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The End Of EVANGELION After
灼眼の魔王
第二章・過去と現在・後編
NERV本部 ターミナルドグマ最深部
時刻は深夜、NERV本部ターミナルドグマ、ヘブンズドアー内部。辺りには白い砂浜と無数の塩の柱とLCLの湖、そして最も奥、嘗て第二使徒リリスが貼り付けになっていた十字架には今は紫の巨人、EVA初号機が貼り付けになりその周囲をまるで棺のように直方体の硬化ベークライトで固められている。
そんな風景の見える白い砂浜に二人の人物が佇んでいる。一人は碇ゲンドウ、もう一人は碇ユイ。二人はLCLの湖の向こうに見える初号機に視線を向けている。そして、
「………やはり初号機の封印を解くべきなのでしょうか………」
「…………しかし乗れる人間がいない……」
ユイの言葉にゲンドウが重々しく応える。
確かにコアにインストールされていた碇ユイがいない。それに現在タイプRで使われているデジタルコアはオリジナルのEVAといえる初号機には取り付けられない。よって初号機とシンクロ出来る人間はいない。僅かに可能性があるとすれば、戦争犯罪者としてNERVを追われたサードチルドレン碇シンジだけだが、彼の行方は五年前より見失って久しい。
ゲンドウの言葉に少しの間考え込むユイ。そして、
「……確かにそうですが、でも、コアに再びインストールされれば「そんなことは許可できん!!」っ……」
ユイの言葉にその言葉を声を荒げて遮るゲンドウ。ユイはそんなゲンドウを見ながら微笑を浮かべると、
「でも、他に手段はありません。仕方のない事じゃあないですか……」
「……しかし、それは「確かにそんなことをしても無駄です。脆弱なリリンの魂を生命の樹となった初号機に入れたとしても初号機は制御出来ません。只、生命の樹に取り込まれ消滅するだけでしょうからね……」…!!誰だ!?」
ゲンドウの反論を遮られるように突然背後から放たれる言葉。ゲンドウはその声に驚き振り返りながら、ユイもまた声を発することなく、それでも顔に驚きの表情を浮かべて、その声の主に視線を向ける。そこにはいつの間にかその場所に現れた、その両脇にエルとルイエを連れたシンの姿があった。
「……九重シン………」
絞り出すように告げられるゲンドウの言葉。シンはその言葉に軽く肩をすくめるとエルとルイエを連れたまま二人に向かい歩き出す。そして、
「…こんばんわ、碇ゲンドウ総司令…はじめまして、碇ユイ副指令…」
「…貴様、どうやってここまで侵入した……」
シンの挨拶に厳しい視線を向けながら言葉を返すゲンドウ。シンはその様子をつまらなそうに見つめると、
「………どうやってですか?……そうですね、先日の大天使戦のように空間転移でこの場に現れました…この術は一度行ったことのある場所か視界の範囲内なら何処にでも転移出来ますから………便利なんですよ…」
軽く苦笑しながら言葉を告げるシン。その言葉を理解出来ないのか警戒して視線を厳しくするゲンドウ。ユイはシンの言葉を理解しようと俯き考え込んでいる。そしてシンはそんな二人に構うことなく二人の脇を通り過ぎLCLの湖の淵まで行き立ち止まる。と、今度はユイが、
「……一度来たことがあるって言ったわよね、それはどういう事かしら?いかに貴方が国連軍の将官でもこのジオフロントの最深部には立ち入ったことは無いはずよ?」
「…ほう……そこに気が付きましたか、流石は東方の三賢者の一角ですね……確かにその疑問はごもっとも……」
「………質問に答えろ、九重シン!」
ユイの問いに小馬鹿にしたように答えるシン。ゲンドウはそんなシンの態度に苛立ちを募らせ声を荒げる。シンはその様子にやれやれと言わんばかりに肩をすくめると、
「……なに、簡単なことですよ。此処に来るのは三度目ですからね………一度目は第十七使徒タブリスを追って、二度目は嘗ての愛機、あそこに見えるEVA初号機に、その身から放たれる生命の樹の波動を押さえるために我が伴侶の一人を込めるために……ね」
「「……!!なっ!!」」
シンの言葉に愕然となる二人。と、それまで黙ってシンの傍らに寄り添うように控えていたエルが、
「……マスター、無駄話はそのぐらいにして……」
「…んっ、そうだね、エル。じゃあ俺は彼女を迎えに行くから、エルとルイエはその二人が邪魔をしないように見張っていてくれるかい?…………もし邪魔するようなら死なない程度に痛めつけて良いから……」
「「はい、マスター(ますたー)」」
エルの言葉に返事を返し、二人の返事をその背に受けた後、そのままLCLの湖面を滑るように歩き始めるシン。エルとルイエはその背中を静かに見送る。と、ようやく驚愕から戻ってきたゲンドウとユイが、
「「……待て(待って)!!」」
声を掛けながらシンを追いかけようとする二人。その二人の前にシンと同じようにLCLの湖面に立ったエルとルイエが立ちふさがる。そして、
「………マスターの邪魔はさせません…」
「…どうしてもじゃましたいのであればわたしたちをどうにかするのですね……」
エルとルイエの言葉に湖岸で立ち止まる二人。そしてゲンドウはエルとルイエを睨み付けると、
「……そこをどけ…ヤツが初号機に触れることはゆるさん……」
「「…お断りします(おことわりします)」」
ゲンドウの威圧感を込めた言葉に、口元に嘲笑を浮かべたまま平然と返事を返すエルとルイエ。その二人の莫迦にした様子にゲンドウは怒りを顕わにしながら懐から拳銃を抜き二人に向ける。と、
「…!ゲンドウさん!?」
「……そこをどけ、さもなくば………」
ユイの驚愕の声を無視してゲンドウは銃を構える。エルとルイエはそんなゲンドウの行動を見ると、
「……くすっ…そんな玩具で私達をどうこう出来るとでも?」
「…ばか?そんなものでわたしたちをおどしてるつもり?……」
銃を向けられた二人は動揺することもなく逆に莫迦にしてのける。ゲンドウは少女ともいえる外見の二人に莫迦にされたことでさらに怒りを顕わにすると無言のまま引き金を引く。
パァン!パァン!パァン!
「……っ!!!」
ゲンドウの発砲により目の前に広がる惨劇を思い目を背けるユイ。ところが、
「…………馬鹿…な…」
ゲンドウが唖然とした声を漏らす。その声を聞きユイは顔を上げるとゲンドウの視線の向いている方を見る。するとそこには、
「……だから言ったんです、無駄だって…」
「…ひとのいうことをきかない……しんのいったとおりばかなの…」
先ほどまでと同じように口元に嘲笑を浮かべたエルとルイエが悠然と立っていた。そして、
二人は口々にゲンドウに侮蔑の言葉を吐く。ゲンドウはそれを聞き再び引き金を引く。
パァン!パァン!パァン!パァン!パァン!パァン!パァン!パァン!パァン!カチ、カチ、カチ…………
連続した銃声が響きゲンドウの銃から放たれた銃弾は狙い過たずエルとルイエに向かう。
しかし二人にとどく手前で壁にぶつかったように明後日の方向に逸れていった。
遊底が下がり弾切れとなった銃を呆然と見つめるゲンドウ。
「………気は…済みました?」
エルは呆れた様子でゲンドウに声を掛ける。続けてルイエが、
「…それじゃあ、つぎはわたしたちのばんですね……ころさないていどにいためつけるのはしんにゆるされてますから…」
「私達に危害を加えようとした…ほんの、お礼です!」
ルイエの言葉に続けて、エルが言葉を告げると同時に腕を横に薙ぐ。するとその腕から不可視の衝撃波が放たれゲンドウとユイの足下に炸裂する。
「「…!?!?!?…」」
ドォォオン!!
エルとルイエの手によりゲンドウとユイが吹き飛ばされた、足下で起こった爆発になすすべ無く吹き飛ばされ湖畔から五メートルほど後方の砂浜に叩き付けられ、そのまま気を失ったのか動かなくなるゲンドウとユイ。
エルとルイエはその様子を少しの間つまらなそうに見ていたが、直ぐに視線をシンのいるであろう奥の方に戻すのだった。
エルとルイエの手によりゲンドウとユイが吹き飛ばされた、丁度そのころ、シンは周囲を硬化ベークライトで固められた初号機の足下まで来ていた。
シンはその巨大な棺を一瞥すると湖面に一度だけ波紋を立て、そして垂直に飛び上がった。
そしてベークライトの内側に初号機のむき出しのコアが見える位置まで上昇し、無言のまま腕を振り下ろす。
ピシピシピシ!
パキパキパキ!
パリィィィィィィィィン!!!
小さな音の後、ガラスの割れるような音を残し初号機の上半身を覆っていた硬化ベークライトが砕け散る。シンはその様子を見つめて、口元に小さく笑みを浮かべると今度は水平に飛行しコアの前まで近づく。
コアの前まで来たシンは軽く左腕を振るう。するとシンの左手に白い丁装の一冊の書が現れる。シンはその書をしっかりと握ると、空いた右手で赤いコアの上に指で五紡星を描く。そして、
「アクセス!魔術師九重シンが命ずる。魔導書裏死海文書よ、汝の魂を偽りの器より解き放て。そして本来あるべき場所に戻り、汝の本来の姿を我が前に現せ!!」
シンの言葉と共にコアの中から白い輝きが姿を現す。その光はコアの上に添えられたままのシンの右手を通り、そのままシンの身体を経由して左手の書の中に消えていった。すると、
パサッ!
と、小さな音を立てて光を吸収した書のぺージが外れシンの周囲を無秩序に飛び回り始める。
シンはその様子を見つめると顔に満面の笑みを浮かべ、その後表情を元に戻し初号機を一瞥する。そして初号機に背を向けるとエルとルイエの待つ湖畔目がけて飛び去ったのだった。
シンの向かった方向で巻き起こった魔力の奔流を感じ取りお互いの顔を見合わせて笑顔を浮かべるエルとルイエ。そして直ぐに戻って来るであろうシンを迎えようと湖面から湖畔へと移る。
暫くして、周囲を無数のぺージに包まれたシンが上空から静かに湖畔に着地する。そして、
「……マリア、そろそろ本当の姿を取ったらどうだい?」
シンの言葉に周囲を舞っていたページが一カ所に集まり始める。そして全てのページが集まると同時に白い光が放たれ、光が収まるとそこには、
白い修道服に身を包み、美しい金髪を肩口で切り揃え、嘗て第二使徒リリスが付けていた仮面と同じ物で顔を隠した少女が姿を現す。
シン、エル、ルイエの三人はその少女の姿を見ると満面の笑みを浮かべる。そして、
「…おかえり、マリア。長いことご苦労様、先日メタトロンが襲来した。もう君が初号機の中で波動を押さえる必要はないから迎えに来たよ」
「「おかえりなさい、マリア(まりあ)」」
「…マスター、エル姉様、ルイエ姉様、はい、ただいま戻りました」
三人の言葉に、マリアは仮面を付けたままシン、エル、ルイエの順に顔を向けた後深々と頭を下げて挨拶をする。シンはそんなマリアの言葉に満足そうに頷くと、
「…さて、それじゃあ用事も済んだことだし帰るとしますか…」
「…………待って、シンジ……」
シンの言葉に三人が同意するように頷いたその時、シンの背後から声が掛けられる。シンは訝しげに背後を振り返る。と、そこにはエルに吹き飛ばされて気絶していたはずのユイが立っていた。シンはユイの姿を見ると首を傾げ、
「…碇ユイ…居たんですか?姿が見えなかったので帰ったかと思いましたよ?」
「……マスター、碇ユイでしたら、先ほど碇ゲンドウが私達に向けて発砲したのでその報復で一緒に吹き飛ばしておきました…」
「…おそらくそのときにきぜつして、いまめがさめたんだとおもいます…」
シンの疑問に先ほどのことを思い出しながらエルとルイエが答える。シンはそれを聞き、
「…そうか、まあ良い。三人ともすまないが少し待っていてくれるか?」
「「「はい、マスター(ますたー)」」」
エル達の返事を聞き頷くとシンはユイの元まで歩いて行く。そしてユイの前まで来たシンはその顔に嘲笑を浮かべたまま、
「…それで碇ユイ、俺に何か用でも?…………ああ、そうそう、俺の名前は九重シンですから間違えないように………」
「……そんな……貴方、シンジなんでしょ?………私は貴方の母親なのよ。どうしてそんな他人行儀な呼び方をするの?」
「正確には碇シンジだった…です。今の俺は戸籍データ上も遺伝子上も碇シンジとは全くの別人になっています。ですから貴方と俺とは赤の他人です。他人行儀なのは当然じゃあないですか…」
シンの言葉に驚き問い返すユイ。シンはそのユイの言葉に嘲笑を浮かべたまま平然と応える。ユイは、
「………そんな……戸籍データならともかく後天的に遺伝子上他人になるのなんて……」
「不可能じゃあありませんよ。実際俺は遺伝子を弄ってありますから、何でしたらこれを差し上げますから気が済むまで調べたらどうです…」
と、ユイに自分の髪を数本抜き、差し出すシン。ユイはそれを恐る恐る受け取る。シンはユイの手に渡ったのを確認すると踵を返し、
「……話は終わりですね。では俺達は帰らせてもらいます。……………そうそう、碇ゲンドウが目を覚ましたら伝えてください。俺のことを国連に報告しようとしても無駄です。国連も国連軍も俺が碇シンジだったと言うことは承知していますから……」
「………………………」
シンの言葉に手にシンの髪の毛を握りしめたまま無言で答えるユイ。シンはその様子を気にする事無くエル達の元に戻る。
そしてエル達に、
「…これで用事は済んだね。帰ろう、エル、ルイエ、マリア…」
「「「…はい、マスター(ますたー)」」」
シンの言葉に返事を返しシンに寄り添う三人。そしてエルが空中にエルダーサインを描く。
するとその紋章から青白い燐光があふれ出す。そして一瞬強く輝くと、四人の姿はターミナルドグマから消え去った。後には転移魔術の僅かな光の残滓と、気絶したままのゲンドウ、そして、手に数本のシンの髪の毛を握りしめた碇ユイだけが残されたのだった。
第二章・過去と現在・後編 了
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