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The End Of EVANGELION After
灼眼の魔王
序章・邂逅
「………はぁはぁはぁっ……………はぁはぁ…………」
深い森の中、かつて富士の樹海と呼ばれていた森の中を一人の少年が何かに追われるよう
に走っている。
短い黒髪に女性的な顔立ち。白いカッターシャツに黒いズボン。そして人にはあり得ない
真紅の瞳の少年。名を『碇シンジ』と言った。
「………はぁはぁはぁっ……………はぁはぁ…………」
その少年は、第三新東京市ではサードチルドレンと呼ばれ、汎用人型決戦兵器エヴァンゲ
リオン初号機のパイロットとして特務機関NERVに所属し、幾多の使徒と呼ばれる生命
体との戦いに勝利してきた。
「………はぁはぁはぁっ……………はぁはぁ…………」
その後、秘密結社ゼーレ、及び特務機関NERV総司令、少年の父親である『碇ゲンドウ』
の引き起こした二つのサードインパクトの依り代とされるもアダムとリリス、そしてタブ
リスの導きにより人類の滅亡という名の補完を防ぎ世界を再構成させる事に成功する。
「………はぁはぁはぁっ……………はぁはぁ…………」
全てが終わった。そう思っていた少年だがその後少年を待っていたのは絶望だった。
消滅したゼーレと違い、再構成した世界にも存続したNERVは、国連からのサードイン
パクトの原因追求に対し秘密結社ゼーレと依り代となった碇シンジ少年に全ての罪を押し
つけたのである。
曰く、「サードインパクトは秘密結社ゼーレとそのゼーレに操られた碇シンジによるもの
である。特務機関NERVはその発動を防いだのである。」と、
NERVから提出された大量の証拠を国連も認め、それにより碇シンジは戦争犯罪者とし
て第三新東京市から逃げざるおえない状況になった。
「………はぁはぁはぁっ……………はぁはぁ…………」
そして少年はNERVのエージェント達に追われこの森に逃げ込んだのだった。
「………はぁはぁはぁっ……………はぁっ、…ここまで来れば大丈夫かな?」
シンジは手近な樹に寄りかかり額の汗をぬぐう。
「くそっ!……こんな事のために、居場所を失うために僕は戦ってきたって言うのか……
…。こんな結果のために僕は僕を好きだと言ってくれた人を殺したのかよ!!」
地面に何度も拳を打ち付け、憤りをぶつけるシンジ。何度も、何度も、拳が切れ血が滴っ
ても止めようとはせずに、
「………………ふざけるなよ、何がNERVを存続させるため、だ!何が仕方がなっかた、
だ!!」
しばらくの間、地面にやり場のない怒りをぶつけていたシンジの耳に、
「…………っちだ!!……………から声が……………たぞ!!」
走ってきた方向から複数の声が聞こえ、
「………もう追いつかれた?!………くそっ!!…………………ん??あれは??」
声に反応して走り出す準備をしたシンジの目に木立の間に一軒の古びた洋館が目に入っ
た。
「誰も住んで無さそうだな、あそこに隠れさせて貰おう」
そう呟き、シンジはその洋館に向けて走り出した。
………ギィ………ギィ………
床板を軋ませながらシンジは洋館の一階の廊下を歩いていた。
「……………本当に廃墟みたいだ。僕にとっては好都合だけど…………」
一人呟きながら、シンジは廊下を進んでいく。と、突き当たりに地下へと続く階段を見つ
けた。シンジは階下に広がる闇に一瞬躊躇するが、
「……………………地下か……………上にいるよりは音が外に出なくて良いかも……」
と、意を決して地下へと降りていった。
十メートルほど階段を降りるとそこには重厚な扉があった。今度は躊躇せずにその扉を開
き中に入るシンジ。そこには薄明かりの中シンジの身長の一・五倍ほどの本棚が並ぶ部屋
になっていた。
「………ここは…………書庫?………でも何で地下に?」
疑問符を頭に浮かべながら本棚の間を進むシンジ。その先には本棚の主が使用していたの
か、机と椅子がありそしてその上には二冊の本が並べて置かれていた。
「何でこの二冊だけ本棚に入っていないんだろう??」
そして、右手でその二冊の本の表紙にそっと触れる。と、
「………しまった!、血が付いちゃったよ…………え?!?!?!」
突然、突風が巻き起こり、二冊の本のページが外れシンジの周りを回り始めた。
「?!?!?!?!何だよこれ?!?!?!」
シンジが軽いパニックに陥っていると、今度はページがシンジの周りから離れ二カ所に集
まり始める。そして最後の一ページが集まるとそこには二人の少女が立っていた。
一人は紫の長い髪に蒼色の瞳、黒を基調としたフリルやリボンの付いた膝丈のワンピ−ス
姿の少女。
もう一人は長い銀髪に蒼と金のオッドアイ、青と白の民族衣装のような服装をした少女。
シンジはあっけにとられながらも何とか心を落ち着かせそして、
「……………えっと、君たちは??」
シンジの間抜けとも取れる質問に対して、二人の少女は、
「初めまして、マスター。私は『ナコト写本』の精霊『エセルドレーダ』と申します」
「わたしは、『るるいえいほん』のせいれい『るいえ』」
落ち着いた声とたどたどしい声で告げる二人の少女。シンジはパニックになりそうな心を
何とか落ち着け、
「精霊ってここにあった本の??それに僕がマスターって、一体??」
「はい、マスターが先ほど触れた二冊の魔導書それが私達です。そして」
「ますたーがふれたときにちがついた。それによりかりけいやくがせいりつしてますたー
からまりょくがながれてきた。それによってわたしたちはほんのすがたからいまのすが
たがとれるようになった」
「それで僕がマスターって事?、でも僕に魔力なんて物が本当にあるの?」
二人の説明を聞き、新たに浮かんだ疑問を投げかけるシンジ、
「それは勿論です。で無ければ幾ら仮契約を行ったとはいえ私達が今の姿を取る事は出来
ません。それに」
「それに、わたしたちはこのせかいにあるよっつのさいこういのまどうしょ。そのうちふ
たつとどうじにけいやくしてもへいきなますたーは、とてもたかいちからのもちぬしだ
ってこと」
「なるほど、でもさっき仮契約って言ってたけど?それは??」
「それは、もしマスターが望むのであれば私達と契約し私達の知識、そして私達自身をゆ
だねる、と言う事です」
「じゃあ、もし僕が望まないって言ったら??」
「そのときは、かりけいやくをはきしてまたねむりにつくだけです」
よどみなく答える二人。その答えを聞きシンジは、
「一つ聞いて良いかな?君達はそうやってどれぐらいの間孤独に過ごしてきたの?」
「私達二人とも、おおよそ三百年くらいです。マスター」
エセルドレーダの言葉を聞き唖然とするシンジ。そして意を決したように、
「解った。僕で良ければ契約しよう。……………でも僕と契約すると、君達も人類の敵と
して扱われてしまうかもしれない。それでも良いかい?」
「構いません。私にとってマスター以外はどうでも良い存在ですから」
「わたしもかまわないです。でもますたーどうしてそんなこというんですか?」
シンジの言葉を聞き嬉しそうにする二人、そしてルイエの疑問に対しシンジは
「…………そうだね。解った、僕に何があったか、どうして追われているか、それを話す
よ」
シンジは悲しそうな笑顔を浮かべそして語り始めた。一年前シンジが第三新東京市に呼ば
れてから、サードインパクトが終わり戦争犯罪者として第三新東京市を追われるまでの事
を。
長い話が終わりシンジは顔を上げる。 そして、
「これが僕が追われている理由だよ。それでもこんな僕でも君達は必要としてくれるか
い」
自嘲の笑みを浮かべながら二人を見るシンジ。と、二人はシンジに近寄り自分達二人より
頭一つ大きいシンジを抱きしめ、そして、
「かまいません、マスターの思い、辛さ、苦しみ、全て解りましたから」
「これからはへいき、たとえせかいじゅうのにんげんがますたーをひていしても、わたし
たちはますたーのそばにずっといますから」
「………………ありがとう二人とも」
シンジは二人を抱き返し、そして静かに涙を流した。二人はシンジが落ち着くまで抱きしめ続けたのだった。
暫くしてシンジは泣きやみ、そして、
「・・・・あははははは・・見苦しいところ見せちゃったね」
「いいえ、それでは正式な契約を行いましょうか、マスター」
「うん、お願いするよ。僕は何をすればいいの??」
「ますたーはそのままめをとじてください。あとはわたしたちがやります」
「わかったよ、目を閉じれば良いんだね」
と、シンジは目を閉じ、そしてエセルドレーダが、
「まず私から、『我、古き人々の英知と星々の加護を受けし書なり、其の知と力を絆とし
此の者と長き刻を共に進まん』」
凛とした声で、歌うように告げそして、エセルドレーダはシンジと唇を重ねた。
シンジは一瞬唇に柔らかくて暖かい者が触れ驚くものの、そのまま瞳を閉じていた。そし
て、
「つぎはわたし『われ、ふかきもののちしきとかごをうけたるしょなり、そのちとちをき
ずなとしこのものとひさしきときをともにすすまん』」
たどたどしいが、ハッキリとした声で告げ、ルイエもエセルドレーダと同じようにシンジ
と唇を重ねた。
二度目だったためかシンジもさほど驚かず、そして目を開け、
「これで、契約完了?」
「はい、これからよろしくお願いします。マスター」
「るいえもこれからよろしく。ますたー」
「うん、でも僕の事はシンジ……………いや、もう碇の姓もシンジって名も捨てよう。僕
は今から、シンと名乗る事にするよ。だから二人もシンって呼んでくれるかな?呼び捨
てで構わないから?」
シンジはそう二人に告げると、エセルドレーダは少し困ったような顔をするが、
「解りました。シン、それでは私の事もエルと呼んで下さい」
「るいえのことも、るいえってよんでください。しん」
「解ったよ。これからよろしくね、エル、ルイエ」
二人に向かい、今までとは違う明るい笑顔を浮かべ、シンジ改めシンは告げ、そして、
「でだ、これからどうしようか、エルとルイエから貰った知識で何とか魔力は使えそうだ
けど、やっぱり練習しないと辛いだろうし………でも追っ手がこの屋敷の近くまで来て
るし……………」
「シン、それなら大丈夫です。この屋敷の周りには結界が張ってありますから、一定以上
の魔力を持っていないとこの屋敷には気付けません」
「だから、あんしんしてここでれんしゅうはできるとおもうの」
二人の説明を聞き納得したシン。
「なら、ここで魔術の練習をして、力が付いたら外に行って世界中を回ってみようか?二
人とも三百年も眠ってたんなら世界を見て回った方が良いだろうし」
「はい、シンの思う通りに。私達はそれに従いますから」
「るいえもそれでいいとおもう」
「解った、じゃあそうしようか。二人とも魔力の使い方の御教授お願いします」
そう言ってシンは二人に頭を下げる。
そして、この日を境にサードチルドレン、碇シンジはNERVをはじめとする彼の事を追
う組織から完全に消息を絶つ事になる。
そして、サードインパクトから五年の月日が流れ・・・・・・・
序章・邂逅 了
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