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The End Of EVANGELION After
灼眼の魔王
間章U・舞台裏の策謀
第二東京・国連本部
大天使ラツィエルが襲来したその日、ゲンドウとコウゾウは先日NERVに下された、対使徒戦優先権の一時凍結の撤回を求めに第二東京にある国連本部を訪れていた。
そこで各国大使、国連事務総長、国連軍総司令、国連軍参謀本部長などの重鎮達が揃う中、会議を始めようとした。
丁度その時、NERV本部より使徒発見の報が入り、国連の重鎮と共にその様子をライブ映像で見守る事になった。
そして、ラツィエル対リベル・レギス、その後のリベル・レギス対EVA零、弐号機、そしてリベル・レギスパイロット九重シンとNERV本部とのやり取りを見ていた。
序盤のリベル・レギスの戦いに唖然とし、その後のEVA,NERV双方とのやり取り(リベル・レギスと零、弐号機のものは戦闘と言える様なものでは無かった)に唖然、呆然、そして愕然とする事になったゲンドウとコウゾウ。
と、その二人に事務総長から言葉が放たれる。
「………さて、あれは確か統合作戦部長の葛城君と言ったな……なかなか見事な指揮ぶりだな…」
「……………………」
「…………くっ……恥をかかせおって……」
「「「「「「「………くっくっくっ………」」」」」」」
その言葉に沈黙で返すゲンドウと、苦虫を噛み潰した様な表情で呟くコウゾウ。そして各国大使達、国連高官達からは苦笑と含み笑いが漏れる中、事務総長はさらに言葉を続ける。
「……今のを見て何か言う事はあるかね?」
「………確かに葛城一佐の行動に問題はあります。しかし我々はここに居るのです。問題があったからと言って、それを直ぐに諫める事は不可能です。………NERVとしては碇副司令の言葉こそが公式な見解です………」
「………自分達に責は無い、と?………その葛城一佐を作戦部長に任命したのは君達上層部だと思ったが?……違うのかね?」
「「…………………」」
必死に取り繕う言葉に対する更なる事務総長の追い打ちに、言葉を詰まらせるコウゾウと先ほどから黙り込んだままのゲンドウ。そんな二人に周囲からは冷ややかな視線が注がれる中、さらに事務総長が言葉を放つ。
「……碇ゲンドウ君、今回葛城一佐の行った行為に対する処分は君に一任する。上官の管理不行き届きを含め、相応の処分を行い賜え」
「………了解しました……」
簡潔に答えるゲンドウ。各国大使達の間からはその処分に不服そうな言葉が囁かれる。
事務総長は大使達から上がるその囁きを黙殺すると、再びゲンドウ達を見る。そして、
「………では、本題に入ろう。NERVに対する対使徒戦の優先権、それの凍結解除の申し出だったな……」
「………はい」
「……元々優先権の凍結は次の使徒戦までのつもりだったのだが………」
返事をするゲンドウに対し、視線を国連軍総司令や参謀本部長に向けながら言葉を放つ事務総長。その視線を受け国連軍総司令は軽く頷くとゲンドウ達に侮蔑の視線を向けると、
「……先ほどのNERVの指揮ぶりを見るといささか問題があるかと思います。いっそうの事このままDEMONBANEに殲滅を任せた方が良いかと思うのですが…」
「「「……賛成!!」」」
「「「……彼の特務部隊に任せた方が被害が少ない!」」」
総司令の言葉に大使達から賛成の声が挙がる。ゲンドウはその声に動揺することなく、
「………使徒殲滅にはNERVに一日の長があります。五年前の実績をふまえても我々に任せるのが筋かと思いますが?」
「……………ふむ……」
「「「………それ以後実績の無かった組織がよく言う!」」」
「「…そうだ!書類も満足に読まない作戦部長を飼って置いて、よくそんな事が言えたものだ!!」」」
ゲンドウの言葉に大使達から非難の声が挙がる中、考え込む事務総長。と、それを静観していた参謀本部長に秘書官が書類を手渡す。
それを一読した参謀本部長は、書類を国連軍総司令に手渡し、総司令も又それを一読する。そして、
「……ふむ…………………………………事務総長これを……」
「………ん?」
事務総長は差し出された書類を手に取り一読すると僅かに目を見開く。そして、
「……どう思うかね…………私としてはこの条件で良いと思うのだが……」
「………私としてはこれに加え『……………………………………………………』と、付ければ申し分ないかと……」
国連軍総司令の答えに少し考え込む事務総長。しかし直ぐに考えを纏めると、ゲンドウ達と、未だにNERVを不要だと訴え続ける大使達に目をやると、
「静粛に、諸君!………たった今、NERVからの攻撃を受けた独立特務連隊DEMONBANEの司令から提案が国連軍総司令のもとに入った。」
『独立特務連隊DEMONBANE』その名が出た途端にゲンドウ達を野次る事を止め、静まりかえる大使達。彼等の勇名、そしてバックにある覇道財閥には各国、特に途上国や南半球諸国には多大な借りがある。静まりかえる議場を一瞥した後事務総長はさらに言葉を続ける。
「彼の連隊司令からは『NERVの加持リョウジ一佐、赤木リツコ博士、伊吹マヤ一尉に対するヘッドハンティングの交渉権』を要求してきた。………私としてはこれにもう一つ要求『特務機関NERVは対使徒戦において所有する人型決戦兵器エヴァンゲリオンの何れかが損傷した、もしくは使徒が第三新東京市に進攻してから十分以内に迎撃を行わなかった場合戦闘の優先権を独立特務連隊DEMONBANEに委譲する』という条件を付け、現在凍結されている特務機関NERVの対使徒戦優先権を凍結解除としたい」
………ザワザワザワザワ………
ざわめく大使、高官達。しかし何処からも反対の声は挙がらない。そしてゲンドウは、そのざわめきの中事務総長に視線をやると口を開く。
「………その条件で構いません。優先権の凍結解除をお願いします」
「………な!!碇、良いのか?赤木博士と伊吹一尉が居なければMAGIの運用に問題が……」
「……問題ない、ユイとキョウコ君がいれば運用は行える、伊吹一尉の代わりは技術部で適当な人間を昇進させればいい………」
ゲンドウの言葉に驚き彼に小声で耳打ちするコウゾウ。コウゾウの言葉にこちらも小声で淡々と答えを返すゲンドウ。そんな二人のやり取りに構うことなく事務総長は、
「……NERV側の了解も得た。他に異を唱える者も居ない様なので決定とさせて頂く……直ぐに手続きと通達書類の制作を行うので碇ゲンドウNERV司令、冬月コウゾウ副司令の両者は本部に残る事を通達し今回の議会を閉幕と指せて頂く……」
事務総長の言葉に各国大使、そして高官達が起立し一礼すると退出して行く。そんな中会議室に残ったゲンドウにコウゾウが話しかける。
「………ヘッドハンティングの件は良いとして、葛城一佐と我々の処罰はどうする?」
「………葛城一佐は一階級降格と30%の減俸を六ヶ月、俺とユイそれに冬月の三人は30%の減俸を三ヶ月………」
「…………少し厳しくないか?」
「……問題ない、一歩間違えればA−801の発令を引き起こすところだったのだからな………」
ゲンドウの言葉に納得し頷くコウゾウ。そして二人も席を立つと会議室を後にするのだった。
NERV本部・第一会議室
対使徒、対リベル・レギス戦から一夜明けた翌日。本部の第一会議室に国連本部に出張中のゲンドウとコウゾウ、松代に出張中のリツコとマヤを除いたNERVの主立った面々、ユイ、キョウコ、ミサト、リョウジ、シゲル、マコト、総務部長、広報部長、そしてチルドレン達が集まっていた。
そして全員が揃ったのを確認するとユイがおもむろに口を開く。
「…………皆、揃ったみたいね………それじゃあ何から話そうかしら…」
「……何からも何もここに集まったメンバーの聞きたい事は一つです。『九重シン=碇シンジ』の件について話してください、ユイ副司令…」
ユイの言葉に単刀直入に応えるリョウジ。ユイはその言葉に一つ頷くと、
「………先日発令所で叫んだ通り、彼、九重シンは碇シンジです。間違いありません………」
「………っ!…本当なんですね、ユイ副司令………なら、直ぐに国連に連絡を!?!」
ユイの言葉を聞き息を巻くミサト。他のメンバー、特にチルドレン達は冷ややかな眼でミサトを睨む。ユイはその言葉を聞くと頭を横に振り、
「…無理です。証拠がありません……戸籍もDNA鑑定も全てがシンジとは別人になっています」
「……!!!なっ!!……ならユイさんは何で彼がシンジ君だと言えるんですか!!?」
「………彼が本来知っているはずの無い事を知っていたからです………彼はターミナルドグマ最深部、ヘブンズドアーの内部でこう言いました。『ここに来るのは三度目だ。一度目は第十七使徒タブリスを追って、二度目は嘗ての愛機であるEVA初号機に伴侶の一人を込めるために』と………」
ミサトの言葉に淡々と返すユイ。それを聞きリョウジ以外のメンバーは愕然とする。
『第十七使徒のヘブンズドアー内部の進入』この事実は国連にも秘匿してある。知っているのは現NERVの幹部と消滅したゼーレメンバー、そしてその使徒を殲滅した元サードチルドレン碇シンジだけだからである。
愕然とする皆を一度見据えると再び口を開くユイ。
「……それに彼は国連軍の将官です。いくらNERVでも許可も無しに徴兵は出来ませんし、疑いを掛けて逆にこちらの腹を探らせる訳には行きません……」
「……国連軍の将官!!……あの若さで将官だって言うんですか!??」
ユイは再び驚愕の声を上げるミサトを一瞥すると、その視線をリョウジに向ける。リョウジはその視線を受け意を介すると、
「……そこから先は俺が話そう。彼が将官、階級は特務中将なんだが、どうしてそうなのかは彼が属している『国連軍第666独立特務連隊DEMONBANE』に関係する」
「………?……独立特務〜?」
「……ああ、彼等は国連軍であって国連軍でない部隊だ。結成されたのが何時かは不明だが、元は覇道財閥の私兵団………私兵団だった頃を含め関与が確認された有名な事件に『星の智慧派によるニューマンハッタン島占拠事件』『コロンビアの麻薬王レイモンド・マグワイアの逮捕と同麻薬カルテルの壊滅』『羽間市の連続集団失踪事件』他にも大小百以上の事件に関与、または解決をしている。2018年にそれまでの実績を省みて国連が交渉し、条件付きで編入された……その条件の中に実力と実績に見合った階級を与えるってのがあるんだ…」
他のメンバー達はリョウジの言葉に上げられた事件を思い出す。そんなメンバーを見回しリョウジは言葉を続ける。
「……それと九重シン個人の事だが、彼は元は裏社会の荒事専門の何でも屋だ」
「…………何でも屋?」
と、それまで黙っていたアスカが聞き返す。リョウジはそれに一つ頷くと、
「ああ、何でも屋シン…2016年頃から名前が売れ出した、荒事、ボディーガードからマフィアの抗争の助っ人、さらに反政府ゲリラのクーデターの手伝いまで、手広くやっていたみたいでな、付けられた二つ名は『黒き魔王』『全てを焼き尽くす眼を持つ者』『氷魔』『灼眼の魔王』等々………文句なしで若手bPの実力の持ち主だな……」
「………荒事専門の何でも屋………それをシンジ君が??」
リョウジの言葉に疑問を持つミサト。見るとシゲルとマコトもそれに同意する様に頷いている。と、そこでユイが、
「………私は納得出来るわ………これを見てちょうだい……」
ユイの言葉と共に壁にあるモニターに映像が映し出される。その映像、先日シンがNERV本部を訪れた際の、諜報部員達を虐殺する映像である。
映像の中で白いプラズマの炎に焼かれ逝く黒服達を口元に冷笑を浮かべながら見ているシン。
そこには嘗ての『人を傷つけるなら自分が傷ついた方が良い』と言っていた少年の面影はなく、その映像に集まった皆の間に重苦しい沈黙が落ちる。そして、
「…………これは、先日彼が国連の使者として本部を訪れた際に、司令が身柄を拘束しようとし、捕縛に向かった諜報部員達との戦闘の様子です。これを観て判る様に彼は嘗てのシンジとは違うので注意して下さい………」
「………嘘よ………シンジ君がこんな事するはず無い………」
ユイの言葉に呆然としながら言葉を吐くミサト。それを呆れたように見るアスカ達チルドレン。ユイはミサトの様子に構うことなく言葉を続ける。
「…あなた達が彼と接触しようとするのは構いませんが、NERVとしては彼と彼の所属する部隊には不干渉の方向で動きます………………話は終わりです。解散して下さい…」
ユイの言葉を聞き、皆顔を見合わせるも何も言わずに会議室から退出する。と、その時、
「………あっ、アスカちゃん達チルドレンは、まだ話がありますので残って下さい…」
キョウコから出たその言葉に怪訝そうにしながらも部屋に残るアスカ、レイ、トウジ、の三人。
そして他の皆が退出し、会議室にはユイとキョウコ、アスカ、レイ、トウジの五人が残される。ユイは残ったチルドレン達の顔を一度見回すと口を開く。
「……あなた達にお願いがあります。シンジにNERVに帰還するように説得して貰えませんか?」
「…………それは命令ですか?」
「…命令ではありません。これはシンジの母親からのお願いです…」
ユイの言葉に問い返すレイに答えるユイ。そのユイの言葉にアスカとトウジは侮蔑の表情を浮かべる。そして、
「…命令では無いのなら答えは決まってるわ………」
「……聞かせて貰える?」
「「「……断りまず(お断りよ)(お断りや)!!!」」」
見事なユニゾンで答える三人。ユイはその返事を予測していた様で、三人の顔を順番に見ると、
「………理由を聞かせて貰えるかしら?」
「……自分達の保身のために最初に碇君を切り捨てたのはあなた達…………」
「せや、自分達の都合で切り捨てといて、今度は必要だから呼び戻す。随分勝手な事やな……」
冷ややかな目でユイを見て答えるトウジとレイ。ユイはそんな二人の視線に耐えきれず、まだ答えていないアスカに顔を向ける。
「……私も二人と同意見ね………都合の良い時だけ母親面するのは気にくわないし…」
「…………………………」
侮蔑の表情をユイに向け答えるアスカ。その言葉に沈黙するユイ。三人は黙り込んだユイを冷ややかに見つめると、
「………話は終わり?」
「………なら、儂等は帰らせて貰いますわ……」
「………下らない事に時間を取られたわ。行くわよ、レイ、ジャージ」
アスカの号令と共に三人は踵を返す。と、そんな三人の背にユイが再び声を掛ける。
「………待ってちょうだい。なら、命令します、シンジにNERVに帰属する様説得しなさい!」
「……お断りよ!」
「……ワイもお断りや!……命令違反で処罰したけりゃ、好きにするとええ!!……ダチを売る様な真似するよりましや!」
「………私もお断り………処罰したければ好きにすれば、碇君を裏切った人達の命令なんて聞きたくないもの…………」
三人は口々に答えると、呼び止めたユイに構う事無く会議室を後にする。
後には、三人を呼び止め損ない、頭を抱えるユイと、
「…………は〜……(判りきっていた事とはいえ、面と向かって拒絶されると流石にきついわね)……」
そのユイを見ながら溜息をこぼすキョウコだけが残されたのだった。
市内・デパート
時刻は、NERVでユイ達の会議か終わったその少し後。シンは三人の少女達に連れられ第三新東京市内にある、大手でデパートに買い物に来ていた。
そして今、エル、ルイエ、マリアの三人がそれぞれ気に入った物の会計を済ましている間に、シンはブティックから出て外にある柱に背を預け佇んでいる。と、寄り掛かっているシンの背後、柱の裏手にNERVでの会議が終わりシンに接触しようと現れたリョウジが寄り掛かる。そして、
「………シン君、NERVが、と言うかユイさんが君の事を幹部達に話した……」
「……そうですか………」
リョウジの言葉に少しずり落ちた眼鏡を押し上げながら、特に感慨もなく答えるシン。リョウジもその返事を予測していたのか、時に気にすることなく話を続ける。
「…そうだな……………ところで話は変わるが………」
「………なんですか?」
「……以前君が言っていたヘッドハンティングの件、リッちゃんとマヤちゃんは受けるそうだ……それと俺もな…………」
「そうですか………良いタイミングです。丁度本部からその件をNERVに要求したところでしたから………二、三日中に正規の転属書類を発行してくれるよう頼んでおきますね…」
「…………よろしく頼むよ。それと近い内にアスカ達と葛城が君に接触してくると思うから、そのつもりで居てくれ……」
「……了解……」
シンの返事を聞くと、現れた時の様に音も無くその場を後にするリョウジ。と、次の瞬間、
「「「……シン(様)!」」」
会計を終えた三人が、それぞれに紙袋を持ってシンの元に駆け寄ってくる。シンはそんな三人に笑顔を向けると、
「……終わったかい?……それじゃあ、次はどうしようか?」
「…………次はシンの買い物です」
「………わたしたちがこーでぃねいとする!」
「………私達だけ買ったのでは申し訳ありませんから、シン様の分も見に行きましょう?」
シンの問いに当然の様に答える三人。そんな三人の言葉に苦笑を浮かべるシン。と、ルイエとマリアがそのシンの手をそれぞれ取り、腕を両手に抱える様に持つ。シンはそんな二人の様子に苦笑を深めながらエルに視線を向ける。エルはその様子に一度頷くと、
「………行きましょう、シン。シンの好きなカジュアルファッションは一つ上の階です」
「……判った。丁度、バイクに乗るとき着るジャケットが欲しかったんだ。三人に見繕って貰おうかな?」
「「「……はい!任せてください(まかせてください)」」」
シンの言葉に声を揃えて返事をする三人の少女。
そして、マリア、ルイエの二人に腕を抱えられ、一歩下がった位置に立つエルに視線を向けながら、穏やかな笑みを浮かべたシンは上の階に向かうエスカレーターに向かったのだった。
間章U・舞台裏の策謀 了
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