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The End Of EVANGELION After
灼眼の魔王
間章・使徒再来、その後で
NERV本部・第一会議室
NERVにとって予期せぬ使徒の襲来から一夜明けた日の午後、NERV本部の会議室では幹部達による会議が行われていた。
会議に出席した幹部達は正面にあるモニターに移る先日の使徒戦の映像を食い入るように見つめている。モニターの中ではNERVのEVAがなす術なく敵にあしらわれ、そして謎の人物達が使徒を容易く殲滅する様が映される。
一連の映像が終わり、
「………以上が先日の使徒戦の様子です。なお、今回の使徒襲来は完全に予想外、裏死海文書にも記されていませんでした」
淡々と報告するリツコ。そのリツコに対しコウゾウが、
「赤木博士、今後も使徒が襲来する可能性は?」
「はい、それについてですがMAGIの判断によると75%の確率で襲来すると予測されました。理由は五年前のゼーレ侵攻時に確認された量産機が発見されていないことが主な理由です。また、今回襲来した使徒の解析結果ですが、99.89%で五年前に襲来した量産機と一致しました」
リツコの報告に会議の参加者に動揺が走る。続いてユイが、
「敵性体の使用した光線と壁については?」
「はい、光線と壁についてですがNERVの観測機器では計測不能なエネルギー量でした。また、光線、壁共に現存する全てのエネルギーとの共通点が無くMAGIも解析不能を示しています」
そのリツコの言葉にざわめきが会議室に広がる。続けて、
「最後に、今回襲来した使徒の持っていたロンギヌスの槍のコピーの回収に成功しました」
「……………そうか!回収出来たのか、それは運が良かった……」
リツコの報告に驚きながらも言葉を返す冬月。
ロンギヌスの槍・相手のATフィールドを無効化する能力を秘めた槍。サードインパクトで失われたオリジナルの槍に比べれば質は落ちるものの、十分に使徒戦の切り札になりうる。
冬月の言葉に込められた意味を察しながら、淡々と報告終えたリツコは席に着く。続いてリツコの隣の席の女性、
朱金色の長い髪に青い瞳、娘によく似た容姿の、セカンドチルドレンであるアスカの母親であり特務機関NERV技術部第二課課長『惣流・キョウコ・ツェッペリン』。
が、立ち上がり報告を始める。
「続いてEVA被害状況を報告します。まず零号機ですが、胸部拘束具大破。幸い素体にはダメージが無ので今日中には修復が終了します。続いて弐号機ですが、こちらは目立った損傷はありません。最後に参号機ですが、肘から先が切断されていますの修復には約三週間ほど掛かると思われます」
キョウコは手元の書類を見ながら簡潔に報告をする。と、報告を聞いていたミサトが、
「修復の件はわかりました。が、現状のEVAの性能でこれから襲来するであろう使徒には対抗が可能なのでしょうか?」
「………結論から言えば不可能だと思われます。そこでEVAの強化を提案したいのですが?」
ミサトの質問に答えながら指令であるゲンドウに訪ねるキョウコ。その質問に対し、
「……許可する」
ゲンドウの言葉を聞きキョウコは、
「では、作戦部に質問します。EVAの強化、零号機と弐号機、どちらを優先しますか?参号機の修復のこともありますから両方同時にと言うのは不可能です」
その言葉を聞き考え込むミサト。暫く考え込んだ後、
「………弐号機を優先してください。レイとアスカではアスカの方がシンクロ率が高いので……」
「わかりました。但し、強化出来るのは筋力のみですのでその事は忘れないでください」
と、ミサトの言葉に応える。それは暗に、使徒の特殊能力やEVA最大の武器であるATフィールドは強化が出来ない、と言うことを意味していた。そして、
「第二技術課からの報告は以上です」
と、締めくくり席に着くキョウコ。それを確認した後、コウゾウが、
「……では、続いて使徒を撃退した謎の人物についての報告を…」
コウゾウの言葉にリョウジが立ち上がる。と、同時に正面のモニターに使徒撃退時の人物、シン、エセルドレーダが表示される。そして、
「はい、使徒を殲滅した謎の人物ですが、男の方が『九重シン』、少女は『エセルドレーダ・ナブリス』だと思われます」
リョウジの言葉と共に、モニターが分割され二人の顔写真が映し出される。と、使徒戦の際の映像と表示された写真を見比べたコウゾウが、
「……男の方は髪の色が違うようだが?」
「それについてですが、髪の色は違うものの、顔を構成する他のパーツが100%一致しましたので同一人物だと判断しました」
と、疑問に答えるリョウジ。今度はミサトが、
「それで、この二人は何者なの?」
「九重シン、二十歳の大学生、国籍はアメリカ合衆国、現在第三新東京市には、アメリカに在るミスカトニック大学より第三新東京大学に留学生としてきている。専攻は言語学、すでにミスカトニックでは修士課程を修了、博士課程に移る前に一年の予定で留学した。続いて、エセルドレーダ・ナブリス、十三歳、国籍はアメリカ合衆国、現在九重シンを保護者とし同居しています。なお、学校には通っていません」
ミサトの質問に手元の資料を見ながら答えるリョウジ。さらに、
「それと備考ですが、九重シンにはもう一人同居している被保護者の少女がいます。名前は『九条ルイエ』、年齢、その他はエセルドレーダ・ナブリスと一緒です」
と、モニターのエセルドレーダの写真の下に、長い銀髪に蒼と金のオッドアイの少女の写真が表示される。と、
「………背後関係は?」
「現在調査中ですが、今のところ張り付けてある諜報部員からは特に報告は上がっていません」
ゲンドウの問いに答えるリョウジ。その報告にゲンドウは暫く考え、
「……………引き続き監視を続けろ」
と言うゲンドウの指示に「了解」と答えるとリョウジは席に着いた。そして、コウゾウが次の報告を促し、広報部等のその他の部署が報告を行い、その後、二時間ほど会議は続いたのだった。
第三新東京大学・裏庭
NERV幹部達が会議を行っている丁度そのころ、シンは講義の合間の暇な時間を大学の裏庭でのんびりと過ごしていた。
裏庭に生えている樹の幹に背中を預けて座り手に持った本を読むシン。そのシンの傍らでどこからか取り出したティーセットでお茶の準備をするエル。シンの太股を枕に微睡んでいるルイエ。木陰となったその場所は周りの静寂も相まって穏やかな雰囲気を醸し出している。と、
「………大導師……」
「……リューガ?その呼び方は止めてくれって言わなかったっけ?」
唐突に呼ばれて返事を返すシン。シンの寄りかかっている樹の裏側にいつの間にか一人の青年が姿を現していた。
その青年、ぼさぼさの茶髪に黒尽くめの服装。左目の所に縦に入った細い傷、それ以外は整ったか彫りの深い顔立ちの『リューガ・クルセイド』は、
「………わかった、隊長」
「……ん、大導師なんてガラじゃあないからな。本当ならシンで良いんだけど……」
言い直したリューガの言葉に、本から目を離すことなく答えるシン。そして、胸ポケットから一枚のディスクを取り出すと後ろに差し出す。リューガはそのディスクを受け取りポケットに仕舞い、そして、
「……確かに受け取った。それと気を付けろ、NERVの諜報部員が監視している…」
「ああ、わかってる。気を付けなきゃ為らないのはオマエも一緒だろ?」
と、あっさりと監視されていることを告げるリューガと、気にした風もなく逆に注意を促すシン。そのシンの言葉に、
「俺に関しては心配ない。Dr特製の携帯光学迷彩装置があるからな」
「……そっか、なら心配ないな。報告書の事頼んだぞ」
「……了解…」
リューガはシンの言葉に静かに応えると、また現れた時と同じように音もなく姿を消した。と、会話が終わりリューガが姿を消すのを待っていたかのようなタイミングでエルが、
「シン、お茶が入りました、どうぞ…」
「……ん、ありがとう…」
差し出されたカップを受け取り口を付けるシン。その様子を黙ってみているエル。そして、
「……ん、おいしい。また腕を上げたねエル」
「ありがとうございます、シン。でも、まだまだです」
シンにほめられ嬉しそうに笑顔を浮かべるエル。シンもその様子を微笑を浮かべて見ながら、本から手を離しシンの太股を枕に微睡んでいるルイエの頭をそっと撫でる。
「……ん……」
その刺激に僅かに身動ぎをするルイエ。その様子を笑顔で眺めるシンとエル。と、
「そういえばシン、先ほどリューガに大導師と呼ばれて否定されていましたけど、どうしてですか?」
「……ああ、そのことか。大導師なんてガラじゃあないし、それに、導師って言うからには誰かを導く存在だろ、俺はそんな人間じゃあないよ」
そのシンの言葉に「そうですか」と少し残念そうにするエル。その様子を見たシンは少し考えた後、
「…………まあ、大導師ってのはガラじゃあないけど大魔術師ってのなら納得するから、そんな残念そうな顔をするなよエル」
「…………はい、シン」
シンの取り直しに直ぐに機嫌を直すエル。と、そのとき、
リィン!!
澄んだ鈴の音のような音が辺りに響く。しかし周りにはそんな音を発するようなモノはない。突然の出来事にルイエも目を覚ましシンの隣りに自分の位置を移す。シンとエルは落ち着いた様子でそれを見つめている。と、唐突に、
世界がウラガエッタ!!
唐突に辺りが闇に包まれた。夜闇のような暗闇の中エル、ルイエはシンに寄り添い、そしてシンは辺りの様子を注意深く眺めながら、
「……こういう呼び出し方はあまり歓迎出来ないんだが、『名付けられし暗黒』」
「……ふむ、少し趣向を凝らしてみたのだがお気に召さなかったようだね『黒き魔王』」
と、シンの呼びかけに答えが響き、シン達の前に闇が集まると長い黒髪に白い貌、小さな丸眼鏡に足下まで覆った夜色のマント姿の青年となる。シンは姿を現した青年に動じることなく、
「……で、こんな悪趣味な呼び出し方をしたんだ、何か用があるんだろ?」
「…そうだね。では、まずは祝辞を、君の願いを叶えるための第一の障害の排除、おめでとう…」
シンの言葉に青年は口元に酷く楽しげな笑みを浮かべてそう告げた。シンはその言葉を聞き少し眉を上げ、エル、ルイエはその言葉に気分を害したのか殺気を込めた鋭い視線で青年を射抜く。そして、
「……わざわざそんなことを言いに来たんじゃ無いだろ。だいいち、こちらを勝手に過小評価し本来の姿を取らなかった相手に勝っても自慢にはならない。それよりさっさと本題に入れよ」
不機嫌そうなシンの言葉と、エル、ルイエの殺気の混じった鋭い視線に動じることなく、青年は、
「そう言うなら本題に入ろう。まず、君の願いを叶えるための最後の一つが近い内に君の元に届けられるだろう」
「……!そうか、アレの入手、成功したか………しかし……」
青年の言葉に喜ぶものの、その後考え込むシン。その様子を見た青年は、
「ふむ、黒き魔王、担い手の心配をしているのなら安心したまえ、担い手も直ぐに君の前に現れる」
「……………そうなのか?いや、オマエがそう言うならそうなんだろうな………わかった、今は考えないで置こう」
「………賢明な判断だな。流石はもう一人の人界の魔王だけある。君の宿命、君の願望、共に越え難き困難の先にある。そこまでたどり着けるかどうかは君次第だ。まあ、助言はするがね…」
「くっくっくっ」と楽しげに笑いながらシンに告げる青年。そしてシン達三人をみつめると、
「………さて、今回の邂逅はこのぐらいにしておこう。では、またいずれ遭おう黒き魔王よ」
リィン!!
青年の言葉と共に鈴の音が辺りに響き、一瞬の後、辺りを覆っていた闇が晴れシン達は元居た大学の裏庭に戻っていた。
シン達は辺りを見回すと元居た場所に座る。と、エルが、
「……シン、大丈夫ですか?」
「ああ、問題ないよ。アイツの趣向はよく判らないが、少なくともこっちに危害を加えるヤツじゃあない」
「………でも、あれはきらいです、しん」
エルの言葉に落ち着いて返事を返すシン。そしてルイエの言葉に苦笑を浮かべる。そして、
「……そう言うな、ルイエ。確かに俺も好きには慣れないが、それでもアレに対抗するにはアイツの存在は必要不可欠なんだから…」
「……でも、やはり気に入りません」
エルの言葉に頷くルイエ。その様子にまたも苦笑を浮かべるシン。そして、
「…まあ、アイツのことはここまでにして………エル、お茶入れてくれないか?今度はルイエとエルの分も含めて、気分転換に三人でお茶にしよう」
「……はい、シン」
シンの言葉に頷き返事を返し、傍らに用意したティーセットでお茶の用意をするエル。と、
「……わたしもてつだう」
と、ルイエがエルの手伝いを始める。シンはそんな二人の様子を笑顔で眺めながら、傍らに落ちていた本を拾い鞄にしまう。そして、座ったまま目を閉じると、
−闇の領地は、怪異の地。怪異の神は、闇の神。−
−硝子の空に、墓標の地。全ては闇へ、還るが故に−
唐突に詞い出したシンに手を止め振り返るエルとルイエ。しかしその詞に含まれた意味を理解すると、再びお茶の準備に戻る。
−闇の領地は、死人の地、死人の土地は、虚ろの地−
−硝子の空に、墓標の地。全ては闇へ、還るが故に−
−恨、妬、嫉に呪、闇に全てを還しましょう−
−殺、盗、片に狂い、闇に全てを放ちましょう−
−其は太刀にして館、多智にして質、
裁ち、断ち、経ち、絶ちつつ、魔国の王は此処へと来る。
闇は魔の狗の故郷にして、魔の国の郷。
闇は魔の狗の領国にして、狗の神の領国になし。
魔は怪、狗は童。
血は血へと連なり、怪は怪へと通ず。
魔の王国は闇中に在り、死の神国は闇中に在り。
狗の領国は闇中に在り、怪の王国は闇中に在り。
呪いの国は闇中に在り、魔国の王は闇中に在り。−
−硝子の空に、墓標の地。全ては闇へ、還るが為に−
−恨、妬、嫉に呪、闇に全てを還しましょう−
シンの詞によりあたりに残っていた先ほどの闇の気配が消え去る。シン達が先ほど呼ばれた世界の気配がこの場所に残るのは害にしかならないので、シンは詞により辺りに残った世界の残滓を消し去ったのである。と、
「……お疲れさまです、シン」
と、シンにカップを差し出すエル。シンはカップを受け取ると、
「たいしたことじゃあないさ、それよりお茶にしよう」
と、当然のごとく答える。シンの言葉に頷くとそれぞれのカップを手に取る。そして和やかな雰囲気が裏庭に戻ったのだった。
間章・使徒再来、その後に 了
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