だいらんど 

<作>がさん
大都社

 作者の気持ちがよく伝わってくる

チンピラヤクザの正は敵対する組の幹部を暗殺するのに失敗し、絶体絶命の窮地に追い込まれる。追手に発見され、もはや最期かと思われたその瞬間、正はまるで別の世界に立っていた。話す花、わけのわからない人形、突然降ってくる巨大ハンバーガー・・・今さっきまであった夜の町も追手もいない。まるで絵本の中のような世界が広がっていた・・・というのが出だしの部分。

非常に設定の練られた作品である。だいらんど(dielandのdieはサイコロの他にも死後の世界の意味も含まれていそうだ)という世界構成も面白いし、青い鳥やオズの魔法使いといった、有名童話を巧みに取り入れている。さらに、ただそれを物語の凝ったディティールとしてのみ用いるのではなく、作者のメッセージに密接に関わるものとしているところが良い。それのおかげで、作品全体がしまった感じになっている。ともすれば、内容が着想に追いついていないという悲惨な事態を招くことになるのだが、作者自身の思い入れとリンクすることで十分こなれたものになっており、作品の中で設定だけ浮くようなことにはなっていない。

大人が童話の世界を体験するとどうなるか、というコンセプトで作者はこの作品を描いたのだろう。それは、大人にとって子供時代の追体験という意味を持つことになると思う。いや、厳密に言えば、その追体験する世界は「理想の子供世界」だ。本当の子供の世界というものは、別に大人の世界と隔たりがあるわけではない。視点に差異があるだけである。だが、このだいらんどはまさに絵本の中の楽しい国を再現したものだ。そこには現実性の入る余地はない。永遠に続く楽しい空間があるだけである。

ルーシーが、結局過去を語らずだいらんどにのこるシーンが印象的だった。謎解きをしながらもほんのちょっと謎を残しておくというのは、いろいろ推測したりできるので、上手いテクニックかも。メリーアン姫がだんだん現実の世界へ帰ることを望むようになる過程も、その経過をうまく描けている。特に、彼女の体がだんだん人形から現実の人間の姿に変化していくところなど、漫画の視覚性を十二分に駆使しているといえそうだ。

絵柄はまるっこくてかわいらしい。といっても坂田靖子などよりもトーンを使っていて、その点では90年代以降の作家に特徴的なタイプではある。最近の他の作品と比較した場合、それに限って言えば似ているが、絵柄が独特のためすぐに彼の絵だと判別がつく。もともとエロ漫画なども描いていた人のようだが、この作品だけ読む限りとても想像できない。メリーアンもルーシーもそれなりに美人だとは思うけど、エロ漫画のそれとは次元が違うような気がする。
連載していた雑誌はヤングキングOUR’Sという割とオタク向けの雑誌なのだが、そこにこういう漫画を載せること自体に無言のメッセージがあると取れないこともない(少々厭味かな)。実は子供の頃に絵本好きだった正は、反発心を顕わにしながらもこの世界をどこかで楽しむようになっていくのだが、彼の最後にとった行動は、極めて大人の行動だった。彼がそのような行動を取った理由こそが、この作品のメッセージであると受け取った。

このサイトでは一般的には知られていない作品を多く掲載していると思っているのだが、これなんかはその最たるものになるだろう。私もWestriverさんのサイトで紹介されているのを見て、初めて知った。世に知られていないものでも、いい作品てのはあるんだなあ、とあらためて思った次第。

最後の正雄とメリーアンの恋愛の結末について、作者が童話的な終わらせ方をしている点に対し評価が分かれそうな気はするが、作者の「描きたいものを描けた。」という気持ちが伝わってくるのは気分がよいものである。良心的佳作。
 Top / What's new ! / Search / Links
Copyright (C) 2001. Iwashi Hachiman

Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!