|
The End Of EVANGELION After
灼眼の魔王
第一章・使徒再来・前編
第二東京国際空港と第三新東京市を結ぶ幹線道路上を走行している一台の車。そのステアリングを握る、首の後ろで纏めた長い黒髪、真紅の瞳、銀縁の眼鏡を掛け黒いYシャツに黒いズボン、首から下方一角の欠けた五紡星のペンダントを下げた青年『九重シン』は、助手席に座った少女に話しかける。
「なあエル、Drに作って貰ったIDと書類の確認をして貰えるか?」
エルと呼ばれた、紫色の長い髪に翠色の瞳、黒いワンピースを着た少女『エセルドレーダ』は膝の上の書類鞄から大小三つの茶封筒を取り出し、
「これですね、シン」
「ああ、それだ。まずIDからだな。俺とエルとルイエの分、ちゃんとあるか確認してくれるか?」
シンの言葉に、小さい茶封筒の中身を取り出し確認すると、
「問題ないみたいですね。でもシン、何故私達の分まで作ったんですか?これだって安く
ないんでしょう?」
「だからって二人をずっと書のままにしとくのは嫌だ。大学に行ってるとき以外は二人は
今の姿でいて欲しいからな」
シンの言葉に嬉しそうな表情浮かべるエル。続けて、
「それにそんなに掛かってないぞ。この前Drの研究の手伝いをしたときのお礼に作ら
せたし、第一アイツには迷惑掛けられっぱなしだからな」
「そうですか、なら良いんですけど・・・・・ってマスター!!またあの人になにかされ
たんですか??」
納得したのもつかの間、シンの言葉に気になる部分を見つけ声を荒げるエル、
「違う違う、この前手伝ったのはレポートだ。今度学会で使うんだとよ」
落ち着いた様子でエルに答えを切り返すシン。と、
「でもいまだになっとくできないです。なんであのひとがよんだいまどうしょのひとつ『しんぴのかがく』のますたーなんですか」
それまで後部座席で黙って二人の話を聞いていた、長い銀髪に蒼と金のオッドアイ、空色のワンピ−スを来た少女『ルイエ』が訪ねる。
「まあそう言うなよ。ああ見えても科学っていう分野の魔術じゃあアイツは世界でもトップクラスなんだから・・・・・・紙一重のほうだけどな」
「確かにそうなんですけど、やはり納得出来ないものがあります」
「うんうん、しんとちがってき○○いだし」
二人の容赦のない言葉に苦笑を浮かべるシン。
「まあDrの話題は置いといて、エル、他の書類に不備は無いよな?」
シンの言葉を聞き、大きい封筒の中身を確認するエル。そして、
「問題ないです。シン、住居の手続きも留学用の編入書類も不備は無いです」
エルの言葉を聞き安心するシン。と、
「でもどうしてわざわざだいがくなんていくんですか?しんにとってだいがくなんてひまつぶしでしかないです」
「確かにそうなんだけどな。まあ暇でふらふらしてるよりは良いよ」
ルイエの言葉にまたも苦笑しながら答えるシン。と、その目に標識が映る。
第三新東京市まであと二十km
その標識を見てシンの目つきが変わり、そして、
「あと、少しか………………五年、長いようであっという間だったな………………」
シンの感傷的な呟きを聞き二人は真面目な顔になり、そして、
「ますたー、ほしぼしのならびはふういんのかぎをあけた。あとはもんがひらかれればふういんはとける」
「解ってるよルイエ、だけどせっかく元に戻した世界だ、ヤツの好きにはさせないさ。それがタブリス・・・いやカヲルの願いでもある」
「はい、マスター。全てはマスターの願いのままに、私も全力で手伝います」
「るいえもがんばる」
「ありがとう、二人ともよろしく頼むよ」
二人の言葉にシンは強く返事をする。そして、ステアリングを握り直し第三新東京市目指して愛車であるブルーのコルベットのスピードを上げるのだった。
第三新東京市。
特務機関NERVの本部のある黒き月・ジオフロントの上に建造された使徒迎撃要塞都市。
五年前の『使徒戦役』の際、EVA零号機の自爆と最終決戦の際に使用されたN2兵器により跡形もなくなったが、その後再建され今ではその名残は郊外にある第二芦ノ湖とその周辺に残された残骸にのみ見る事が出来る。
そして、その第三新東京市のほぼ中央にある大学、市立第三新東京大学のオープンカフェにある一組のテーブルに暗い空気をまとわりつかせた二人の女性が座っている。
一人は、長い赤みがかった金髪に青い瞳の太陽を思わせる女性、特務機関NERV所属、エヴァンゲリオン弐号機Rパイロット、セカンドチルドレン『惣流・アスカラングレー』。
もう一人は、短い蒼銀の髪に赤茶色の瞳の月を思わせる女性、特務機関NERV所属、エヴァンゲリオン零号機Rパイロット、ファーストチルドレン『綾波レイ』。
五年前の使徒戦役に置いてそれぞれのEVAを駆り使徒を倒し、そしてゼーレの起こそうとしたサードインパクトを防ぎ世界を救った英雄である。その二人が暗い表情を浮かべ向かい合って座っているの。と、二人の背後から、
「なに不健康な空気を漂わせているのよ、二人とも何かあったの?」
「お二人とも体調が悪いのでしたら、医務室に行かれた方がよろしいと思いますが?」
元気の良い声と落ち着いた声が掛かり俯いていた二人は顔を上げ声の主を見る。
かたや、短い茶髪に垂れ目の茶色い瞳の女性『霧島マナ』。
かたや、長い黒髪に黒い瞳、黒縁の眼鏡を掛けた口元にほくろのある女性『山岸マユミ』。
二人とも五年前の使徒戦役の最中に知り合い一時期離れていたものの、全てが終了した際にこの街に戻ってきた、レイとアスカの友人達である。
「ほんとにどうしたの二人とも、こんないい天気にお通夜みたいな空気を纏ってるよ?」
マナとマユミの二人は気遣わしげにレイとアスカを見ながら空いていた椅子に座る。
「ちょっとね、昨日嫌なこと聞かされちゃって、それでね」
アスカは二人に答え、レイもその言葉に同意するように小さく頷く。
「嫌な事ですか?二人がここまで落ち込むって事は……………………」
口元に人差し指を当て考え込むマユミ。それに同調するように腕を組むマナ。そんな二人を見てアスカは、
「……………ねえレイ、二人には話した方が良いんじゃないかな。一応関係者みたいなものだし」
「……………………そうね、話ても問題ないと思うわ」
「なんのこと??私達も関係者って??」
「………………私達に共通することといえば……………シンジさんの事ですか??」
二人のやり取りに考え込むマナ。そして少し考え込んだ後に疑問を口にするマユミ。
「そうよ、昨日NERVに行ったときに葛城一佐に言われたこと。その事で二人にも話しておいた方が良いと思う事があるんだけど」
マユミの疑問に答えるレイ、そしてその後に続くようにアスカが、
「実はね、昨日いっぱいでシンジの捜索が打ち切られたのよ」
「理由は、五年前富士山の麓の森で見失って以来NERVを始めとする各国の諜報機関の捜索にも関わらずその後の足取りが全くつかめないから」
「その結果、サードチルドレン碇シンジはその登録を抹消、戸籍その他についてもその全てを抹消するってことが決定したのよ」
アスカとレイが交互に昨日伝えられた内容を二人に告げる。そして、
「ちょっと待って。じゃあシンジは…………」
「もし、シンジさんが第三に帰ってきたとしても戻る場所はおろか、その存在自体を消されたってことですか?」
二人は話を聞き唖然とし、その後先ほどのレイとアスカのような雰囲気を纏う。沈んだ雰囲気を浮かべ四人は黙ったまま席に座り俯いている。と、そんな四人に声が掛かる。
「なんや、良い天気におなごが四人でお通夜みたいな空気漂わせて、不健康極まりないで」
威勢の良い関西弁に振り向く四人。そこには、
短い黒髪に黒い瞳、Tシャツにジーンズ姿の青年、特務機関NERV所属、エヴァンゲリオン参号機Rパイロット、フォースチルドレン『鈴原トウジ』。
そのトウジに寄り添うように立つ、長い黒髪に黒い瞳の少女『洞木ヒカリ』。
その二人に答えるように話しかけるアスカ。
「ああ、ジャージにヒカリ。そりゃ沈みもするわよ。昨日ミサトから聞かれた話、それを二人にも教えたのよ」
「なんや、それで沈んどるんか?」
なんでもないように答えるトウジ。その態度に苛立ったアスカは声を荒げて、
「何よ!アンタは悔しくないの!アイツ等シンジから帰る場所まで奪ったのよ!アンタ、シンジの親友でしょ!腹が立たないの!!」
「………………………確かにミサトはん達のしたことはむかつくわ。だけどな、それで暗くなることはあらへんな」
「どうしてよ!?殆ど死亡扱いと一緒なのよ!・・・・・・・・・アンタまさかシンジが死んだとでも思ってるんじゃないでしょうね!!」
「それこそまさかや、センセはあの地獄みたいな一年を生き抜いて来たんや。簡単にくたばるかいな。ワイだってセンセは生き取るって信じてる」
「だったらどうしてよ?!」
「何、簡単なことや。センセの戸籍が消されたんや。だったらセンセに掛けられた濡れ衣も意味無いもんになった。だからセンセが帰ってきたとしてもNERVは手出しできんちゅうことや。なら帰ってきたら加持はんかリツコはんに戸籍を作って貰えばいいやないか」
トウジの言葉に、はっ!と顔を上げる三人と唖然とするアスカ。そして、
「アンタってそんなに知恵が回ったの?意外だわ」
「なんやそれは、でもたしかにワイの知恵じゃない。ヒカリとケンスケの知恵や」
「そうよね。……………………でも確かにそれなら何とかなるわ」
「せや、だから後はセンセが帰って来てくれれば良いだけなんや」
トウジの言葉に暗かった雰囲気を払拭される四人。するとそれまで黙っていたヒカリが、
「ようやく明るくなったみたいね。ところでそろそろ次の講義が始まるんだけど行かないと拙くない?」
「………あ〜〜っ!!何でもっと早く言ってくれないのよヒカリ!!」
「だってアスカ、話に夢中になってたから邪魔しちゃあ悪いかなって思って………」
すまなそうな表情を浮かべて答えるヒカリ、
「……………うっ、たしかにそうだったっけ。ほらレイ、マナ、マユミ急がないと講義に遅れるわよ」
ごまかすように三人をせかすアスカ。そして、
「じゃあ行きましょう。ヒカリ達も行くんでしょ?」
「ああ、そうやな。急がへんと間に合わんしな」
「そうね、鈴原。行きましょう」
そう言うと六人はそれぞれがう受ける講義のおこなわれる教室に向かい急ぐのだった。そこには先ほどまであった暗い雰囲気は跡形もなく払拭されていたのだった。
第三新東京市郊外・第二芦ノ湖
大学での手続きを終えたシンは住居であるマンションにむかった。そして私物を片付け終わり、今度は共同で使用するものを片付けようとしたところ、エルとルイエが「自分達に任せてくれ」と言い手伝わせてくれなかったため、手持ちぶさたとなり散歩がてら第二芦ノ湖まで来ていた。
しばらくの間、湖畔を歩いていたシンだったが、ふと足を止め近くにある石(かつて第三新東京市にあったビルの残骸)に腰を掛け、そして大きく息を吸うと目を閉じ、
−今は盛りと散る花と、風の間の間に遊びましょう−
男性にしてはやや高い、凛と澄んだ声で歌い始めた。
−花に乙女の夢を見て、風の狭間に遊びましょう−
−人の匂いを運び来る、風を纏うて踊るは魔物−
−それは人とは触れ合えぬ、枷を纏うて歌うもの−
−花の香りと戯れて−
−人の香りは恋しくて−
−人にあらざる悲しみを、風の乙女と歌いましょう−
「…………………ふぅ、で、いつまで隠れているんです?聞いていたのなら感想の一つも欲しいんですが?」
歌い終わり一息つくと背後の木の陰に声を掛ける。しかしその声に対する返事はなく、シンは暫く待った後に再度、
「……………………いい加減出てきてくれません?特務機関NERV所属、保安諜報部部長、加持リョウジ一佐」
少し強めの声に観念したのか、よれたYシャツに黒のスラックス、くたびれたネクタイに無精ひげに尻尾髪の男性『加持リョウジ』が木陰から姿を見せた。
「やれやれ、完全に気配は消していたんだが、簡単に見つかってしまったな」
呑気な口調でシンに声を掛けるリョウジ。対するシンは憮然とした様子で、
「…………………………で、加持さん。感想は?」
「………いや、失礼。そうだな…………透明な歌声ってヤツか?かなりのものだと思うよ。ただ……………」
シンに促され感想を伝えるリョウジ。シンはリョウジの言いよどんだ語尾が気に掛かり首を傾げながら、
「ただ、何です?」
「………いやね、聞いた事の無い曲だな、と思ってね。一体誰の曲なんだい?」
加持の疑問に納得し、シンは答える。
「旅の途中で知り合った女のコに教えて貰ったんですよ。良い曲ですから」
「確かにそうだな。悲しげで儚げで、良い曲だ」
シンは感想を聞き終わると満足げに頷き、そしてリョウジの方を振り返り、
「改めて、お久しぶりです加持さん。それにしても耳が早いですね。もう第三に居るって知られてしまいましたか。……………それで今回の用件は??」
「ああ、久しぶりだなシン君、元気そうで何よりだ。今回の用件なんだが、良い知らせと伝言と質問、どれからが良い?」
シンはリョウジの質問に対し少し考えた後、
「そうですね………………良い知らせから聞かせてくれます?」
「解った。まず良い知らせだけど、昨日付けで正式に『碇シンジ』に対する捜査命令が解除になった。それに伴ってサードチルドレン『碇シンジ』の登録の抹消、『碇シンジ』の戸籍その他の抹消が行われたよ」
「ふ〜ん、今更って感じですね。今の俺は『碇シンジ』ではなく『九重シン』ですし。で、次の伝言ってのは??」
特に感慨もなく先を促すシン。シンにとって『碇シンジ』と言う名は五年前に捨てたものである。だからシンにとってその名が抹消されたからと言って特に何の感情も湧かない、言葉通り今更なのである。リョウジもそれを解っているからか、気にした様子もなく話を続けるのだった。
「ああ、その伝言だがDrからだ。[我が輩は最後の一冊を探しに行く。見つかり次第合流するのでその間ヤツの件は任せる。]だそうだ」
「そう………………Drが動いてくれたんなら安心………………かな?」
今度はシンの語尾が気になり質問を返すリョウジ。
「…………………疑問形なのかい?」
「…………まあ、大丈夫でしょう。Drってちょっとアレだけど腕は確かだし。それで最後の質問てのは??」
本当に任せても大丈夫なのかいささか不安だが、気を取り直して話を続ける二人、
「ああ、シン君が来たって事と、Drの言葉と行動、やっぱりアレが近いのかい??」
リョウジの言葉にシンは真剣な表情を浮かべ、
「ええ。俺とエルとルイエ、三人の予測だと明日第一の使者が来るでしょうね」
「そうか………………一つ聞きたい。今のNERVの配備されているEVAで彼等に勝てると思うか?」
「ハッキリ言って無理です。オリジナルのEVAなら何とかなると思いますけどいまのタイプRでは百機集めても無理でしょうね」
「………そうか」
「加持さん、心配は無用です。本音を言えばNERVがどうなろうと知った事じゃあないですけど、アレを倒すのは俺の使命ですから、NERVのEVAがやばくなったら俺が何とかします」
シンの言葉を聞き何とか気を取り直すリョウジ。そして少しの間、二人は何も話さずにその場に佇んでいた。そして、
「……………さて、そろそろ俺は行きますよ。そうだ、リツコさんとマヤさんに伝えてくれます?[俺に会いたければ、明日第一の使者を倒した後ここに来れば会えます]って」
「ああ、あの二人も会いたがっていたし、確かに伝えておくよ」
リョウジの言葉に頷くと、今度はポケットからメモ用紙を取り出しリョウジに差し出す。
「あと、これ。家の住所とTELの番号です。加持さんとリツコさんとマヤさんにだけ教えときますね」
リョウジは紙を受け取り、
「解った。他の人間には漏らさないよ」
「ええ、よろしくお願いしますね。じゃあ俺はこれで…………」
そう言うとシンはリョウジに背を向け足早に愛車のコルベットが止めてある場所に向かった。
一人その場に残される形となったリョウジは受け取ったメモをポケットに仕舞い空を見上げると、小さく呟いた。
「明日か………………………………………今度の戦いも人類の勝利で終わるのか…………それとも………………………………」
第一話・使徒再来・前編 了
あとがき
初めまして、今回はThe End Of EVANGELION After・灼眼の魔王を読んで頂きありがとうございます。作者の、斎紫と申します。
まず、今回、初のEVASSの執筆なので細かい部分に矛盾等があったりするかもしれません。十分気を付けてはいますがもし発見したりした場合は気にしないと言う方向でお願いします。
次に、何故シンジが魔力を持っている設定かというと、シンジはサードインパクト「セフィロト」(ゼーレの起こしたもの、ゲンドウの起こしたものはサードインパクト「リリス」)の依り代となった訳ですがこのセフィロトの方は一種の魔術儀式だと作者は考え、その儀式の依り代なのだから潜在的な魔力は高いと考えてこういう設定にさせて貰いました。
最後に、心の補完についてですが、シンジ以外の人類全てに適応されている(リリンとなった綾波レイも含める)とさせて頂きます。その結果インパクト前に死亡もしくはEVAに取り込まれた者も『渚カヲル』を除き復活していると考えていますのでそのつもりで読んで頂くようお願いいたします。
長くなりましたが、今回はこんなところで。まだ物語は始まったばかりですがよろしければ最後までおつきあい下さい。
|