作者は2001年3月に夭逝した若手の漫画家である。抜群の画力とトーンを使わない手法で、漫画ファンの一部では知られた存在だった。(噂では下書きもしないで作品をかきあげたとか)
だが、生涯に残した作品はわずかに3本。しかも、全篇とも中途半端な形で終了している。掲載誌の廃刊など不運な面もあったにせよ、珍しい。その全てがエンターブレインから9月に復刊されている。彼程度の知名度で、これほど早く復刊されるのは異例だろう。
物語の筋は、商業ベースで漫画を描くことへの疑問を胸に抱いた青年ゴローと、漫画を描くことへの天性の才能をもった少女ネムとの青春グラフィティといったところだが、作品のテーマが実に多くの部分で彼の境遇と合致する。
木崎ひろすけという青年は、極端に無口だったらしい。あまり世渡り上手ではなかったようだ。漫画も商業ペースでうまいことやっていけるタイプではない。月刊での連載をなんとかこなせるかどうか、というような感じなのである。
彼のなかには、自分にとって漫画とは何なのかという思いが詰まっていたことだろう。その思いと物語はぴったりと一致している。
もっとも、この作品は彼自身がつくったわけではない。カリブ・マーレイ(狩無麻礼)の原作で、編集者がこの話を木崎ひろすけに割り当てたらしい。彼のような人間にこの原作は酷だったかもしれない。だから、漫画の舞台を人間世界そのものではなく、猫科人間の世界にして多少のクッションを取ったともとれる。しかし、彼自身の問題と繋がっていたからか、架空の世界なのに、臨場感がある。
思うのだが、「少女ネム」を描いていなければ、彼の死はこれほど多くの人にインパクトを与えただろうか。
この作品の向こうに彼を見たから、何かを感じたから、みな悼んだのではないだろうか。他の2作品も見事だが、この作品は別格な感がある。
作者同様、物語は途中で終わってしまったが、その切実さと純粋さは際立っている。できれば書き上げて、ネムやゴローとともに何か答えを手に入れて欲しかった。
アスキーから出ている旧版の単行本のあとがきを見ていると、本当に悩み、辛かったのがわかります。