月下狂葬曲
~The Eternity Sword & Eternity War ~
 
第一楽章 六花・鮮血の宴
 
第一小節
 

 
 
 
 
 
 
 
 
    ふゆきし
日本 冬木市
                                 
古くからの町並みを残す[深山町]と、大規模都市開発により発展した[新都]の二つを中央の未遠川が東西に分かった地方都市の一つ。その西側、深山町の郊外にある一軒の洋館の裏庭。
 
百八十を超える長身、茶色い髪を耳の少し下で無造作に切り揃え、黒尽くめの服装に右手に刃渡り百五十センチほどの柄に翼の装飾の入った細身片刃の長剣を、左手にはその長剣が収まっていた白い鞘を持ち、自然体に構えた青年。[相沢祐一]。
 
その祐一に正面から対峙する、長い銀髪を首の後ろでまとめ、黒いレオタードのような服装に腰から下に纏ったマント、背に白く輝く翼を背負い黒いロンググローブを付け、黒い鞘の剣を居合い腰に構えた女性。[ウルカ・ブラックスピリット]。
 
ウルカとは祐一を中心に反対側に位置取った、長く蒼い髪をストレートに下ろし、白いワンピースのような服装に腰から纏った紺色のマント、ウルカと同じく背に白い翼を背負い上腕までを覆う白い籠手を付け、両手に柄と刃が同じくらい長さの両刃の大剣を持った少女。[アセリア・ブルースピリット]。
 
の、三人が静かに対峙していた。三人の身体はうっすらとマナの輝きに包まれ、辺りは三人の間に流れる緊張感に凍り付いたような空気に覆われている。一触即発の雰囲気を醸し出す、一分が一時間にも感じられる空気、しかしその空気も長くは続かなかった。
 
 
パキッ!!
 
 
唐突に、辺りに木の枝の折れる音が響き、そして、その音を合図にアセリアとウルカが、
 
 
「……参る!」
 
 
「……行く!!」
 
 
と言う声と共に、祐一に向かって動き出した。
 
ウルカは、居合い腰のまま残像も残さずその場からかき消え、
 
アセリアは、ウルカより僅かにタイムラグを置き、大剣を振りかぶり翼をはためかせ飛び上がった。
 
祐一はその様子を見ると、右足を後ろに引きその足の陰に長剣の刀身をを隠すように動く。
 
一瞬後、祐一の前にウルカの姿が現れ、
 
  いあいのたち
居合いの太刀!!
 
 
抜き放たれるウルカの刃は凄まじい速度で祐一に放たれる。祐一はそのウルカの動きに合わせるように、
 
 しんけんぎ・げつえいりんのたち
神剣技・月影輪の太刀
 
 
ギィン!!
 
 
足の陰から跳ね上げられた剣がウルカの居合いの一撃を上に跳ね上げる。
 
軌道を変えられバランスを崩すウルカ。
 
祐一は、剣の軌道を変えることなく円を描くように後方に振るう。と、
 
 
「ハァ!!!」
 
 
その祐一の背後から、放物線を描くように飛来したアセリアが剣を振り降ろし、
 
 
ギィン!!
 
 
祐一の斜め後方でアセリアと祐一の剣が噛み合う。しかしそれも一瞬のことで、
 
 
バシッ!!
 
 
剣が噛み合った一瞬、祐一は身体を回転させながら鞘でアセリアを横凪にする。その一撃に後方に弾かれるアセリア。
 
アセリアと祐一が剣劇を交わしている、その僅かな時間にウルカは体勢を立て直し祐一に一撃入れようとするが、
 
 
「………チェックメイトだな、ウルカ……」
 
 
アセリアを鞘の一撃で弾いた祐一が、身体を回転させながら横薙ぎに変化させた剣、その切っ先がウルカの首筋に添えられていた。祐一の言葉を聞き、ウルカはその剣に気づく。そして、
 
 
「……手前の負けです……」
 
 
と、静かに負けを認めるウルカ。そして祐一の一撃を喰らい後方に飛ばされていたアセリアも二人の様子を確認すると、
 
 
「………ん、私達の負け………残念……」
 
 
と、負けを認め、剣を鞘に収めるとゆっくりとした足取りで二人に近づいてくる。
祐一はその言葉を聞き、ウルカから剣を外し鞘に収めた。三人の身体を包んでいたマナの輝きが消え去り辺りを包んでいた雰囲気も霧散する。
 
そして祐一は、アセリアが近くまで寄ってきたのを見たあと二人に話しかける。
 
 
「少しヒヤッとしたぞ、二人とも何時の間に連携なんて使えるようになったんだ?」
 
 
苦微笑を浮かべながら告げられた祐一の言葉に、
 
 
「……何時?と言われましても、取り分けて練習した訳ではありません」
 
 
「…………ん、ウルカの言う通り。ただ、二人で鍛錬したから何となくタイミングはわかった」
 
 
ウルカ、アセリアの順に問いに答える。と、
 
 
「パパ!アセリアお姉ちゃん!ウルカお姉ちゃん!ご飯の準備が出来たよ!」
 
 
立合が終わったのを見計らったのか、三人に声がかけられる。そこには、
 
長く赤い髪をツインテールに纏め、茶色いエプロンドレスを着た十代前半くらいの外見の少女[オルファリル・レッドスピリット]通称オルファ、
 
が立っていた。祐一達三人はゆっくりと声のした方を振り返ると、
 
 
「わかったよ、オルファ。丁度今日の鍛錬が終わったところだ」
 
 
祐一の言葉にウルカとアセリアも頷き、そして三人はオルファの方に歩き出す。オルファはそれを確認すると自身は一足先に屋敷に向かって駆けていった。
 
 
 
 
 
屋敷内
 
屋敷内のリビング、食事を終えた祐一は一人でソファーに腰掛け食後のお茶を楽しんでいた。ちなみにアセリアとウルカは鍛錬に、オルファは買い物に出かけている。と、くつろぐ祐一に背後から声がかけられる。
 
 
「祐一様、祐一様宛に手紙が届いていました」
 
 
背後からかけられた声に祐一が振り返る。そこには、
 
茶色いショートカットの髪に翠色の瞳、白いヘッドピースを付け緑のエプロンドレスに身を包んだ女性[エスペリア・グリーンスピリット]。
 
が立っていた。祐一は、
 
 
「……手紙?誰からだエスペリア」
 
 
「…………それが……」
 
 
祐一の問いに言葉を濁らせながら手に持った封筒を差し出すエスペリア。祐一はその態度に訝しげな表情を浮かべながら封筒を受け取る。
 
 
「!!!!」
 
 
封筒の裏の封蝋にある紋章と差出人を見て怒りと驚きの入り交じった表情を浮かべる祐一。
そこには、雪の結晶をかたどった六角形の紋章と、差出人である[水瀬秋子]の名前があった。
 
 
「…………あの女、今更何のつもりだ?」
 
 
「……………」
 
 
自分の中に怒りを押し殺すようにして呟かれた祐一の言葉を聞き、無言のまま悲しみと怒りの入り交じった表情のエスペリア。
 
暫く沈黙の後、平静を取り戻した祐一は静かに呟く。
 
 
「………ここに姉さん達が居なくて良かったな………」
 
 
「…それで、祐一様。いかがなさいますか?」
 
 
エスペリアもまた平静を取り戻し、いつもの口調で祐一に問いかける。祐一は、
 
 
「…水瀬からの手紙なんて読む価値はないだろう?だからこうするさ…………Blaze!!
 
 
ボゥ!!
 
 
祐一の静かな言葉と共に、左手の人差し指と中指に挟まれていた封筒が炎に包まれる。瞬く間に紅い炎に包まれ灰に変わる封筒。
祐一はその灰をテーブルの上の灰皿に捨てると、湯飲みに入っていたお茶をの残りを飲み干しソファーから立ち上がる。そして、
 
 
「これで良いさ………さて、ちょっと出かけてくるなエスペリア!」
 
 
「わかりました、祐一様。どちらまで行かれるのですか?」
 
 
手紙など最初から存在しなかったように話す祐一に、同じく手紙のことを気にすることなく聞き返すエスペリア。
 
 
「ああ、橙子さんの所に行って来る。夕食までには戻ってくるから」
 
 
「わかりました、ではコートをお持ちしますね」
 
と、祐一の言葉を聞きコートを取りにリビングを後にするエスペリア。祐一はそんなエスペリアの後ろ姿を見ながら一度だけ灰皿の中の手紙だった灰に目をやると、玄関に向かったのだった。
 
 
 
 
       がらんのどう
新都郊外・伽藍の洞
 
郊外に在る外見はどう見ても廃墟と化した雑居ビル。そのビルの前に黒いコートを纏い、タバコを銜えた祐一は立っていた。
 
 
(全く、いつ来ても廃墟にしか見えない。ここが稀代の人形師にして魔術師の工房だとは誰も思わないな……)
 
 
などと考えながら、敷地内に入って行く。そして、正面から建物内に入ると、迷わず階段を上り、三階に上がる。三階に登った所で、
 
コン、コン
 
と、ドアをノックすると、
 
 
「………こんにちわ……」
 
 
と、声をかけドアをくぐり中に入る祐一。
 
 
「……いらっしゃい」
 
 
と、中にいた人物から声がかけられる。最初に声をかけたのは、机に寄りかかって窓の外を眺めている女性。
                                   
水色の髪をショートカットにし、眼鏡をかけたスーツ姿のこのビルの主[蒼崎橙子]。
 
 
「久しぶりだね、祐一君。今日はどうしたんだい?」
 
 
それに続き、机の上のノートPCに向かっていた男性。
                                
祐一と同じく黒尽くめの服装に、黒髪を左目が隠れるように伸ばした伽藍の堂に二人しか居ない従業員[黒桐幹也]
 
が、挨拶をする。祐一は、
 
 
「お久しぶりです、橙子さん、幹也さん」
 
                       
「……そうだね、前にあったのは確か……確か[聖杯戦争]の前あたりだったね」
 
 
と、橙子が答える。
 
聖杯戦争、この冬木を舞台にした七人の魔術師とその魔術師に召還された七種のサーヴァントと呼ばれる使い魔達による殺し合い。その凄惨を極める魔術儀式に、祐一は姉の真琴と共に監視者として協会からの依頼で参加していた。
 
尤もその聖杯戦争も一週間前に終わっている。祐一は、
 
 
「そうですね。監視者の立場としては魔術師と接触があると拙いので、ご無沙汰になってしまいました。一応、その聖杯戦争も片が着いたので挨拶に来たのと、あと………」
 
 
「……あと、何だい?」
 
 
と、祐一の言葉に質問を返す橙子。少し考え込み祐一は、
 
 
「……ええ、少し気になったことがあって……六花市関連で何か厄介事って起きていませんか?」
 
 
祐一の問いに少し考え込んだあと、目で幹也に合図をする橙子。幹也はそれを見て自分のデスクにあるノートPCの中のデータを開き目を走らせる。暫くして、
 
 
「……………橙子さん、一件ありました。これを……」
 
 
と、中のデータをプリントアウトして橙子に渡す。橙子はそれを見て、
 
                            
「ふむ………これか………祐一君宛の依頼だな、依頼人は[遠野秋葉]、内容は…………六花で発生している連続吸血殺人事件についてか…………」
 
 
「………橙子さん、その依頼、俺宛なんですよね。それ受けますよ」
 
 
祐一は橙子の言った言葉を聞き、少し考えたあと依頼を受けることを橙子に告げる。橙子は祐一の言葉を聞き少し考えたあと、
 
 
「………わかった、先方には私から連絡しておこう」
 
 
「ええ、お願いします。それと………今日は水曜日なので金曜日に出発するとして、そうですね、明日の夕方に来ますからその時までに出来る限りの情報を集めて貰えませんか?」
 
 
と、祐一は情報収集を依頼する。橙子はそれを聞き幹也に、
 
 
「わかった、黒桐、一日と少ししかないが頼めるかい?」
 
 
「そうですね………それだけあれば少しは集められると思います」
 
 
幹也の返事を聞き、「頼む」と、告げると祐一の方を見て、
 
 
「そう言うわけだ、出来る限りやってみる。しかし、真琴には断りを入れなくていいのかい?」
 
 
「ああ、真琴姉さんでしたら、今は聖杯戦争の報告に凛と士郎を連れて時計塔まで行っていますから大丈夫ですよ」
 
 
橙子の問いにあっさり答える祐一。橙子は祐一の言葉に納得すると、
 
 
「わかった、なら問題ないね。先方への対応と情報収集は任せなさい。祐一君はこれから帰って支度をすると良い」
 
 
祐一は、
 
 
「じゃあ、お願いします橙子さん。」
 
 
と、告げると事務所から出ていった。橙子は祐一が出ていったのを見送ったあと、
 
 
「それにしても、六花か……………祐一君の里帰りって訳ね。仕事ってのは皮肉だけど」
 
 
「………橙子さん、祐一君の里帰りって、祐一君は六花が故郷なんですか?」
 
 
橙子の呟きを聞いた幹也が問いかける。
 
 
「……そうか、黒桐は知らなかったね。そう、六花は祐一君の故郷だよ。最も家を勘当された忌まわしい過去がある場所でもあるけどね」
 
 
と、幹也の問いに無表情のまま答える橙子。幹也は、
 
 
「………そうなんですか………祐一君、大丈夫なんですか?」
 
 
「…………さあね?でも、彼が自分で受けるって言ったんだ。なら私達が干渉する事じゃあないだろう?」
 
 
橙子の言葉に何か言いたげだったがその言葉を飲み込む幹也。そして、そのまま黙って情報収集の続きを始める。橙子はその様子を見ながら窓の外を静かに眺めるのだった。
 
 
 
 
 
冬木大橋
 
新都と深山町をつなぐ冬木大橋の上。祐一は欄干に両手を乗せ静かにタバコを吹かしていた。
 
 
(……………六花か………………仕事とはいえこれも里帰りになるのかな?……………まあ良い、親父達の墓にも二年近く参ってなかったし丁度良いか………)
 
 
と、自分の考えをゆっくりと纏めていた。
 
 
(それより問題は………誰を連れて行くか、だよな………四人とも行きたがるだろうし…………まあ、誰が行くかは四人で話し合ってもらえばいい………幸い藤乃さんは居ないみたいだし………帰ってきてから埋め合わせをすれば………………少なくとも機嫌は直るだろうし…………)
 
 
「…………………………よし、考えも纏まったし、支度もあることだから帰るとしますか」
 
 
と、その場で伸びを一つするとくわえたタバコを携帯灰皿に捨て、そして屋敷に向かいゆっくりと帰路に着いたのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
第一楽章 六花・鮮血の宴
 
第一小節 了
 

 
解説
 
ここでは、本編中に出てきた技、魔術等についての解説をおこないます。
 
 
居合いの太刀
 
ウルカの使う神剣技の一つ。見た目は普通の居合い切りだが身体能力を、マナを変化させたオーラフォトンにより増幅しているため通常の居合い切りより剣速、切れ味が大幅に上がっている。
 
 
神剣技・月影輪の太刀
 
祐一の使う神剣技の一つ。足、コートの裾などに隠した剣を下から跳ね上げ相手の剣を弾く。その後、円を描くように剣を振り背に隠れた辺りで、斬撃を横薙ぎに変化させる。この時、太刀筋が陰から現れ月の輪を描くように動くことからこの名が付けられた。相手の初太刀を弾き反撃する後の先の剣技。
 
 
発火魔術
 
手にもった物、または手から炎を出す魔術。簡単な初歩の魔術であるため特に長い呪文は必要としない。魔術は使い手が多数居るため、特定の呪文は存在せず術者の数だけ存在する。祐一の呪文は「Blaze」
 
 
オーラフォトン
 
永遠神剣の使い手が使用する属性に左右されない魔力(マナ)。身体能力強化などの弱い物ならスピリット達でも使えるが強力な物は精霊使い、エターナルにしか使えない。
 

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