◎色々な顔を持つ男 ハワード・ガーフィンケルはロン・アーテストを ファイブスターキャンプに招待することで、アーテスト を喜ばせられると思っていた。 彼をキャンプの殿堂入りを受け入れてもらい、スピーチを してもらおうと・・。 しかし、アーテストは殿堂入りを拒否した。 高校時代に同キャンプに参加していたアーテストは、 他の参加者達と一緒に寮室で睡眠をとり、カフェテリアの 食事を取り、時には指導、時には一緒に参加者として時を すごした。 アーテストは、過去に参加した多くの名選手達がファースト クラスの飛行機で参加してくるが、アーテストはインディアナ から17マイルもある同キャンプ地まで車で参加した。 また到着後、2人のキャンパーがバス停でおいてけぼりを食って いることを知り、彼は車で彼らを迎えにいった。 ☆ガーフィンケル 「信じられないよね」 「今まで見たことのないような出来事だよね」 「普通はそんなことしないよ」 「それがアーテストって人なのさ」 ---------------------------------------------------------- 「誰が本当の彼なのか?」 いまだかつてインディアナ36年の歴史で、彼ほど不可思議な 選手はいなかっただろう。 彼ほど怒り狂う選手もいなかったし、彼ほど成長する上で困難 な立場にいた選手もいなかった。 昨年のシーズンで8つのフレイグラントファール、12試合の 出場停止処分、罰金だけで本人曰く約3000万円にも及ぶ。 ESPNマガジンの表題には「MAD GAME」という表現で かかれ、オールスターブレイク後の乱闘時には、シカゴトリビ ューン紙に「精神的障害がある」と評された。 元恋人の恐喝事件の関係で、裁判所によって26回のセラピー に参加するようにも命じられた。 その影響もあり、デトロイトやクリーブランドのファンにコインを 投げつけられたり、インディアナのファンでさえ、彼を放出しろと チームに要求されたりもした。 かと思えば、逆にチャリティーに時間とお金を費やし、家庭を愛し、 そしてチームのために一生懸命で、ファンやメディアと上手くやって いく姿もある。 本当のアーテストとは・・・? 彼の背景に深く入り込んでみると、色々な声が聞こえてくる。 子供じみた性格、賞賛、バスケに対する情熱・・・ ジュニア時代のコーチたちや友人の声がアーテストのそういった要因を 示してくれる。 ハンク・カーター。 10代はギャングのリーダーだったが、時をへて銀行で1時間 120ドルを稼ぎ出す男。 彼は高校時代アーテストの面倒を見た人間だ。 アーテストを毎日教会に連れて行き、そして学校へいかせた。 ☆アーテスト 「彼は俺の面倒を見てくれ、そして責任というものがどういう ものかを教えてくれた」 カーターはアーテストに世間とうまくやっていくための方法を 教えた。 カーターは1週間に35?40時間、ボランティアを行い、 友人が銃で撃たれた際に、チャリティー募金を設立した。 カーターは「アーテストはマーク・ジャクソンと同じくらい 彼のチャリティーに貢献してくれた」という。 アーテストは14歳の時のオールスターに参加する 前のエッセイを書くことでそれに参加した。 その後、アーテストはどんどんチャリティーにはまっていく。 患者達の車椅子を押し、一緒に話、遊ぶ。 10代の時にはイベントのチケットを売り、今ではチャリティー のスポークスマンとして働いている。 彼は患者達の治療への行動を一緒に後押ししている。 アーテストは10代のころ、チャリティーゲームがある とき、パリのゲームに参加した。 アーテストがそれについて非常に申し訳なく思っている ことを感じていたカーターは、アーテストに「それに ついて怒っていない」と伝えた。 「じゃあ、俺が残っていたら怒ったのかい?」 ☆カーター 「それがロンなのさ」 「彼は本当に信頼できる人間さ」 「彼の愛すべき特徴だね」 「リラックスしているとき、彼は人に対して我慢できるのさ」 「コートにたっているときは、それ故に問題を起こしてしまう」 「あれは本当のロンではない」 「ただ戦っているのさ」 ========================================= キレない アーテストのコート内外での問題の理由は様々である。 アーテストは、キレたとき、ものを投げ、蹴り、破壊する。 本人はそういった行動をコントロールしたいと思っているが、 専門家に見てもらいたいとは思っていない。 冬の間に受けた26のカウンセリングも効果がなかったと 思っている。 心理学者達にとって、彼の性格は格好の材料ではある。 しかし、それは遺伝によるものが強い。 父親も同様のキレやすさを所有していた。 クィーンズビレッジはいい影響を与える環境ではなかった。 3人の姉妹、2人の兄弟、2人の甥が住む狭苦しいアパートの中、 貧困と悲劇が常に付きまとっていた。 妹のクァニンシャはたった10週間で亡くなった。 アーテストの2の腕には彼女の名前のタトゥーがある。 兄のウォーリーは薬で刑務所につかまり、父親の家庭内暴力で 両親の離婚も経験している。 アーテストは幼少期の話をあまりしたがらない。 初期幼少期の影響を確かに認めるが、ありふれたものであったと 本人はいう。 クィーンズビレッジでは確かにありふれていたことだった。 薬の売買はもちろん、流れ弾が飛んでくることなんて、 そこに住んでいれば、受け入れられるものであった。 アーテストはギャングから圧力をかけられることは なかったが、影響は少なからず受けていた。 ☆アーテスト 「バスケをしていても、普通に銃の撃ち合いが始まるし、銃を 隠し持っている人間に出くわする」 「撃ち合いが終わるまでベンチの下に隠れ、終わるのを待つんだ」 「5分ぐらいして警察がくるんだ」 しかしアーテストはクィーンズビレッジに特別な思いを持つ。 試合前、シューズに「QB(クィーンズビレッジ)」と時々書き込んだり、 少年少女のバスケットボールトーナメントの共同主催者にもなったり、 街にいるときは、コーチやレフリーも務めたりしている。 今年のファイブスターキャンプにもクィーンズビレッジから20人近くの 生徒などを招待したほどだ。 アーテストの師匠達は、彼のプッツン病について、クィーンズビレッジの 人々の生活をよくしたいという想いが少なからず関係があると 信じている。 1月にマディソンスクウェアガーデンで、カメラを破壊するなどの大立ち 回りを行った。 アーテストはドラフト時、ニックス入りを希望していた。 そのニックス相手に2?11という低いフィールドゴール、そして 17点リードにも関わらず負けた試合だった。 ☆カーター 「彼は時々自分のコミュニティーといった錘を背負ってしまう」 「ただ勝ちたいだけだし、いいプレーをしたいだけなんだ」 「しかし、プライドが高いからいつも全速力で駆け抜けてしまう」 「たまにはスローダウンすることをまなばなくてはいけない」 ○逃げ出すために アーテストは10代も突っ走っていっていた。 バスケットボールがクィーンズビレッジから抜け出す最大の 要素であることを理解していた。 彼は、父親の体格、力強さを受け継いでいたが、キレやすい性格をも 受け継いでいた。 それはボクシングにおいても成功できるだけの十分なものになって いた。 ☆カーター 「素晴らしい体だったよ」 アーテストがバスケを始めたときに既にアグレッシブな選手であった としても驚きはない。 アーテストがもっとも素晴らしいコーチであると評するコックスは アーテストのことをいつも熱心な選手だったと覚えている。 ☆コックス 「笑いながらよく彼にいったもんだよ」 「クィーンズヴィレッジから出るためにがんばってんだろ?ってね」 「すべての人間が隣人すらも信用してないように見えた」 「すべての人間がクィーンズヴィレッジから抜け出したいように 見えたもんだよ」 コックスはアーテストをトラブルメーカーというよりも、精神的に 脆い子供という印象を持っていた。 彼はかつて試合後にアーテストの家へいったときのことを思い出して いた。 アーテストが「母の誕生日だから」というから、コックスは店で車を 止め、カードが買えるようにお金を手渡した。 しかし、アーテストは包装のないカードを購入して出てきた。 ☆コックス 「アーテストは包装ありのカードを購入したことがなかった」 「なにせ以前にカードなんて買ったことすらなかったんだから」 「本当にびっくりした」 アーテストの攻撃性、気質、自己中っぷりは、アマチュアチーム時代の コーチであるガーンズにも印象に残っている。 12歳のときに試合に出場させないこともあった。 ただただ「彼と話すのでさえ、おっくう」だったという。 今でも彼の自己中っぷりがもっとも印象に残るともいう。 しかし高校時代のコーチ、アベーラは、アーテストが高校時代に一つも テクニカルファールをとられてないという。 彼の所属するラサール高校はアーテストが年長のとき、27戦無敗で、 市の大会優勝、国のランキングでも2位に位置していた。 ☆アベーラ 「他の選手達がたるんでいたら、彼は周りをほうっておかなかったと 思う」 「彼は彼らをしかったと思う」 「彼はコート内外で必要とされるような選手だった」 「彼はみんなの要求にも答えられる仕事をしていた」 ○理想的な父親像 彼はプライベートでも戦う男である。 高校卒業前に子供が一人いた。 前のガールフレンドとの間に一人、そしてオフに結婚したキミシャと の間に3人の子がいる。 本人も23歳で4人の子供はやや計画よりも多い気がしているが、 奥さんを愛しているがゆえにさらに増える可能性を否定しない。 ☆アーテスト 「ずっと一緒にいたい人をみつけたんだ」 彼は父母、甥、姪と多くの金銭支援を行っている。 全部で約13人。 NBAに入り、彼は周りのために本人が厳しい生活を強いられても 支援をやめようとはしなかった。 インディアナとの6年の巨額契約の延長でやっと自分の生活にも 余裕がでたであろう。 決して文句をアーテストはいわない。 ☆アーテスト 「身を粉にして頑張るよ」 それが彼の本当の人間性であるのだ。