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The End Of EVANGELION After
灼眼の魔王
第三章・紅き鬼械神・前編
第三新東京駅・第二東京行きリニア乗り口
シン達がターミナルドグマにマリアを迎えに行った翌日の昼過ぎ、松代行きのリニアの乗り口にリツコ、マヤ、リョウジの三人は来ていた。と、
『まもなく、第三新東京駅発、第二東京・松代行きのリニアが発車します。お乗りの方はお急ぎ下さるようお願いします。………』
まもなく発車することを告げるアナウンスが入り、それを聞いたリツコとマヤは乗車口に歩いてゆく。そしてリニアに乗り込んだ二人にリョウジが、
「……さて、リッちゃんにマヤちゃん、二人とも気を付けてな」
「ええ、でも加持君、第三は戦場になるのだから気を付けるのは加持君も一緒でしょう?」
「先輩の言う通りです。いくらシン君がいるからと言っても油断大敵ですよ」
リョウジの言葉に返事をすると同時に言い返すリツコとマヤ。リョウジはその言葉に苦笑を浮かべると、
「確かにな……判った、俺も十分に気を付けるよ」
「ええ、そうして下さい。…………それにしても先輩、何故松代に配備されている四号機の調整に私達が行かなきゃならないんですか?」
リョウジの言葉に満足そうに頷くマヤ。そしてその後浮かんだ疑問をリツコに問いかける。リツコはその問いに対して、
「……たぶんだけど、司令達は四号機を本部に移す気じゃあないかしら?」
「そうなんですか?」
「なるほど、戦力を集中させる気か、三機で歯が立たなければ四機でどうにかしようと…」
リツコの言葉に疑問符で返すマヤと納得したように頷き言葉を返すリョウジ。リツコはそれを聞きながら頷き言葉を続ける。
「そうね、だから私達が行って最終的な調整をするって事じゃないかしら、それに今は前と違って碇副司令とキョウコ博士がいるから本部のEVAについては心配いらないから…」
リツコの考えに納得し頷くマヤとリョウジ。と、
『第三新東京駅発、第二東京・松代行きのリニアが発車します。ドアが閉まります。お見送りの方は白線の内側までおさがり下さい。……』
再びアナウンスが入り、それを聞いたリョウジはドアから離れる。そして、
「じゃあ、二人とも気を付けてな…」
「ええ、そちらも気を付けて…」
「はい、私達がいないからって浮気しないでくださいね〜」
マヤの言葉にリョウジが苦笑を浮かべると同時にドアが閉まる。そしてゆっくりとリニアは発車し、それを見送ったリョウジは苦笑を浮かべたままホームを後にするのだった。
第三新東京市郊外・山中の草原
リョウジが第二東京に出張するリツコ達を見送っている頃、大学を自主休校したシンはエル達三人を連れ、五年前に家出をした際にケンスケと出会った草原まで足を運んでいた。
四人は、上空に蒼穹の広がる草原の片隅に立つ木の陰でレジャーシートを広げて昼食を済ませ、シンは横になってくつろぎ、エルはそのシンに膝枕をし愛おしそうに髪の毛を梳かし、そしてルイエはマリアに彼女が居なかった二年間にどんな事があったかを話している。
「…………といったことがあったの」
「…そうだったのですか…いろんな事があったのですねルイエ姉様。でもシン様が国連軍の将官となったのは素晴らしい事ですわ。シン様の実力が人々に認められたって事ですから…」
ルイエの話が一通り終わりマリアはシンの事を我が事のように喜ぶ。ルイエもその様子に何度も頷き返事を返す。と、話が終わりエルが膝枕をしているシンの様子を見たマリアは、
「エル姉様、シン様、お休みになられているのですか?」
見ると、エルの膝の上でシンは安らかな寝息を立てている。エルは、
「……ええ、でもそっとしておきましょう。この街に来て以来シンはまとまった睡眠を取っていませんでしたから……」
「…そうなのですか?でもどうして………」
「……しんがいってたの、このまちにきてからきがたかぶってるって…」
マリアの言葉にルイエが答えを返す。すると続けてエルが、
「…それだけでなく、恐らくですけどこの第三新東京市の地下の黒き月の影響もあると思います」
「…!それってもしかしてシン様の身体が……」
エルの言葉にライトグリーンの瞳を見開き驚愕の表情を浮かべて(今のマリアは仮面を外している)マリアが答える。そしてその後、悔やむような表情を浮かべるマリア。エルとルイエはその様子を見ると、
「マリア、そんな顔をする事はありませんよ。シンはそうなる事は予測していましたから」
「……!でも!!」
「そうだよまりあ。それにしんはだいじょうぶっていってたの。しんがそういっているいじょうだいじょうぶなの。しんはわたしたちのますたーなんだから…」
エルとルイエに諭され動揺を抑えるマリア。そして、
「………姉様達の言う通りですね。シン様がそれくらい予測しなかったはずありませんし……それにシン様は私達のマスターなんですから…」
マリアの言葉に落ち着いた様子を見て取り大きく頷くエルと、何度も頷くルイエ。そして再び柔らかな雰囲気が三人の間に流れる。
穏やかな空気のまま、暫しの間静寂の時間が流れる。
と、エルが唐突にシンの髪を静かに梳いていた手を止め、顔を上げる。そして広場の外れの方を見ると、
「………どうやら招かれざる客のようですね……」
エルの言葉に反応し、彼女の見ている方に視線をやるルイエと、素早くその顔に仮面を付け二人と同じように視線を向けるマリア。すると、三人の視線の先に三つの人影が姿を現す。
その人影、一人は昨晩ターミナルドグマで出会った女性、碇ユイ。そしてそのユイの左右を固める、黒服に身を包みサングラスを掛けたSPらしき二人。
エル、ルイエ、マリアはこちらに近づいてくる三人に冷ややかな視線を送る。しかし三人は、その視線を気にした風もなく四人の佇む木陰の五メートル程まで近づくと立ち止まる。するとユイは黒服達をその場に残しシン達に近寄る。そしてユイはエルの膝の上で眠るシンを見ると口を開いた。
「………話があります。シンジを起こして貰えないかしら?」
シンの顔を見たままエル達に向かって告げるユイ。三人はその言葉を聞くと顔を見合わせ、
「…シンジ?…一体誰の事です?」
「…ここにはわたしたちとますたーしかいないの…」
「…人違いでは?ここにはシンジという名前の人は居ませんが?」
三人の言葉を聞き僅かに怯むユイ。しかし直ぐに気を取り直すと、
「…そこで眠っている彼、九重シンの事です。彼に聞きたい事があるので起こしてくれないかしら?」
「お断りします」
ユイの言葉に間髪入れず返事を返すエル。続けて、
「マスターのきちょうなすいみんじかんをけずることはゆるさないの…」
「まったくです。どうせ愚にも付かない事なのでしょう。そんな事でマスターのお休みの邪魔は出来ません」
エル、ルイエ、マリアと続いた拒絶の答えに言葉を詰まらせるユイ。暫しの間睨み合う四人。そして再びユイが、
「……ここにはNERVの副司令としてではなく碇シンジの母親として来ているのだけど、それでもダメかしら?」
持ち合わせている唯一のカードを切るユイ。しかしそれを聞いたエル、ルイエ、マリアの三人は顔を見合わせた後嘲笑を浮かべ、
「………母親?誰がマスターの母親なのですか?」
ユイの言葉に嘲笑を深めながら嘲るような口調で告げるエル。続けて、
「…ますたーのははおや?まさか、ものごころつくまえのますたーをおいていなくなったひとのこと??」
「…五年前に全てを知りながらも、自分達の保身のためにマスターを切り捨てた愚物夫婦の片割れ、そんな愚か者が今更マスターの母親面ですか??」
冷ややかな視線の共にエルと同じように声に嘲りを込めて言うルイエとマリア。ユイはそれを聞くと途端に視線を三人から逸らせる。そして、
「………そっ、そんな事は無いわ。私は何時でもシンジの事を第一に考えていたもの……」
「…白々しい!その様な事が言えますね……」
視線を逸らしどもりながら告げたユイの言葉に呆れと怒りの混ざった表情を浮かべ、侮蔑の言葉を吐くエル。
「……ばか?それともただのはじしらず?わたしたちがなにもしらないとおもっているの?」
「……怒りを通り越して呆れる厚顔無恥ぶりですね……貴方が消えた後、実の父に道具として扱われ続け最終的には保身のために切り捨てられたというのに…」
エルに続けて、ルイエとマリアも呆れた様子も隠さず言葉を放つ。三人から放たれた侮蔑の言葉にユイは俯き口を閉ざすことしかできない。三人はそんなユイを冷ややかな眼差しで見つめると、さらに、
「…ねえ、まりあ、このおんながむすこのまえからきえたときと、むすこをきりすてたときにいったことばってなんだっけ?」
「はい、ルイエ姉様。確か最初の方が『子供達に平和な未来を残したい』ですね。切り捨てた時は……『NERVを存続させる為には仕方がない』だったと思いましたよ」
「……その『子供達』の中には自分の息子は入っていなかったんですね。それに、『仕方がない』ですか……全く、たいした母親ぶりです…」
ルイエの問いに答えるマリア。エルはマリアの言葉を聞き、呆れたように溜息混じりで言葉を放つ。ユイはその言葉にも反論する事が出来ない。と、僅かな沈黙の後ユイは口を開く。
「………確かにそれは事実かもしれないわ。でも、シンジ本人から言われるのならともかく何故関係のないあなた達のような子供に言われなければならないの?あなた達はシンジの何だって言うの?!」
強い口調でエル達に問いかけるユイ。三人はその言葉に顔を見合わせると、
「…私達とマスターも関係ですか?……パートナーと言った所でしょうか…」
「…しょゆうしゃとしょゆうぶつなの」
「…御主人様と愛奴隷です」
「……家族であり恋人だな…」
と、三人の言葉の後に男性の声が入り、それを聞いた三人はエルの膝の上のシンに視線を向け声の主を呼ぶ。ユイは少女達の内二人の言葉の意味を理解し固まっている。
「「マスター(ますたー)!!」」
「マスター、お目覚めになられたんですか?」
声を揃えてシンを呼ぶマリアとルイエ。そして膝の上から頭を退かし、体を起こすシンに問いかけるエル。シンは体を起こし、シンを取り囲むように座ったエル達三人を見る。そしてそのまま視線をユイ達に移すと、
「…ああ、何やら騒がしいから目が覚めてしまったよ。…で、招かれざる客みたいだな……」
「はい、マスター。何やら、碇シンジという人物に話があるそうです」
エルはシンの言葉にユイがこの場にいる理由を簡潔に答える。エルの言葉にようやく硬直から解放されるユイ。シンはエルの言葉を聞くと侮蔑の表情を浮かべ、
「…碇シンジ?そんなヤツはここには居ないはずだが?ボケたか、碇ユイ?」
「何を言っているの!貴方はシン「俺の名は九重シンだ。昨日、言ったはずだが?」っ!」
シンの言葉に反論しようとするユイ。しかしその言葉を最後まで言う前に被されたシンの言葉によって否定される。そのまま俯き黙り込むユイとそのユイを楽しそうに嗤いながら見るシン。
そのまま僅かばかりの時間が流れ、シンは気を取り直すと冷ややかな視線をユイに向けると、
「………まあいい。それより俺に聞きたい事があるんだろう?さっさと言ったらどうだ?」
「………………ええ。昨晩、貴方から受け取った髪の毛をDNA鑑定しました。その結果、貴方のDNAはNERVの保管していたサードチルドレンの物と一致しませんでした。……念のため、私とゲンドウさんの物とも比較してみましたが、一致率は両者の数値を合わせても10%にも達しませんでした………」
苦渋の表情を浮かべ、なるべく事務的な口調で検査結果をシンに告げるユイ。シンはそのユイの表情を楽しそうに見ながら口を開く。
「………そんな事が聞きたいんじゃないだろ?ハッキリ言ったらどうだ、『貴方のDNAは人類の物と一致しませんでした』って?」
シンは楽しそうに爆弾発言をする。ユイはその言葉に顔を上げシンの顔を見つめると、
「…そうよ!あなたのDNAは人類の物と一致しなかったわ。でも、その一致率が99.89%!使徒やEVAと同じ!これはどういう事なの!?」
「くっくっくっ……確かにその通り。最もS2機関は持っていないから完全な使徒ではなく『使徒モドキ』と言った所だけどね……」
ユイの動揺混じりの言葉を楽しそうに嗤いながら肯定するシン。ユイはそんなシンを睨み付け、
「……答えなさい!!シンジは只の人間だったはずです。どうして使徒なんかになっているの!?」
「……そうだな…自分の意志で使徒となったのさ。単独種としての第十八使徒リリンにね」
「……単独種!!」
ユイの言葉にあっさり応えるシン。ユイはその言葉の中の単独種という単語に反応する。シンはそんなユイに構うことなく彼女から視線を外し、
「……昔、十八種類の使徒と呼ばれる生き物が居ました。
ある日、神様はその使徒達に贈り物をしました。それは、生命の実と知恵の実。第一から第十七までの使徒達は生命の実を選び、第十八使徒だけは知恵の実を選びました。
神様は十八種の使徒達に尋ねました。『これから君達には、強力な力を持った単独種として孤独に生きていくか、力は僅かにしか持たないが群体として多種多様に生きていくか、を選んでもらう』……と……
第一から十七までの使徒達は単独種として生きる事を選び、第十八使徒だけは群体で生きる事を選択しました…………」
シンの語りが終わり、ユイは固唾を呑んだままシンを見つめる。シンはその視線を気にすることなくユイの方を向くと、
「…………ではここで問題です。唯一、知恵の実を選んだ第十八使徒リリン、そのリリンが次の選択で群体ではなく単独種である事を選択した場合どうなるでしょう?」
「……!まさか!!」
「御名答…その存在こそが今の俺、九重シン、と言う訳です。どうです?嘗て道具として使い、用済みになって切り捨てた息子のなれの果ては?」
シンは何でも無いように言っているが、それは人類という枠から外れていると言う事を意味する。告げられた言葉の意味を理解し愕然となるユイ。シンはそんなユイの様子を楽しそうに眺める。
ユイが固まった事で再び沈黙が訪れる。
そしてまた僅かな時間が過ぎ、シンはユイから視線を外し一度目を閉じる。そして再び目を開き中空を見つめると、
「………どうやらお客さんのようだ。……エル、ルイエ、マリア、パーティーの準備に向かおう………」
「「「はい、マスター(ますたー)!」」」
三人の少女達にそう告げ、立ち上がるシン。その後を追うように立ち上がるエル、ルイエ、マリア。そして三人はシンに寄り添うと、エルが空中にエルダーサインを描く。その印から光があふれ出し、その光に我に返るユイ。シンはそんなユイを見て取ると、
「……碇ユイ副司令…老婆心ながら忠告を、本部に戻られた方が様と思いますよ………」
シンの言葉に怪訝そうに首を傾げるユイ。シン達はそんなユイにそれ以上構うこと無く、僅かな燐光を残しその場からかき消える。と、
PiPiPiPiPiPiPiPiPiPiP…
唐突にユイの懐の携帯電話の呼び出し音が辺りに鳴り響く。ユイはその電話を取り出し、そして……………。
NERV本部・第一発令所
ビィー!ビィー!ビィー!……
シン達四人がユイの前から姿を消す、その少し前、予期せぬ使徒の再来に五年前の使徒戦役最中のように三種警戒態勢を取るNERV本部。その第一発令所に使徒襲来を告げるサイレンが響き渡る。そのサイレンに発令所のスタッフは通常業務の手を止めコンソールに付くと解析を始める。そして、
プシュー!!
エアーの抜ける音と共に扉が開き、二人の女性が飛び込んでくる。一人は赤いジャケット姿の葛城ミサト。もう一人はスーツの上から白衣を纏った女性、惣流・キョウコ・ツェッペリン。発令所に入ってきた二人はオペレーター達の様子を確認する。そしてミサトは、
「……日向君、状況は!?」
「はい、三分ほど前に芦ノ湖上空に大型の飛行物体が出現、センサーが対象からパターン青を感知、現在情報の詳細を収集中です」
よどみなく答えるマコトに頷く事で答えるミサト。と、今度はキョウコが少し考え込んだ後、
「……出現って言ったわよね?どういう事?その飛行物体は飛んできたんじゃあないの?」
「いいえ、出現です。レーダー等に感知した履歴はありません。いきなり芦ノ湖上空に出現しました」
キョウコの問いに又もよどみなく答えるマコト。ミサトはそれを聞きながら、
「……青葉君、チルドレンの招集と市内の避難命令は?」
「はい、チルドレン各員にはすでに連絡済み、現在大学より本部に向かっています。市内の避難は現在30%、完了までは後15分ほど掛かります。」
「…そう………キョウコさん、EVAの修理状況はどうなっていますか?」
「……零号機と弐号機は完了しているわ………参号機はまだ両手の癒着が不完全ね、戦闘には耐えられないわ」
ミサトの問いに、マヤの席の端末から情報を引き出し確認し答えるキョウコ。それを聞いたミサトは少し考え込んでから、
「…………ケージに連絡!零号機と弐号機の出撃準備を……チルドレンが到着し次第直ぐに出せるように、それと、芦ノ湖周辺の兵装ビルと偽装砲台に通電、使徒に動きがあったら直ぐに発砲出来るようにしなさい!」
「「「了解!!」」」
「……目標を映像で確認、メインモニターに出します」
ミサトの指示に直ぐに連絡を始めるオペレーター達。と、そこで別のオペレーターから使徒を映像で捕らえた旨が入る。発令所の人員全員の視線がメインモニターに集中する。そしてモニターに映像が映し出される。
「「「「………っ!?!」」」」
「………!!天使?……」
モニターに映し出された目標の映像。それを見たメンバーの殆どが息を呑み、そしてミサトは驚愕を顔に付けたまま呟く。
そこには、神々しい二対四枚の翼を広げ、全身を灰色の甲冑に身を包み、頭に輝く輪を浮かべたヒトガタが腕を組んで湖面に立っているのが映し出されていた。
ミサトの呟き通り、誰が見てもその姿は天の使い、天使に見える。
その神々しい姿に当てられたのか、発令所の誰もが硬直しモニターを凝視し続けたのだった。
芦ノ湖湖畔
NERV本部発令所スタッフが使徒の姿に硬直している、丁度そのころ、ユイの前から空間転移で消えたシン達は芦ノ湖湖畔の一際高い杉の木の上に佇んでい。
マギウススタイル、但し前回と違い蒼いボディスーツの上に白いローブを纏った姿のシン。そのシンの両肩にデフォルメ化した姿で佇むルイエとマリア。そしてシンの腰に手を回し寄り添うエル。
「………アレか……第二の使者、大天使ラツィエル……」
湖面の上に立つ大天使を睨み据えて呟くシン。
「…はい、マスター。コクマーの大天使、ラツィエルで間違いないかと……」
「こんかいは、ほんらいのすがたなの……」
「コアに魂を宿して量産機の肉をエーテルにまで戻してそれを結晶化、概念武装以外の攻撃はアレには聞かないと思います……マスター、どうされますか?」
マリア、ルイエ、エルの準にシンの呟きに答えるように言葉を放つ。シンはその言葉を聞き静かに目を閉じると、
「………最初から本気という訳か………生身で相手にするにはいささか厄介だな」
「…どうされますか?」
シンの言葉に再度問いかけるエル。シンは閉じていた目を開き、ラツィエルの三十メートル強はある巨体を見る。そして、
「…喚ぶぞ、エセルドレーダ!」
言葉と共に右手を薙ぐように振るうシン。
「Yes、master!」
シンの言葉に左腕を薙ぐように振るうエル。
するとシン達を中心に直径五メートルほどの魔法陣が出現する。そして、
最古の神秘に宿りし王よ
汝、絶望の大海に眠り、黒き翼で破滅を運びしモノよ
「「降臨せよ、紅き神殺の刃、リベル・レギス!!!」」
完璧に揃えられたシンとエルの言葉と共に魔法陣の中心に黒い球体が生まれる。
その球体は同じように魔法陣の中心にいたシン達を飲み込むと、瞬く間に十メートルほどのサイズまで広がる。そして、
パリィィィィィィィィィィィィン!!!
甲高い音と共に粉々に砕け散る黒い球体。
そして球体の砕け散った場所から、ゆっくりとした動きで紅い装甲に覆われた巨体が姿を現す。
ソレは、全身を深紅の装甲で覆われた、無骨な装甲でありながらなお、優美な曲線で構成されている、美しさの中に禍々しさを感じさせる巨大な機械の人型。
鬼械神 リベル・レギス、降臨。
第三章・紅き鬼械神・前編 了
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