【BLUE MOON】 サンプル(オフ/フルカラー/A5/84P/600円)

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藤村涼

本城怜

蒼月柊香

鈴木笑

水津奈未

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 BLUE MOON表紙 



 

【Hの肖像】(藤村涼)

「先生、私の絵のモデルになっていただけませんか?」
 君がその提案を発したのは夕陽がフロントガラスにまぶしく光る車内のことだった。私達は帰路が同じ事もあり、時折一緒に下校している。この日も君を私の車の助手席に乗せ、帰路を急いでいた。
「何故?」
私の問いに君はゆっくりと口を開いた。
  「一流芸術大学の入試課題を調べたら、三年前に人物が出されていたんです。なので……」
「つまり、私をモデルにして入試対策をしようと言うのだな」
「はい」
 芸術系の大学入試では実技試験も行われる。
 まだ二年生の彼女だが、今から入試対策というのも早すぎることはないだろう。
「向学心を持つことは大いに結構だ。私も出来る限り協力する」
 私は平静を装っていた。しかしつい上げてしまったうわずった声が私の気持ちを端的に表現しているような気がした。それが気になった私はちらりと横目で君を盗み見たが、君に私の態度を不審に思っているような様子はない。
 丁寧に御礼の言葉を述べる君を横に感じながら、私は言いしれぬ歓喜に包まれていた。
 君がほかの誰でもなく私にモデルを依頼したこと、それがこれほど嬉しいとは思っても見なかった。教師が生徒に対してそんな感情を抱いて良いのか、という疑問は残るが。


 

【夢の間に間に】(本城怜)

『怜ちゃん!危な……。』
けたたましい音が、平穏な昼下がりを壊した。 呆然と立ち尽くす珪と、強い力で押し飛ばされて地面に尻餅をつく私。
その視線の先には、珪の永遠を誓った恋人であり私の妹でもある利緒が、
鮮やかな朱の液体の中に倒れていた。
救急車の音が、遠くから近づいてくる……。

全身をびくつかせると、怜は目を開いた。
―また、あの夢だ。
月が寒空に煌々と輝き、2人の眠るベッドを照らしていた。
目の前には、珪の安らかな寝顔があった。
ブラインド越しに差し込む光は、2人の体に格子のような影を落としている。
珪に添い寝してもらうようになって、怜は半月ぶりの深い睡眠を得る事が出来るようになった。
怜の眠りを妨げていた事……それは怜の妹、利緒が死んだ事だった。
利緒が死んだのは怜の所為だ。
口には出さなくても、両親はそんな視線で怜を見ていた。
怜の目の前で……今見た夢の通り、鉄の塊に利緒は命を奪われた。
利緒が怜を庇い、命を落としたという事実だけを、残された者たちは捕らえていた。
彼女がどんな気持ちで怜を庇ったか、などという事までは気が回らないのだ。
『何であんたが生きているの?』
通夜の後、母が口にした言葉が鮮烈に蘇った。


【蒼の庭園】(蒼月柊香)

 弥生という春を感じさせる月になっても日が落ちるのは早い。
 教え子であった女生徒に押さえきれなかった想いを伝え、幸運なことに彼女は私想いを受け容れてくれた、そんなことで少々浮ついた気分で帰宅した私をいつもの薄暗い部屋が出迎える。見れば留守番電話のメッセージがあることを知らせる蒼白い光が点滅している。
 一瞬彼女からだろうか? という考えが脳裏をよぎり苦笑する。彼女はまだ私の自宅の電話番号を知らないはずだ。そう、私たちはこれから始まるのだから。何もかも。
 なんの気なしに再生のスイッチを押し、聞き始めた私は硬直した。声の主は祖母で、その声は突然入院することになった旨を伝えていた。
 両親が海外公演で留守がちだった幼い私のそばにはいつも父方の祖母がいた。祖父は私が生まれる以前になくなっており、祖母は古い洋館に一人で暮らしていた。自分の幼い日の記憶をたぐれば、その洋館の庭に咲く花々と祖母の笑顔がいつも浮かぶ。
 その祖母が、病に倒れた。
「零ちゃん、明日は遠足なんでしょう? 何か入れて欲しいおかずはある?」
「べつに、なにも…。おばあさまのごはんはおいしいから。いつも…」
 幼稚園の頃だったか、祖母に尋ねられたことを思い出した。
 何でもいいと言いはしたが、その実同級生たちが持ってくるような可愛らしい弁当や色とりどりの具がはさめられたサンドイッチだったらいいのに、と密かに考えた。祖母の弁当は色合いこそ地味だったけれど、どのおかずも丁寧につくられていてとてもおいしかったのに、今思えば罰当たりなことだ。


 

【温度】(鈴木笑)

 気の早い晩秋の太陽は、午後を四時間ほど過ぎたところで赤みを増して地平線の影に沈む準備を始めている。
 廊下に大きく取った窓からその光が差し込み、氷室の長い影をより長くしていた。
 彼は自らが顧問する吹奏楽部に向かっていた。
 吹奏楽部が部室とする音楽室に近づくにつれて雑音めいた楽器の音が聞こえてくる。
その音は夕日の色とあいまって、どこか寂しげに校舎の中で響いた。
 めいめいの楽器の音から氷室は誰が何を吹いているか的確に頭の中で捉え、そろそろオーボエのリードがいかれる頃なので注意しなければならないな、などと考えていた。
 丁度氷室が音楽室の前に両足を揃えた時、不意に楽器の音が止み、代わって男子の悲鳴と笑い声が聞こえてきた。
 氷室はこの場にふさわしくない声に、眉間にしわを寄せた。
「練習は真面目にやりなさい。遊ぶのは他の時間でも出来る。」
 ドアを開けると同時に氷室は怒鳴った。
 その声に一瞬にして音楽室が静まり返った。
 氷室は片眉を上げながら、特に部屋の隅にいる鈴木を睨んだ。
彼女は同級の生徒の源の襟元に手を突っ込んだ格好で固まっていた。
その様子に氷室はいっそう眉間のしわを深くした。
 何故なら源は男子だったからで、その襟元に何の気無しに手を突っ込む女生徒の鈴木の挙動が信じがたいものだったからだ


 

【ゆれる】(水津奈未)

 一度通っただけの道をきちんと思い出すのは難しい。それが誰かに連れられていたなら尚更に。
 私は曖昧な記憶の中にある店を探して歩いている。
 ひゅるひゅると吹く木枯らしが、落ち葉をすくい上げ、私の体を通り過ぎていく。ブラウス一枚で出歩くには肌寒い日だ。先生と一緒だったら、きっと「薄着過ぎる」と叱られていただろう。
 昔からあった住宅街なのか、道はうねうねと曲がりくねっていて、時折見える小綺麗な家が、場違いなくらいに目立っている。
 街全体が、昼下がりのけだるさに包まれているような気がした。道を行く人の姿もない。この世界に、私しか存在しないんじゃないかと不安になる。
 脳裏に浮かぶのは、あの時の光景。私は周りの風景なんて見てなかった。前を行く大きな背中だけを、ただひたすら見つめていた。
 だから、知らない場所も怖いと思わなかった。

 いくつ目の角を曲がっただろうか。ようやく目的の場所を見つける。
 「あった…。」
 安堵の声と共に、白い息が口からこぼれた。
 住宅街の中、落ち着いた佇まいを見せる一軒の店。派手な装飾はないけれど、どこか人の目を引きつける。
 私は躊躇いながら、その店に近づく。だけど、ドアには「CLOSED」の小さな看板が揺れていた。よく考えてみれば店はジャズバーで、今は日曜の午後なのだから、開店の時間には早かったのだろう。


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