1「本当のミラー?」 アメリカからカナダまで、多くのNBAファンがレジー・ミラーに対し、 大声でどなりつける。 しかし、レジーは意に介さない。 いや、むしろ、レジーはそう言う風にブーイングなどを食らうことを 希望しているし、実際、ブーイングを食らうためになにかすること さえもある。 レジーはレフリーのファールコールに対して侮辱の拍手をし、テク ニカルファールを受けようとしていることだってあるし、3Pシュートを 決めた後に、相手チームのファンに向かってにらみつけたりもする。 最近では、熱烈なNYファンのスパイク・リーに向かって、自分の 首を絞める格好をして、「NYはもう虫の息だよ」というアピールを したりもした。 ファンはそういったレジーの姿を見て、レジーのことを自己中、 うぬぼれ屋などと感じるのである。 しかし、その考えは少し違う。 レジーは、表に出るときは、トラッシュトークや、華麗な振舞いを する人間になるが、スポットライトに当たらないときは、もう1人の 自分になる。 ☆ミラー 「なるべく、悪い奴になろうとした」 「いい奴なんて、すぐおわっちまうものさ」 「少なからず、俺はそう思っている」 「まぁ、俺は2つの自分を持っているけどね」 「ステージに上がるときは悪い奴に、ステージから離れるときは 素の自分に戻るのさ」 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓 2「これがカリフォルニア育ちの人間(ミラー)だ」 ミラーは、カリフォルニアのリバーサイドで生まれ育った。 そして、ロサンゼルスのUCLAに進学した。 しかし、当時の彼はコートの外では、彼の本のタイトルである 「I Love Being the Enemy」のイメージとはまるで違う人間だった。 実際の生活では、上流階級のお坊ちゃんのせいもあり、シャイで 勉強熱心な規律正しい人間だった。 ミラーの父方のおじいちゃん、L.E. Millerはテネシー州のメンフィス にある「New Hope Missionary Baptist教会」の牧師さんだった。 ※Baptist=キリスト教の洗礼を施す者 父「Saul Miller」はキャリアの軍人だった。 (エアフォースのチーフ・マスター・サージェント) 父と母「Carrie」は、5人の子供を授かった。 家族は、毎夜5時40分に夕食を取り、毎週日曜日に教会にいく 普通の家庭だった。 家庭は非常に厳格な家だったが、子供達が何になるかなどにつ いては自由が許され、それぞれが目指すものに励んだ。 長男の「Saul Jr」はホワイトハウスで定期的に演奏するジャズ バンドのサックス奏者になった。 次男の「Darrell」はカリフォルニア・エンジェルスのキャッチャー。 長女「シェリル」は、米国女子バスケ界に名を残す偉大な選手。 次女「Tammy」はカルフォルニア州Fullertonでバレーボールを している。 レジーがバスケ界で十分な記録を達成したことがうなずける。 たった一つのチームでやることがミラーのプライドにおける重要 なポイントである。 さすがに1987年にドラフト11位で指名されたときはそんなこと を考えていたわけでなかったであろうが、インディアナの小麦畑 のど真ん中に彼は家を建てた。 ミラーがインディアナを離れる機会がなかった訳でない。 最初のFAがきたときに、ホームタウンだったレイカースから誘い がなかった訳でない。 しかし、彼はインディアナに残った。 ☆ミラー "I have one sense of identity." "My roots are here. It's good for the game and good for the league, that little kids grow up knowing certain players played for one team their whole career." ※前に訳したことがありますが、訳してしまうと陳腐になりかねな いと思うので原文のままです。 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓 3「お前の姉ちゃんはお前よりすごかったぞ!レジー!」 ミラーは人生において、様々な障害と戦ってきた。 生まれたときも、お尻に問題があり、4年間脚に重い拘束具をつけ て育った。 そして、バスケ人生の多くも戦いの日々だった。 19ヶ月、年上のシェリルミラーの存在だった。 彼のバスケ人生の大部分をシェリルの影として費やさざるを得なか った。 それをうらづける昔のエピソードがある。 ある夜、レジーは高校の試合で39点を奪い、自信に満ちて帰宅 した。 しかし同じ夜、シェリルは他の試合で105点をあげており、ミラー のその自信を消し去った。 ミラーは、道路でシェリルや上の兄弟と、1on1で争っていた。 彼の恐るべきアウトサイドからのシュート力は、その兄弟達に打ち 勝つために養われた。 そして、彼の闘争心も、こういった環境から生まれ育った。 ☆ミラー 「常日頃からシェリルから守る機会があった」 「でも、シェリルはいつも俺の守備を蹴散らしていたよ」 レジーのロードゲームでの精神力の強さの秘訣はUCLA時代に 培われたものだ。 敵チームのファンはいつも「シェリー!」と嘲笑した。 NBAのLAファンもいまだそう呼ぶことがある。 そして、レジーファンもたまに「シェリー」と呼ぶことがある。 ☆ミラー 「そう言われるのが好きなんだ」 「そういわれると、力が沸いてくるんだよ」 「シェリルの影として育ってきたことを意識させられた」 「シェリルは、南カルフォルニアバスケ界の全てを背負っ ていた」 「俺はいつもそんな環境の中で戦わなくちゃいけなかった」 「それを聞かないと地元でいいプレーができないくらい なんだ」 ミラーの相手ファンに対するアクションは、現在1万人もの教徒 が所属する教会の執事である父はあまり好ましいものだと思っ ていない。 ☆Saul(父親) 「ときどき、レジーは英語でない言葉を発しているだろう?」 「それはクリスチャンとしてあるまじきことだと思っているんだ」 「ただ注目を浴びて、それを闘争心の糧にしようとしているな ら・・・」 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓 4「レジーとプレーするのは大変か?」 ミラーは多くの選手やコーチから尊敬されている。 もちろん、ミラーは14年間のNBA生活において、全てのコーチと うまくいってきた訳でなかった。 3人のコーチとぶつかったりもした。 しかし、決して態度に表すようなことはしなかったし、彼らのコーチ ングを批評することもなかった。 ミラーは、特にラリー・バードとアイザイア・トーマスと強い関係を 築いてきた。 コーチ初経験の2人にはありがたいことであっただろう。 バードもトーマスも、ミラーの毎日の練習での努力や、探求心を褒 め称える。 アイザイアは、キャンプ最終日に「レジー・ミラーはプロだ」と思わず 漏らしたほどだ。 ミラーは基本的に、口でどうこういうよりも態度で周りをひっぱっ ていくタイプの人間だったが、今シーズンからは声を出すように なった。 デイル・デービス、リック・スミッツ、マーク・ジャクソンといった長 い付き合いの長い人間がいなくなってしまったが、積極的に親 睦をはかり、チームの兄貴分の役割を果たそうとしていた。 試合においても、積極的に指示をだし、若い選手にゲキを飛ばす ようにしている。 そういった対応はアイザイアにとってもありがたかったであろう。 また日々の努力の成果を示す結果がある。 キャンプ最終日、アイザイアは選手たちに辛いダッシュ数本を 課した。 しかし、ミラーより優れた結果を残した選手はたった1人だけだった。 他の選手たちが空を見上げてあえぐなか、ミラーはジョークを飛ばし ていた。 練習好きを示す例は他にもある。 オースチン・クローシェアは、インディアナでも練習を積極的に行 う選手の1人であり、ホームゲームの際には早々にジムに足を伸 ばす1人である。 しかし、クローシェアが一番であることは稀だ。 ☆クローシェア 「俺が車を降りたときには、既にミラーがいるんだ」 「彼の体へのこだわりぶりを示すいい例さ」 「ミラーは、もっともNBAで体に気を使って、自分のベストシェイプ を保とうとしている選手さ」 ミラーのそのこだわりが、引退まで彼を成長させつづけるのだ。 しかし、ミラーにも体に気を使うようになったきっかけがある。 1999年イースタンカンファレンスファイナル第6戦NY戦だ。 ミラーは3−18という酷いシュートアベレージに終わった後、 個人トレーナーを雇い、体を鍛え、ドリブルや守備練習に励む ようになった。 その結果、シュートアベレージこそ下がったものの、プレータイム は1991−92年シーズン以来上昇した。 今シーズン、ジャクソンとかの離脱で負担が増えるようになった が難なくこなしている。 ☆ミラー 「俺は、自分が激しくプレーできなくなったら、俺のポジションを 誰かに奪われることを常に意識している」 「その恐れが、俺のモチベーションを保っているんだよ」 ミラーの成長は体だけでなく、精神面でも見うけられる。 去年、ミラーは自分の契約の延長をインディアナに断られた際、 トレーニングキャンプが始まっても不満をあらわにし、プレーにも 身がはいっていなかった。 しかし、今年。 ジャクソン、デービス問題について、メディアデーで不満はも らしたものの、トレーニングキャンプに入ってもプレーに精彩 を欠くことはなかった。 ☆アイザイア 「ミラーはもっとふてくされた態度で、悲観的になっている と思った」 「しかし、再建期間という状況を理解し、一緒にやっていこ うという積極的な態度だった」 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓 5「レジー、君は法律家になるべきだった!」 ミラーの闘争的な部分をばかり見ている人間が少なからず いるが、ミラーの慈悲深いところを知る人は少ない。 ミラーは幼少時代に通った教会と、祖父の教会に多額の寄 付を行っている。 自分も火事の被災者を救済するチャリティー基金を持っている。 1997年に放火犯によって新居を燃やされたことがきっかけだ。 しかし、単にチャリティー基金を作っただけでなく、ミラー本人 も病院や学校を、しばしばアポイントなしで訪れたりもするほど、 ちゃんと力を入れてもいる・・・。 ミラーの思い通り、多くの人々がレジー・ミラーの様々なキャラ クターを十分に理解しきれていないように思える。 しかし、移住してきた、その頼りになるカリフォルニア人は、頑固 な中部アメリカ人(インディアナはアメリカ中部)の仕事熱心さ、家 族や友達との強いつながりをといった特権を黙々と具現化してきた。 Not bad, for a "bad guy." 悪い奴じゃない、悪い奴になろうとしているだけさ。