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虚辞 壱 部屋に響く甘い鳴き声と淫らな水音。 「あっ…ひゃあ!!サ…ケくっ!!私…んっ!もォっイっちゃ…!」 「…くっ!サクラ・・・っ」 「っあ!あぁあっ……!!」 コトを終え、すっかり疲れきったサクラはいつのまにか眠りについていた。桜色の美しい髪を撫でながら、触れる程度の軽い口付けをおとす。 「…サクラ」 サクラを起こさぬように細心の注意を払いつつ、布団をかけてやる。 「いってくる」 その可愛らしい寝顔をいつまでも眺めたいと思いながら重い足取りで家をでる。 天気は良好。だが東の方に黒い雲が見える。サクラが起きる頃には一雨来るだろう。 サクラとこんな関係になったきっかけの日もこんなぐずついた日だったな、と思いつつ。歩き出す。 彼女とこんな関係になったのはもうかれこれ3ヶ月ほどまえになるだろうか。 彼女は俺に好意をもって、毎日つきまとってくる日が続いた。 最初は五月蝿がって邪険にしていたのだが、彼女との触れ合いが増えるにつれて目が彼女を追う様になった。どんなときも彼女を思うようになっていた。 だから。傷つけたくなかった。俺のせいで彼女が悲しむのを見たくなかった。 あの日、俺はわざと彼女を突き放すために、無理矢理抱いた。俺はこういう男なんだと見せ付けるため。 コト終わった後、彼女は泣いていた。嫌だったろうに。辛かったろうに。苦しかったろうに。 なのに、彼女は俺の視線に気付くと笑った。まるで全てを悟る聖母のように、全てを慈しむ聖母のように。涙を流しながら。 そんな彼女を見たくなくて、荒々しく帰路に着いた。 空は雨模様。 丁度今の心境と酷似していた。 家路に着いてからは余計苦しくなって、彼女への罪悪感や後悔が後を絶たなかった。 (……俺はサクラが好きなんだ・・・) ようやく分かった。本当の気持ち。でもそれと共に隠れていた気持ちも顔を出した。 『強がり』という衣装を着て演技をして、傷つくことから逃げていたということ。 いや、誰だって出来ることなら傷つきたくないはずだ。だから辛い時は苦しみを涙に変えて、己を汚を洗い流し、ゆっくりと傷を癒し、また旅立てばよい。 なのに俺は勝手によくない行為と思い込み、天涯孤独で過ごしてきた。 止め処もない罪意識を感じながら、雨が降りさす外にでた。瞳から流れる雫を隠すため。 外に出て最初に霞む視線に入ってきた、雨の中傘もささず一途に駆けて来る一つの影に眼を疑った。 紛れもなくサクラだった。 そして俺に抱きついたかと思うと、泣きながら叫んだ。 「私、やっぱりサスケくんが好きっ!あんな関係でもいいから!!サスケくんが望むなら何でもするから・・・!」 震えながら上向き加減に俺を見上げ、いった。 「サスケくんの・・・傍にいさせて・・・」 俺は何も言わずに、何も言えずにただサクラにキスをした。身体を求め合った時とは違う、優しいキスを。 その後俺たちはまた、今度は甘美に時間を過ごした。 こうして俺たちは今の関係に落ち着いたというわけだ。 あの時の過ちは消えることはないが、いつかは忘れられるだろう。今の俺とサクラなら。 「いってくる」 改めて己に言い聞かせるように言い直し、走り出す。 物陰に潜んだ陰に気付くことなく。 ――今日もサクラに幸あれ・・・―― |