黄金の梨

<作> 坂田靖子
秋田書店

 And They lived happy ever after ... ?

 この人のRPG(ロールプレイングゲーム)好きはもう堂に入ったもので、ゲーム体験記のようなコラムがまとめられて本になってしまうくらいなのだが、そういう彼女の好みがもろに出た作品。
 
 RPG好きといっても、この人の好みは主役級の勇者たちなどではない。舞台となっている世界の町の人たちや、狭い洞窟に窮屈そうに入っているドラゴンたちのほうにあるらしい。有体に言ってしまえば、脇役好きということになるだろうか。だから、本編では当然のことながら、そういう他愛もない、かの世界にはごく普通にいるだろう人たちが主人公となってしまっている。

 物語は、魔法学校を出たての魔術師が、ノームの族長の病気を治すのに必要な「黄金の梨」を無理に取りに行かせられるという筋立て。しかしどうもこの魔術師、頼りない。人がよすぎるのである。行く先々でろくな目にあっていない。のび太くんタイプとでも言おうか。道先案内の寡黙なノームのほうがなんぼかましに思えてくる。

 もちろん坂田靖子は、この少々世渡りに疎い少年を笑いものにしているわけではない。彼は理不尽にも押し付けられた仕事を、さらに理不尽ないくつもの災難を乗り越えて成し遂げるわけなのだが、その成功の理由は彼の誠実さに尽きる。終始一貫して大した魔法も使えないこの新米魔法使いは、旅を終え、一回り大きくなったというべきなのではないだろうか。ある意味では、魔法の力をただ勉強して得るより、もっと大切なものを手にしたことになる。

 そう、実はこの漫画、正統的な冒険物語だったりするのではないですかね。
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