月下狂葬曲
〜The Eternity Sword & Eternity War 〜
 
序曲
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
日本 〈六花市(りっかし)〉ものみの丘
 
日本、六花の街の郊外にあるものみの丘。その丘に雪の降る中、一組の少年と少女が佇んでいる。
 
茶色い髪にまだあどけなさの残る面立ち。その両手に自身の身の丈よりも長く、白い鞘に収まった、柄に美しい翼の装飾の入った剣を抱えている少年。名は[相沢祐一]。
 
焦げ茶色の髪に翠の瞳。少年より七、八歳年上の面差し。その身を緑を基としたエプロンドレスに包んだ少女。名を[エスペリア・グリーンスピリット]。
 
祐一は虚ろに空を見上げ、エスペリアはそんな祐一を心配そうに見つめながら雪の降る中もう一時間近くもこの場に佇んでいた。と、
 
 
「……祐一様、これ以上ここに居るのは限界です。…………もうこんなに身体も冷え切ってしまっていますし、何処か雪のしのげる場所まで行きましょう?」
 
 
と、背後からそっと祐一を抱きしめながらエスペリアが言葉を掛ける。すると祐一は虚ろな目をしたままエスペリアを肩越しに振り返り、
 
 
「……………でも、エスペリアお姉ちゃん……僕に行く場所なんて………帰る場所なんて無いよ………」
 
 
寂しげな色を含んだ祐一の言葉を聞きエスペリアは祐一を抱きしめていた腕に少し力を込める。
 
そう、祐一にはもう帰る場所はないのである。祐一は、両親が幼い頃に事故で他界し今は親戚である水瀬家に居候していた。その水瀬家は日本でも魔術三家の一つに数えられる。そして祐一もまた魔術師になるべく修行を受けていた。ところが、ある日祐一は不思議な声を聞き、その声に導かれるようにとある場所に行った。そこには[永遠神剣]が封印されている大樹があり、その封印された神剣[奇跡]に祐一は呼ばれたのである。祐一は奇跡の問いに答えそして奇跡の主として認められる。そして、神剣を持ち水瀬家に戻ったがそこで待っていたのは、
 
『異端として祐一を水瀬家より追放する』
 
と言う祖父の宣告だった。祐一は追放を告げられ家を追われた。そして、帰る場所を無くし呆然とした意識のまま、奇跡と出会って場所まで戻ってくる。と、そこで待っていたのがまだ幼い祐一を護るために永遠神剣[献身]と契約した大樹の精霊、エスペリアだったのである。そして、行く場所のない祐一はそのままエスペリアと共に大樹からほど近いものみの丘まで来ていたのである。
 
 
「…………祐一様、奇跡と契約したこと後悔なさっているのですか?」
 
 
祐一を抱きしめたまま静かに祐一に問いかけるエスペリア。すると祐一の目に光が戻り、そして、
 
 
「……そんなこと無い。奇跡は僕を選んでくれた。それに、奇跡と契約しなければエスペリアお姉ちゃんには逢えなかったし………」
 
 
祐一の言葉に、先ほどまでの悲しみを慰めるのではなく、自身の内の喜びを表現するように抱きしめた腕に力を込めるエスペリア。と、その時、
 
・・・ザッ!ザッ!ザッ!・・・
 
と、雪を踏みしめこちらに近づいてくる足音が二人の耳に届いた。
 
 
「………?!!祐一様、危険ですから私の背後に!」
 
 
近づいてくる足音の主から祐一を背後に隠すエスペリア。すると、
 
 
………全く、本当にこんな所に居るんでしょうね[希望]!嘘だったらタダじゃあ置かないからね!!
 
 
と、悪態が聞こえ、長い金髪をツインテールに纏め、白いスーツに灰色のコートを羽織った美しい女性が姿を現した。
 
 
「………ああ、こんな所に人が居たわ。ねえ、少し聞きたいんだけど………」
 
 
ものおうじせずにエスペリアに話しかけてくる女性。エスペリアはそれに驚きながらも、
 
 
「………聞きたいことですか?一体何を訪ねたいんですか?」
 
 
「ええ、この辺で最近[永遠神剣]の封印が解かれなかったかしら、貴女なら解るんじゃない?スピリットのお嬢さん?」
 
 
満面の笑みを浮かべながらエスペリアに話しかける女性。エスペリアはその言葉を聞くと警戒心を顕わにしながら、
 
 
「………それを聞いてどうするのですか?………………もしあの方を傷つけようとするのであれば…[献身]!!」
 
 
と、エスペリアの声と共に、その手に翠に輝く幅広の刃を持った一振りの槍が出現する。それと同時に、エスペリアをマナの輝きが包み込み左手に一枚の盾が現れる。エスペリアはその手に現れた槍の穂先を女性に突きつける。そして、
 
 
「…たとえ貴女が何者であろうと、私の身がどうなろうとも…………斬ります!!」
 
 
静かに、しかし確固たる決意を含ませた声で女性に告げるエスペリア。女性は慌てた様子で両手を左右に振りながら、
 
 
「違う!違う!別に持ち主をどうかしようなんて考えてないわよ。ただ、私の神剣から高位の神剣の封印が解かれたって聞いて、それで気になって来てみたのよ。別に持ち主をどうかしようか何て考えてないわ」
 
 
女性の言葉に考え込むエスペリア。と、エスペリアの背後にいた祐一が女性とエスペリアの間に歩み出る。エスペリアは慌てて祐一を隠そうとするが時すでに遅く、祐一は女性の前に立ち、そして、
 
 
「………ねえ、お姉さん。本当に何にもしないの?」
 
 
「………君が契約者なの?………………………って、その手に持ってるのは確かに永遠神剣ね」
 
 
エスペリアの背後から出て質問をぶつけてきた祐一を見て驚く女性。しかし、祐一の両手に抱えられた神剣を見て納得する。そして、
 
 
「………正直驚いたわ。まさかこんな少年が上位神剣に選ばれるなんて………」
 
 
ぽつりと呟く女性。が、直ぐに気を取り直すとしゃがみ込み祐一と目線を合わせ、
 
 
「………何もしないわよ。ただ、どんな人が神剣に選ばれたか気になっただけよ」
 
 
「………………………エスペリアお姉ちゃん、この人なら大丈夫だと思うから献身をしまって?」
 
 
少しの間、女性の目を見つめていた祐一は慌てるエスペリアを落ち着かせるように言う。エスペリアは祐一の言葉に暫し戸惑ったが、
 
 
「………解りました。………………申し訳有りませんでした。初対面の相手に剣を突きつけてしまって…」
 
 
と、手に持った神剣を消すと女性に頭を下げるエスペリア。その様子に女性は苦笑いを浮かべながら、
 
 
「…くすっ、別に構わないわよ。貴女はその子を護ろうとしてやったんでしょ?だったら気にしなくて良いわ………それより、少し気になったんだけど……」
 
 
女性の言葉に頭を上げたエスペリアとその様子を見ていた祐一は、
 
 
「「気になること?何ですか?」」
 
 
「……ええ、二人はこんな雪の中、こんなところで何をしていたの?少なくとも体には良くないわよ?」
 
 
女性の問いに俯き黙り込む祐一と、そんな祐一の様子を見て悲しそうな表情を浮かべるエスペリア。その様子を見て眉をひそめる女性。そして、
 
 
「………何か訳有りみたいね。もし良かったら話してみない?もしかしたら力になれるかもしれないし……」
 
 
「「…………………………」」
 
 
女性の問いに黙って考え込むエスペリアと先ほどから俯いたままの祐一。女性はそんな様子を見ながら再度問いかける。
 
 
「さっき驚かしちゃったお詫びって事で、もし良ければ話してくれない?」
 
 
女性の言葉を聞き、エスペリアは、
 
 
「………初対面の方に話すようなことじゃあ無いですけれど、実は……………」
 
 
と、意を決したように二人がここにいた理由を話し始めた。
 
 
 
 
 
十分が経過し、
 
「…………………ふ〜ん、なるほどね…………気にくわないわね……
 
 
一通りの話を聞き終わった女性はこめかみに指を当てながら考え込む。エスペリアは話が終わるとまた黙り込み、話を聞いて自分の境遇を思い出して俯いている祐一をそっと抱きしめた。
 
少しの時間考え込んだ後、女性は
 
 
「……………決めたわ!二人とも、もし良ければ私と一緒に来ない?」
 
 
「「…………え!?!?」」
 
 
その言葉に驚き女性をみつめる二人。そしてエスペリアが
 
 
「………よろしいのですか?」
 
 
遠慮がちに聞き返すエスペリアに、女性は苦笑いを浮かべ、
 
 
「構わないわよ。あなた達二人をこのままにしておくのは嫌だし、それに、精霊使いを異端扱いしている水瀬も気にくわないしね」
 
 
軽い調子で二人に告げる女性。さらに、しゃがみ込み祐一と視線を合わせると、
 
 
「…………どう?私と一緒に来ない?あいにく何処かに定住してる訳じゃあないから学校には通えないけど、勉強なら私が教えてあげるし、それにその剣の使い方、大まかには理解していても、ちゃんと仕えるようになるには誰かに教わった方がよいし、私で良ければ教えてあげられるわよ」
 
 
女性の言葉を聞き考え込む祐一。そして、
 
 
「……………僕、一緒に行きたい!エスペリアお姉ちゃん、このお姉さんに着いて行こう。どうせこの街には帰る場所なんて無いんだから………」
 
 
前半を女性に、後半をエスペリアに向かって話す祐一。エスペリアは少し考え、
 
 
「………祐一様がお決めになったのならそれでよいと思います。私も何処まででも着いて行きますから………」
 
 
と、祐一を抱きしめたままそっと話しかける。女性はその様子に満足げに頷くと、
 
「うん!決まりね。それじゃあ自己紹介と行きましょうか、私は[沢渡真琴(さわたりまこと)]………[希望]よ!!」
 
 
女性は自分の名前を告げ、その後、右手に一振りの剣を出現させると、
 
 
「………見ての通り、永遠神剣・第三位[希望]の契約者よ、それで二人は何て名前なの?」
 
 
そう、聞いてくる女性に対し、まず祐一が手に抱えた神剣を見せながら、
 
「僕は[相沢祐一(あいざわゆういち)」、この剣、永遠神剣・第二位[奇跡]の契約者だよ、真琴お姉さん」
 
 
続いて、エスペリアが、
 
 
「私は[エスペリア・グリーンスピリット]です。先ほどお見せしたように、永遠神剣・第七位[献身]の契約妖精、スピリットです。真琴様」
 
 
二人の名前を聞き、真琴は頷く。そして、
 
 
「祐一にエスペリアね。よろしくね二人とも」
 
 
「「よろしく(お願いします)、真琴お姉さん(真琴様)」」
 
 
簡単な自己紹介が終わると、真琴は、
 
 
「………さて、それじゃあ、そろそろ行きましょうか?いい加減ここにいるのも限界だしね……」
 
 
と、雪の降り続けるものみの丘を見回しながら言った。その言葉に、
 
 
「それは賛成ですが、どちらに行かれるんですか?」
 
 
「そうね……………今日、今から出発したんじゃあ何処で足止めを喰うか解ったもんじゃないし、この街のホテルで一泊しましょう、……ああ、安心してお金ならたくさんあるし心配はいらないわよ」
 
 
エスペリアの問いに、少し考えた後答える真琴。そして、
 
 
「じゃあ、そうと決まれば早速行動開始!さあ、行きましょう!」
 
 
そう言って、祐一とエスペリアを先導し、歩き始める真琴。二人は一瞬、呆然とするが直ぐに真琴の後を追い歩き始める。
 
そして、三人の姿は雪の降る街の方に消え、あとにあった三人の足跡も降り続ける雪に、あっという間にうめつくされたのだった。
 
 
 
 
 
それから、七年の歳月が過ぎ、少年は青年に成長した。
その青年が、七年ぶりに帰郷する所から物語は始まる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
プロローグ 了
第一楽章【六花・鮮血の宴】第一小節、へ続く

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
あとがき
 
初めまして、もしくはこのSSの前身である[月と妖精の物語]の読者の方なら、おひさしぶりです。作者の斎 紫です。
このたびは[月下狂葬曲]を読んで頂きありがとうございます。
この物語はかつて執筆していた[月と妖精の物語]を加筆修正したものです。以前の物語をご存じの方も、そうでない方も楽しんで頂ければ幸いです。
まだプロローグの段階ですがこれより先、努力し良い物を執筆していこうと思っていますので、皆様、応援の程よろしくお願いします。

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