反町君には彼女がいない

<作> 有川 祐
講談社 全6巻

 あのころ。

なかなかジャンルの区分がしにくい漫画だが、どこにでもいそうな高校生の反町くんと、その周辺の人々を描いた日常生活を中心としたストーリーといったところ。けれども、登場人物たちが一癖ありすぎて現実味が薄い。その点に関しては、作者が言うように等身大の高校生生活では決してない。作品全体の雰囲気も、夢の中で手をまさぐっているような不安定さを感じる。
 
しかし、当時(90年代中盤くらい)のそれなりの大都市部に住む高校生、中学生がなにかしら感じていたもの、それを見事に作品世界に内包している。

この一見相反する要素が同居しているため、なんとも変な感触が残る。

なぜこのようなことになったのか?現実的なものを感じる点としては、負の部分の描き方に多くが現れていると思う。それらは性的な問題、大人たちの理不尽さ、受験や恋の悩みなどなのだが、作品中では肯定も否定もされていない。時折漠然とした嫌悪感が示されることはあるが、はっきりとした「こうだ」というようなメッセージが含まれてはいない。答えを模索する人間もいれば、ただそれを瞼に焼き付けているだけの者もいる。明確な倫理観にはとらわれないまま模索を続けている若者たちという、極めて等身大の現代高校生像がそこにはある。
それと、面白いのは、若者的であるという理由で小言を並べるおっさんたちが登場しないことだ。これは興味深い。夜の街(深夜のコンビニのようなものも含めて)の描写が出てきても、立ち入った話にはならない傍観者性も、一般的な中・高生の立場からの視線に近いだろう。

夢の中のような感触をうけるのは、やはり絵の効果が大きい。ノートの落書きのような絵柄が、近いのか遠いのかあやふやな、距離感を掴みかねる感触を残している。この絵柄でいびつな家族関係や異常な性愛の話を描かれると、どこか空虚感が漂っていて怖さがある。あとは怪談めいた話があるのも影響しているか。

こんな話題があるかと思えば、鳥井や藤先などのちょっと変なやつのことや、かさの取り合いなどといった日常的な話が、それとは関係なく描かれている。現実にそうであるように。

これらの事情が総合されて、一種、ある世代の体験した時代の空気が整理されずにデフォルメされたような、そんな妙な雰囲気が生まれたのだろう。私が後世の学者なら、20世紀末の青少年心理を掴んだ作品として注目するかも。

面白いと思えるかどうかはまあ、人次第。一部の世代の人間にしかわかりにくい漫画ではあるだろう。
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