

<作> 坂田靖子
潮出版社  全2巻

 アジアのどこかの物語

アジア。いいですね、響きが好きです。でもアジアって、本当に広い範囲を指す言葉である。それは当然の話であると言える。なぜならば、ユーラシア大陸でヨーロッパ以外の地域は、みんなアジアだからだ。つまり、ヨーロッパ以外の地域の総称なのである。
これはその広大なアジアを舞台にした、坂田靖子の短編集である。作品の中では、どの地域のどこ、という風に明確に指定されているわけではない「アジア世界」が無限に広がっている。大体、風味的にはインドだな、とか、ああこれは中国だろう、とか、ベトナムのあたりだろうか、という風に推測はできるが、どことも知れぬアジアがそこにはある。そして、その世界はこちらの心の琴線をゆるやかにくすぐるのだ。

第一巻の『カヤンとクシ』は、たのしい童話のような話が多い。こういう話を描かせると、坂田靖子の右に出る人はいない気がする。
第二巻の『塔に降る雪』は、同じようにアジアの昔話のようなものではあるんだけれども、こちらの方はノスタルジーや神秘性、あるいは世界の不条理が強調されているように思う。どこか懐かしく、どこか切ない。そんな感じが漂ってくる。
面白かったのは、第二巻所収の「桃の村」である。なんと言うべきか、ここに描かれている中塚という学生が出会った「異界」は、坂田作品の最も本質的な部分であるように思える。

「風景が絵に似てきたようだ。」「刷毛で塗ったような青空」「妙に本物っぽい風景」

中塚の中を、一瞬の「魔」が駆け抜けていく。タイトルから推察するに、桃源郷のような理想的世界、つまり理念上の世界を、中塚はそのまま体験したのである。息づいていない世界。ただ、理想を描いたはりぼてのイデア的世界との遭遇。

どのような表現形式でも、どのような作者であっても、作品世界と言うものはこのような「異界」性を多かれ少なかれ持っている。彼女の描くマンガは、この「異界」性の狭間で遊んでいるような印象を受けるが、それは多分、作者がそれを半ば自覚して描いているからだろう。彼女のマンガに流れるなんともいえない不可思議さのベースとなっている多くの部分は、おそらくこの狭間の世界を漂うものからきているのではないか。

他に気に入った作品をあげると、表題作にもなっている「カヤンとクシ」、それと「新月宵」、「水の色の空」などだが、このシリーズはどの話も非常によくできている。単行本の方はもう絶版になってしまったが、つい最近文庫化されたので割と容易に手に入るでしょう。
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