|
The End Of EVANGELION After
灼眼の魔王
第一章・使徒再来・中編
早朝、シン達の住むマンションの寝室。キングサイズのベットの上、片膝を抱えて静かに佇んでいるシン。その両脇にはエルとルイエが安らかな寝息を立てている。
「…………朝か………」
静かに呟くシン。と、横で眠っていたエルが僅かな身動ぎのあと目を覚ます。そして、
「………おはようございます、シン。………………シン、もしかして眠れなかったのですか?」
「…………ああ、気が高ぶってるのか、それとも五年ぶりに帰ってきたせいか、何故か眠れなくてな」
エルの問いに答えるシン。そしてベットから降りるとナイトガウンを羽織り、
「エル、シャワーを浴びてくる。その後朝食の支度をするから、少し経ったらルイエを起こしてくれるか?」
「はい、シン………………大丈夫ですか?無理はなさらないで下さいね。朝食の支度でしたら私達がやりますし……………」
ベットの上でシーツを纏ったエルは、気遣わしげにシンに訪ねる。
「大丈夫だ。俺も偶には料理もやりたいしな」
シンはエルの方を振り返り、優しい微笑みを浮かべると、そう告げそのまま部屋を出ていくのであった。
特務機関NERV
かつて、第三新東京市に本部を置き使徒迎撃を主任務に活動してきた特務機関。使徒戦役の最後にゼーレの情報操作により戦略自衛隊に襲撃され、施設と職員の大半を失うも、その後起こったサードインパクトにより殺された職員は蘇り、破壊された施設もその後半年ほどで復興された。国連のサードインパクトに対する原因究明、その他の国際法違反行為(クローン等)も秘密結社ゼーレとインパクトの依り代となった碇シンジに罪を着せる事でその罪を問われる事もなかった。
そして今はEVAとMAGIを始めとする数多くのオーバーテクノロジーを研究する組織として、そして各国の紛争を調停する国連直属の公開組織として存続していた。
そんな特務機関NERVの本部。技術部第一課課長『赤木リツコ』博士の研究室。その研究室で二人の女性が端末に向かっていた。
一人は、肩口あたりで切り揃えた金髪、スーツの上から白衣を羽織った女性、この部屋の主『赤木リツコ』
もう一人は、短い黒髪に高校生に見える童顔、NERVの制服を着た女性、赤木リツコの助手である『伊吹マヤ』
ふと、凄まじい速度でキーボードを打っていたリツコは顔を上げ時刻を確認した。時刻は午前十時半。そして、
「………ふぅ……マヤ、少し休憩にしましょう」
と、隣の席に座る助手のマヤに声をかける。
「はい、先輩。じゃあ私コーヒー入れてきますね」
そう言ってマヤは席を立ち、近くにあるコーヒーメーカーに向かう。と、
〈ニャア〜♪ニャア〜♪ニャア〜♪………〉
唐突に何処からか、猫の泣き声が響く。それを聞きリツコは自分の前の端末を操作する。するとモニターに研究室前の廊下が映し出される。そこには一人の男性が映っていた。
「加持君?………今、ロックを外したから入って良いわよ」
手元の端末を操作して扉のロックを解除するリツコ。
プシュッ!
小さな空気の抜ける音と共に扉が開き、モニターに映っていた男性『加持リョウジ』が入ってきた。リョウジは軽く片手を上げ、
「よっ、おはようリッちゃん、マヤちゃん」
軽い調子で二人に挨拶をするリョウジ。
「おはよう、加持君。珍しいわね、あなたがココに来るなんて………」
「おはようございます、加持さん。そうですね、葛城さんがココには良く来るから………」
挨拶の後似たようなコメントをする二人にリョウジは苦笑しながら、
「………確かにそうだが、まあ今回は特別でね」
「「……特別(ですか)??」」
リョウジの言葉に首を傾げる二人。そんな二人にリョウジはいたずらっぽい笑みを浮かべながら胸ポケットから一枚の折り畳んだ紙片を取り出し二人に差し出す。
リツコはその紙片を受け取り開く。と、そこにはマンションの住所と部屋番号、そして十一桁の数字が書かれていた。リツコは再度首を傾げると紙片をマヤに渡し、
「………住所と数字の方は電話番号かしら?………これの何が特別なの?」
リツコの問いかけに笑みをいっそう深いものにしながらリョウジは、
「確かに住所と電話番号さ……………でだ、それ誰の者だと思う?」
楽しそうに二人に問いかけるリョウジ。すると紙片とにらめっこしていたマヤが、
「………う〜、もったいぶらないで教えてくださいよ〜」
泣きそうな声で訴えるマヤに苦笑しながらリョウジは、
「ああ、その住所と電話番号だけどな、シンジ君………いや、今はシン君か、のものだよ」
「……………え!!」
「………本当なの!加持君!彼が、シン君が戻ってきたの!!?」
加持の言葉に驚き唖然とするマヤ、そして驚きながらもリョウジに質問を返すリツコ。リョウジはそんな二人を満足げに見ながら、
「ああ、昨日戻ってきたらしい。第二芦ノ湖で会ってな、そのメモもリッちゃんとマヤちゃんにだけ教えてくれって、シン君から直接渡されたものさ」
そして改めて二人の顔を見たあと笑みを消しリョウジは言葉を続ける。
「彼が言うには今日、第一の使者が来るそうだ。………彼は予測だと言っていたがほぼ間違いないだろう………」
リョウジの言葉に驚いていた二人だが、笑みを消して言ったリョウジの言葉に直ぐに元の表情に戻ると
「………そう……また始まるのね、戦いが………」
「ああ、シン君が言うには今度の敵はオリジナルのEVAならともかく、今のタイプRじゃあ百機集めても勝ち目のない相手らしい………またシン君に頼りきりになるだろうな」
辛そうに俯くリツコ。そしてその後に告げられたリョウジの言葉にマヤは泣きそうな顔をしながら、
「そんな………前の戦いでも辛い思いをしたのにまた戦うんですか………」
「ああ、彼は自分の使命だって言っていたよ。正直心配だよ、インパクトの事もそうだが彼は何でも自分で背負い込みすぎる………」
リョウジは静かにそう告げる。と、それまで俯いていたリツコが、
「………そこまで話したって事は私達にも何か出来るって事よね、加持君」
「そうだな、俺たちが出来る事っていえばさしずめ、戦闘中にNERVから変な横槍が入らないようにする事ぐらいじゃないかな」
「そうですね、手伝う事が出来無いならせめて葛城さんの暴走を止めないと………」
考えがまとまった三人は示し合わせたように頷き、そして、
「なら決まりだな、俺は第一種戦闘配置中に発令所には居れないから二人に任せる事になると思うが………」
「任せて置いて加持君、ミサトは私が押さえるから」
「そうですね、加持さんは民間人の避難の徹底をお願いします」
三人はお互い出来る事を確認する。
「さて、じゃあ俺は葛城に見つからないうちに行くとするよ……………そうそう、シン君から伝言があったんだ[俺に会いたければ第一の使者を倒した後に第二芦ノ湖まで来て下さい]だってさ、どうする?」
「「勿論、行かせてもらうわ(もらいます)」」
即答で答える二人に苦笑を浮かべるリョウジ。そして、
「了〜解、じゃあ戦闘が終わった頃にまた来る事にするよ」
そう返事を返し部屋を後にするリョウジ。そして残った二人は、
「さて、そうと決まればさっさと仕事を片付けて置くわよ、マヤ!」
「はい、先輩!」
と、端末に向かい仕事を再開するのだった。
第三新東京大学・裏庭
昼過ぎ、午前中の講義を受講し終わったシンは構内の裏庭にある樹の幹に背を預け、静かに目を閉じ座っている。真夏の日差しが降り注ぐ中、木陰になっているこの場所では涼やかな風も相まって穏やかな雰囲気に包まれている。と、
《マスター(ますたー)!》
唐突にシンの脳裏に、エルとルイエの声が響き、シンはゆっくりと眼鏡の奥の真紅の瞳を開く。そして、
「………来たか、『メタトロン』………」
そう呟くと立ち上がり、傍らに置いてあった鞄を手に取ると木陰を後にした。
同・駐車場
裏庭を後にしたシンはそのまま駐車場に向かうと愛車に乗り込む。そして鞄から二冊の書を取り出すと助手席と後部座席に置き、そしてエンジンをかけ車を発進させた。
暫く走り大学の敷地を抜ける。と、シンは片手をステアリングから離し剣指(手を握り人差し指と中指を立てる)を結ぶとその手で旧神の紋章(五紡星)を空中に描く。そして
「アクセス!魔術師九重シンが命ずる。魔導書〈Pankotic
Manuscripts(ナコト写本)〉、〈R'lyeh
Text(ルルイエ異本)〉よ、我との契約に基づき汝等の真の姿をあらわせ!!」
シンの言葉が紡がれたと同時に、助手席と後部座席に置かれた二冊の書が光を放ち、次の瞬間エルとルイエがその場に姿を現した。
「二人ともおまたせ、大学の敷地から出たからその姿に戻したけど状況の説明は必要かい?」
「いいえ、必要ありませんよ、シン」
シンの問いかけにエルが答える。そして、
「それよりしん、わたしたちはどこにむかっているのですか?」
「ああ、今は強羅絶対防衛線の見える高台に向かっているんだ。もうじきに非常警戒宣言が発令されるだろうし、そうなれば第三新東京市の市民には避難命令が出る。そうなるとNERVの監視があるから街中にいるのは得策じゃあないからな」
「「わかりました」」
ルイエの質問に答えるシン。その答えに納得したのか頷き同意を返す二人。
「………シン、あの一つ疑問が残るのですが、なぜ直ぐに迎撃に行かないのですか?」
「ああ、それはだな………」
と、エルが少し考えたあとまたも疑問を口にする。その問いにシンは口元に笑みを浮かべながら、
「確かに俺達が直ぐに向かって迎撃すれば済む事だけどな。でもそれじゃあNERVの出番が無くなるだろ、せっかくだから道化には道化らしく踊ってもらおうと思ってな」
「そう言う事ですか、解りました。NERVにはせいぜい派手に踊ってもらいましょう」
「そうですね、はやくにははやくなりのでばんをあたえないと」
シンの答えに笑みを浮かべる二人。そして、
「納得したみたいだな。なら少し急ぐ事にする。二人ともちゃんと捕まってろよ」
「「はい!」」
二人の返事を聞き、シンはアクセルを踏み込み愛車のスピードを上げると高台に向かって走り出したのだった。
それから五分後、東海地方全域に非常警戒宣言が発令され、第三新東京市にも市民の避難命令が発令された。
NERV本部・第一発令所
シン達が高台に向かっている頃、ここNERV本部第一発令所は慌ただしさに包まれていた。
原因は少し前に海上自衛隊の巡視艇によってもたらされた『我、駿河湾沖二十キロニテ所属不明ノ大型ノ飛行物体ヲ発見ス』の一報である。
NERV本部では送られてきたデータをMAGIで解析、その結果『パターンブルー』、本来あり得ないはずのパターン、使徒を示すものだったのである。
その結果を受けたNERV上層部と統合作戦本部長の『葛城ミサト』一佐は戦略自衛隊とUNに協力を要請、同時に東海地方全域に非常警戒宣言を発令、チルドレンの非常招集と第三新東京市の全市民の避難命令を実施、そして今に至るのである。
「葛城一佐、戦自及びUNから海岸線での防衛ラインの設置は不可能、内陸第二防衛ラインでの迎撃を行う、との連絡です」
NERVの制服を着、眼鏡をかけたオペレ−ター『日向マコト』一尉が報告を入れる。つづいて、
「第三新東京市民の避難完了、続いて第三新東京市、迎撃体勢に移行します」
同じくNERVの制服を着た、ロン毛のオペレーター『青葉シゲル』一尉が報告を入れる。
「チルドレン各員、本部に到着。現在発令所に向かっています」
オペレーターの最後の一人であるマヤが報告をする。そして、
「解ったわ、戦自とUNには了解したと伝えて。それとこちらからも無人偵察機を発進させてちょうだい」
「了解」
赤いジャケットを着、胸に十字架のペンダントを下げた黒髪の女性『葛城ミサト』が報告を聞きすぐさま指示を出す。ミサトはオペレーターの返事を聞くと隣にいるリツコに話しかける。
「………リツコ、どう思う?確か裏死海文書によれば使徒は十八種、これは本来あり得ないんじゃあないの?」
「わからないわ、ただ目標の予想進路はここ、第三新東京市に向かっている。そうである以上迎撃しない訳には行かないんじゃあないの」
正論を返すリツコに何も言えなくなるミサト。
(シン君の予測が当たった。………魔術師に魔導書、非科学的だと思っていたけど興味が湧いてきたわね)
そんな事を考え、ニヤリと笑みを浮かべるリツコ。その間にも次々に入ってくる情報や報告に一段とあわただしくなる発令所。
同・司令塔
発令所を見下ろすように建てられた司令塔。その司令塔には三人の男女が階下の喧噪を見下ろしていた。
一人はスーツ姿で白髪の初老の男性、特務機関NERV副指令『冬月コウゾウ』
一人はスーツの上から白衣を纏った茶髪の女性、特務機関NERV副指令兼技術部顧問『碇ユイ』
その二人に挟まれるように椅子に座り、両手を口の前で組んだ髭を蓄え赤いサングラスを掛けた男性、特務機関NERV総司令『碇ゲンドウ』。
三人は司令塔の上から慌ただしい発令所を眺めている。と、
「………碇、ユイ君、この事態どう思うかね?確か裏死海文書にはもう使徒の襲来はあり得ないはずでは無かったのかね?」
沈黙を破るように開かれたコウゾウの口から紡がれた言葉は、奇しくも階下のミサトがリツコに発した言葉と同一のものだった。
「冬月先生、確かに裏死海文書に記された記実では使徒はアダムからリリンまでの十八種、イレギュラーを入れたとしても二十種ですわ」
コウゾウの問いに苦虫を噛み潰したような顔で答えるユイ。続いてゲンドウが、
「………確かにこの事態はあり得ない事だ。しかし襲来したものは迎撃しなければならない」
「…………確かにそうだが………だが、勝てるのかね?」
「……問題ない、そのためのNERVであり、そのためのEVAだ」
コウゾウの問いに当然のように答えるゲンドウ。と、そのとき発令所の扉が開き三人の男女が入ってきた。
同・発令所
プシュ!
空気の抜ける音と共に扉が開き、三人の男女が入ってきた。そして、
「………ファーストチルドレン、セカンドチルドレン、フォースチルドレン出頭しました」
三人の真ん中にいるアスカが代表して答える。続いて、
「…………葛城一佐、突然の非常招集の理由、説明願います」
「せや、それに、市内の避難命令と非常警戒態勢についても説明してくれまっか」
と、レイとトウジがミサトに問いかける。
「そうね、わかったわ。十五分ほど前に駿河湾沖にて所属不明の飛行物体を発見、続いて送られてきた波形パターンを解析、結果『パターンブルー』、使徒である事が確認されたわ」
「「「使徒!?!?」」」
ミサトの言葉に驚く三人。驚愕の表情を浮かべる三人を見回す。ミサトの言葉に続けてリツコが
「その結果を受けて、すぐさま日本政府に連絡。東海地方に非常警戒宣言を発令、続いてチルドレンの非常招集。目標の予想進路がココ、第三新東京市である事が解ったため市内に避難命令を出したわ」
「…………それで、現在の状況は?」
いち早くショックから立ち直ったレイが質問を続ける。
「現在、戦自とUNが内陸の第二防衛ラインで防衛線を構築しているわ。あなた達の出撃は少し待って」
「「「…………了解」」」
ミサトの言葉に納得するレイ達。するとオペレーターの一人が、
「葛城一佐、戦自及びUNから入電。防衛線の構築完了、いつでも迎撃に移れる。との事です」
続いて、別のオペレーターが
「無人偵察機、第二防衛ラインに到達。映像をメインモニターに映します」
「わかったわ、戦自とUNには目標が接近し次第各自の判断で攻撃するよう伝えて」
了解、と言うオペレーターの返事を聞きモニターに向き直るミサト。リツコとチルドレンもまた、モニターに映る映像に視線を送っている。と、
「目標、あと二十秒で第二防衛ラインに到達」
オペレーターからの報告に、固唾をのんで食い入るようにモニターを見る発令所の面々。
そして、遂に、モニターに目標の映像が映し出された。
「「………っ!!!!」」
「「………なっ!!!」」
「「………嘘!!」」
映し出された映像を見て絶句する発令所の面々。そこに映し出された目標の姿。それは白い巨大な翼を広げ、右手に大剣を持ち、は虫類を思わせる頭部、そして口元に醜悪な笑みを浮かべた一体の巨人だった。
「……………EVA量産機…………」
発令所にいる誰かの呟き。その呟きが合図になったのか、
「戦自及びUN攻撃を開始しました!」
シゲルの言葉に続くように、今度はマヤが、
「目標に高エネルギー反応!」
モニターに映る戦車隊が砲撃を開始すると同時に量産機も空いた左腕を上から下に振り下ろした。次の瞬間、
ザッ!ザーーーー………
モニターの画面がホワイトアウトし、そしてサンドストーム変わった。
「………何が起きたの!?」
「無人偵察機、撃墜されました」
驚愕から立ち直り問いかけたミサト。その問いに返事を返すマコト。そして同じく驚愕から立ち直ったリツコが、
「マヤ!映像を定点カメラのものに切り替えて!!」
「りょっ了解!!」
切り替えられたカメラをの映像がモニターに映る。そこに映し出された映像、それは、大破し炎上する戦車とヘリ、そして今度は上空の戦闘機部隊に左手から白く輝く光線を放つ量産機の姿だった。
「どうやら地上部隊を壊滅させたのはあの光線みたいね。マヤ!すぐにあの光線を解析!それと量産機のATフィールドはどうなっているかも確認して」
映像を見て直ぐにマヤに指示を出すリツコ。続けて今度はミサトに、
「それで、どうするのミサト。第二防衛線は壊滅。航空部隊もそんなに持たないわよ」
「わーてるわよ!アスカ、レイ、鈴原君、直ぐにプラグスーツに着替えてエントリープラグに、EVA各機は起動し次第順次強羅絶対防衛線に射出。そこで目標の迎撃に当たるわ」
「「「………了解」」」
ミサトに指示に従い発令所を後にするチルドレン達。その後ろ姿を見送りながらリツコは、
「それでどうするのミサト?量産機はS2機関内蔵型、それにダミープラグで動いているわ………もっともパターン青の次点でプラグは意味をなしていないでしょうけど……」
「わかってるわ、それで目標のATフィールドとあの光線は何なの?」
リツコのセリフに逆にと言いかけるミサト。それに対してリツコは、
「…………マヤ、解析結果は?」
「はい、先輩。まずATフィールドですが検出されていません。戦車隊の攻撃はATフィールド以外の防御手段で防いだか、そのまま当たったものと思われます。それとあの光線ですが、荷電粒子、レーザー、陽電子、その他の粒子のいずれとも一致しませんでした。また出力も計測不能です。EVAのATフィールドで防げるかは不明です。」
マヤの報告を聞きミサトに向き直るリツコ。そしてミサトは苦い表情を浮かべる。
「戦自及びUNの航空部隊、共に全滅しました」
マコトからの報告を聞きミサトは、
「太平洋艦隊に通信を!指向性のN2弾頭ミサイルを目標に撃ち込んでもらって。EVAでの迎撃準備が整うまで時間を稼がないと」
「了解!」
ミサトの指示に従い太平洋艦隊に通信を入れる。その言葉を聞きリツコが慌てて、
「ミサト、正気なの!?幾ら指向性のN2でも効果があるか解らないのよ!?」
「仕方ないわ。少なくとも足止めぐらいにはなるでしょう」
「だからって………」
ミサトがあっさりと答え、それに対してリツコが再度口を開こうとする。それ良り早くマコトが、
「太平洋艦隊より、SCBM発射されました。着弾まで後三十秒」
その報告を聞きモニターに目を向けるミサトとリツコ。
三十秒後、量産機にミサイルが着弾し一時的にモニター及びセンサーが使用不能になる。そして、
「…………モニター回復、映像出ます」
オペレーターの報告が入りモニターが復活する。そこには片腕と上半身を焼かれ蹲る量産機の姿が映し出された。
「目標の構成物質の十パーセントを消却に成功」
「目標、活動を停止。自己修復中だと思われます」
「MAGIの計算の結果、再侵攻は一時間後との予測です」
マコト、シゲル、マヤの順に報告が入る。それを聞きミサトは、
「これで一時間は時間が稼げるわね。EVA各機の起動準備を、起動し次第強羅絶対防衛線にて目標の迎撃を行います」
「「「了解!!」」」
ミサトの指示に従いEVAの起動準備を始めるオペレーター達。その様子を見ていたミサトは、ふと隣りに居るリツコが自己修復中の量産機を映したモニターを見つめているのに気付き、
「………どうしたのリツコ?」
「………………いえ、指向性のN2を受けてもあれだけしかダメージを受けていないのが気になってね。やっぱり何らかの防御手段を持っているって事かしら?」
ミサトの言葉に自身の考えを告げるリツコ。それを聞きミサトは、
「気にしすぎじゃないの?着弾したときはセンサーも利かなかったんだしそのせいで感知出来なかっただけじゃあないの」
「………………そうだと良いけど」
ミサトにそう返事を返すリツコ。ミサトはしばらくの間リツコを怪訝そうに見つめていたが、少しすると整いつつあるEVAの起動準備の方に気を取られそれ以上気にする事はなかった。
そして遂に、再び襲来した使徒と、人の作り出した汎用人型決戦兵器エヴァンゲリオンとの戦いが始まるのだった。
それは後の世に第二次使徒戦役または邪神戦争と呼ばれる戦いの始まりを意味していた。
第一章・使徒再来・中編 了
|