月下狂葬曲
~The Eternity Sword & Eternity War ~
 
第一章 六花・鮮血の宴
 
第二小節
 

 
 
 
 
 
 
 
 
六花市・駅前
 
伽藍の堂を訪れた三日後の金曜日。祐一と四人のスピリット達は六花の街に来ていた。
祐一はいつも通りの黒尽くめに目元をすっぽりと覆うサングラス、肩から大きめのスポーツバックを下げ、その祐一の右手を水色のブラウスに青いジャケットとロングスカート、紺のハーフコートを纏ったアセリアが、左手を朱色のセーターに赤と黒のチェックのミニスカート、赤いダッフルコート姿のオルファに組まれ、その祐一の後ろから緑色のエプロンドレスに茶色のコート姿のエスペリアと、黒い革ジャンにブラックジーンズ姿のウルカが続く。祐一達は改札を抜け、駅北側の出口から雪により白く彩られた駅前広場を歩いて行く。と、
 
 
「…………かれこれ二年ぶりって所か………前は墓参りだけでさっさと帰っちまったっけな………」
 
 
ぽつりと祐一が呟く。その呟きを聞きながら、
 
 
「……ふ〜ん、この街がパパの故郷なんだ〜。寒いんだね〜!」
 
 
「…………ん。寒い」
 
 
オルファが感心したように、続けてアセリアが率直な感想を漏らす。その言葉に苦笑を浮かべながら祐一は、
 
 
「……そうか、二人は此処に来るのは初めてだったな。まあ、寒いのは我慢してくれるか?何せ北国だからな」
 
 
祐一の言葉に頷くアセリアとオルファ。そんな二人の様子を優しげな瞳でみつめると祐一は気を取り直し、
 
 
「…………じゃあ、雪景色を眺めるのはこの位にして幹也さんが連絡してくれた不動産屋に向かおうか、取り合えず住むところを確保しないとな」
 
 
と、腕を組んでいる二人と後ろを歩いてくる二人に声をかけ、ポケットから地図を取り出すとそれを見ながら歩き始めた。
 
 
 
 
 
一時間後、駅からほど近いウイークリーマンションに住まいを決めた祐一達五人。祐一は四人に荷ほどき(と言っても着替えだけだが)と、食料、生活雑貨の買い出しを任せると、今回の依頼人である遠野秋葉を訪ねるために遠野本家に向かった。
 
遠野本家・街の北側のに在る住宅街。その外れの長い坂の上にある古い洋館。周りには何もなくこの家だけが世界から切り離されたような印象を受ける。そんな場所にある、夜の一族の取り纏めを行う旧家。
 
その屋敷の門の前に立った祐一は暫くの間、門とそこから見える屋敷を眺めた後、門の脇にあるインターフォンを押す。暫く待ったあと、
 
 
『はい、どちら様でしょうか?』
 
 
「伽藍の堂店主、蒼崎橙子の紹介で来ました。相沢祐一と申します。当主の遠野秋葉様にお取り次ぎを願いたいのですが……」
 
 
『………少々お待ち下さい』
 
 
インターフォンから聞こえてきた明るい女性の声に返事を返す祐一。やり取りが終わり、また暫くの間待っていると、門の向こうの屋敷の玄関が開き一人の女性がこちらに向かってくる。
 
赤く短い髪に蒼いリボンを飾り、茶色の着物を着た琥珀色の瞳の女性は祐一の前まで小走りで駆けてくると、
 
 
「相沢祐一様ですね?秋葉様がお会いになるそうです。どうぞ」
 
 
と、門を開き祐一に中に入るように促す。祐一は小さく頷くと門をくぐり敷地内に入る。
女性は祐一が隣りに並ぶのを待って、
 
 
「あ、申し遅れました。私は当家の使用人の『琥珀』と言います。よろしくお願いします、相沢様」
 
 
「琥珀さんですね。相沢祐一です。こちらこそよろしくお願いします。それと、堅苦しいのは苦手なんで俺のことは祐一と呼んで貰えますか?様付けもなしでお願いします」
 
 
笑顔で自己紹介する琥珀に祐一も返事を返す。
 
 
「わかりました。でしたら、祐一さん、とお呼びしますね」
 
 
「ええ、お願いします」
 
 
祐一の頼みに笑顔で答える琥珀。そして二人は琥珀の案内で屋敷に向かって歩き始めたのだった。
 
 
 
 
 
遠野家・リビング
 
古めかしい調度品に囲まれた屋敷内のリビングで祐一は、
 
腰まである長い黒髪に黒い瞳、白いブラウスに赤いロングスカート姿の女性、この屋敷の主であり夜の一族を取り纏める遠野本家の現当主『遠野秋葉』と向かい合っていた。
 
 
「相沢祐一様ですね、私が遠野家現当主の遠野秋葉です。このたびは遠いところわざわざありがとうございます」
 
 
「……相沢祐一です。その事は気にしなくて構いません。それより早速依頼内容を確認したいのですが?」
 
 
秋葉の丁寧な挨拶に祐一も返事を返し、依頼内容について話すように促す。それを聞き秋葉は、
 
 
「わかりました。では早速ですが話させてもらいます。依頼の内容ですが、この街で発生してる吸血殺人事件の根本からの解決です。事件の事はご存じですか?」
 
 
秋葉の言葉に祐一は橙子から渡されたファイルの内容を思い出しながら口を開く。
 
 
「ええ、確か一月ほど前から発生している事件ですね。被害者は解っているだけで五十人を超える、被害者は体内の血液の殆どを無くした状態、もしくは原形を留めないほどにバラバラにされた状態で発見されている。被害者に共通項はなく無差別、まあ間違いなく“死徒”および“死者”の仕業ですね」
 
 
断定するように告げる祐一。
 
死徒・吸血鬼の一種。超越種のなかの吸血種と違いもとは人間。それでも不完全な不老不死を持っていて、それを維持するために頻繁に他者の血液を欲する。外見は人間と何ら違いがない。
 
死者・死徒に血を吸い尽くされ屍、ゾンビとなって活動しているモノ。元は人間だが完全に死体となっているため思考能力などのない死徒の操り人形で死徒に命じられるまま生きた人間を襲う。死者に噛まれ絶命したモノもまた死者となる。
 
秋葉はその祐一の言葉に頷きながら、
 
 
「相沢さんのおっしゃるとおりです。すでに久瀬家と倉田家からの報告にもありました。両家もそのように断定して対策を立てているようです」
 
 
秋葉の言葉に納得する祐一。
 
久瀬家・六花の街に居を構える退魔師の一族。日本の退魔三家に数えられる名門。
 
倉田家・久瀬家と協力関係にある魔術師の一族。元は水瀬四分家(相沢・倉田・美坂・月宮)の一つだが、現当主の長男が精霊使いとなったことにより家ごと追放された。
 
 
「(久瀬と倉田が動いているが手が足りないって事か)……わかりました、引き受けます。、それで他の機関は動いていないのですか?特に埋葬機関が来ていると厄介なんですが?」
 
 
「………埋葬機関ですか?…………今のところ確認されてはいないようですが、来ていないのか、それともよほど上手く隠れているのかはわかりません」
 
 
祐一の問いに現状を告げる秋葉。祐一は取り合えず納得する。と、秋葉が言いにくそうに祐一に告げる。
 
 
「……それと、もう一つ、これは依頼では無いのですが……」
 
 
「…………ん?何ですか?」
 
 
「実は、私の兄である『遠野志貴』が最近、夜に出歩いているようなのです。それで、もし見かけて危険だったら助けてやって欲しいのですが……」
 
 
秋葉の言葉に暫し考え込む祐一。そして、
 
 
「……………そうですね、わかりました。出来る限りやってみましょう。ただし、あくまで本業は“死徒及び死者の殲滅“です。遠野志貴の護衛は目に付いた時だけになるがそれで構わないですか?」
 
 
「はい、よろしくお願いします」
 
 
祐一の条件に承諾する秋葉。そして、秋葉は祐一の前に一枚の写真を差し出す。その写真の人物、
 
黒い短髪に黒い瞳、学校の制服らしき詰め襟を着た黒縁眼鏡の人の良さそうな青年。
 
 
「これが兄の『遠野志貴』です。よろしくお願いします」
 
 
祐一はテーブルに置かれた写真を受け取ると頷くことで返事を返した。そして、
 
 
「………この依頼確かに引き受けました。それと緊急の連絡先を教えて貰えないでしょうか?」
 
 
「はい、緊急の連絡先ですが………」
 
 
と、秋葉は屋敷の電話番号を書いた紙を渡す。祐一はそれを受け取ると、自分の携帯の番号を書いた紙をテーブルに置き、ソファーを立ち、
 
 
「……では、俺はこれで失礼します」
 
 
「はい。では、よろしくお願いします」
 
 
祐一は秋葉の言葉に頷くとリビングを出て玄関に向かう。玄関を出て門まで来ると、いつの間にか後ろに琥珀が着いて来ていた。祐一は振り返ると、
 
 
「それじゃあ、失礼します。琥珀さん」
 
 
「はい。祐一さん、気を付けてお帰り下さい」
 
 
祐一の言葉に頷く琥珀。そして祐一はそのまま屋敷の門をくぐり遠野家の屋敷を後にした。
 
 
 
 
 
六花郊外・市営霊園
 
祐一は遠野家を出た後、住宅街を抜けた先にある市営霊園に来ていた。祐一は、今日が祐一の両親の月命日であることを遠野家からの帰り道に思い出し、マンションへと帰るのを止めて花と線香を買うとここを訪れたのである。
 
祐一は【相沢家代々之墓】と書かれた墓の上に積もった雪を払い落とし、買ってきた花を供え線香に火を点すとサングラスを外し立ったまま静かに手を合わせた。
 
 
心の中で両親にこの二年間の報告を静かに行う祐一。
 
 
十分ほど手を合わせた後、祐一は目を開き合わせていた手を解く。そしてサングラスをかけ直し手桶を持って踵を返したその時、
 
 
カコン!
 
 
静かな霊園に音が響く。祐一の前方、玉砂利の敷かれた通路に一人の女性が、驚愕の表情を浮かべ、それまで手に持っていたと思われる花の入った手桶を落としたまま立ちつくしていた。
 
ピンクのカーディガンに白いロングスカート、ベージュのコートを纏った長く青い髪を三つ編みにした女性。
 
その女性の様子を気にした風もなく祐一は通路を歩き始める。そのまますれ違い出口に向かおうとした祐一の背後から声がかけられる。
 
 
「……あの!祐一さん……祐一さんですよね?」
 
 
祐一はその声に反応し立ち止まる。そして、
 
 
「………確かに俺は相沢祐一だが、あんたは?」
 
 
祐一は面倒くさそうに振り返りながら訪ねる。
 
 
「……わたしです。貴方の母親の妹で叔母の『水瀬秋子』です」
 
 
祐一の問いに驚き口ごもるも直ぐに返事を返す。
 
 
「叔母?……悪いが人違いじゃあないか?俺の身内はあそこの墓に眠っている両親と、あとは冬木にいる姉だけだ」
 
 
そんな祐一の言葉を聞き悲しげな表情を浮かべながら秋子は、
 
 
「そんなことはありません。わたしは「……ああ、そう言えば七年前に追放された家が確か『水瀬』だったと思ったが、十歳の子供を追放して置いて今更身内面するなんて恥知らずな真似をするとは思えないが」っ!!」
 
 
秋子の言葉を遮るように言う祐一。その遮られその言葉に含まれた意味、それは、
 
[追放して置いて今更身内面するな]
 
その意味を察し黙り込む秋子。祐一はその様子を見ながら、
 
 
「……そう言えばこの街の[管理魔術師]の家が水瀬家だったな。あんた、そこの関係者か?」
 
 
管理魔術師・魔術師協会からその土地の地脈などの管理を任された家。大きな地脈のある街、大都市などには必ず存在する。
 
先ほどまでの話の内容と全く違うことを訪ねる祐一。その言葉に秋子は、
 
 
「………はい、確かに私はこの街の管理魔術師である水瀬家の当主ですが……」
 
 
「そうか、なら忠告だ。今、この街には死徒と死者が蔓延っている。俺はその死者と死徒の殲滅を依頼された。これから水瀬家がどういう動きを取るかは自由だが俺の邪魔だけはするな。あまりふざけたことをすると最悪、水瀬家と敵対することもありうるからな」
 
 
静かな口調で秋子に忠告を出す祐一。秋子は無言で祐一の言葉に頷く。それを見た祐一は秋子に背を向けると何も告げずに出口に向かって歩き始めた。秋子は祐一に声をかけようとするもその背中に見える明確な拒絶の意志に何も言うことが出来ず黙って祐一を見送るのだった。
 
 
 
 
 
水瀬家・秋子の書斎
 
霊園で祐一と予期せぬ再開をした秋子は、動揺しながらも家に帰ってきていた。そのまま書斎に向かい、机の上の電話の受話器を上げると何処かに電話し始めた。
 
 
「…………水瀬秋子ですが、当主をお願いします」
 
 
「…………………、……………………………、………」
 
 
「……ええ、私です。調査をお願いします。対象は相沢祐一。ええ、今、この街に来ています」
 
 
「………、………。…………………」
 
 
「………ええ、お願いします。いつも道理、報告は書類で………ええ…………ええ、でわ、お願いします」
 
 
電話を終わり受話器を置く秋子。そして、暫く考えた後、書斎から出ていくのであった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
第一楽章 六花・鮮血の宴
 
第二小節 了

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