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The End Of EVANGELION After
灼眼の魔王
第四章・再会と離別・前編
大学構内 駐車場
大天使ラツィエル撃退から三日後。事後処理の全てが終わり、リョウジ達の転属の手続きも済ませたシンは久しぶりに大学に来ていた。
バタンッ!!
駐車場に止めた愛車のドアを閉めるシン。そして掛けている黒いバイザーをいつもの伊達眼鏡に換えると、ズボンのポケットから懐中時計を取り出し時間を確認する。
と、そのシンの背後から、
「「…あのっ!……」」
「………ん?」
掛けられた声に振り返ったシン。そこには霧島マナと山岸マユミの姿があった。シンは少し怪訝そうにしながら、
「………君達はこの間の………俺に何か用か?」
「……えっと〜………ちょっと話があるんだけど………」
「…お手数ですがが少しお付き合い頂けませんか?」
「………その前に名前を教えて貰えるか?」
「…っ!?………言ってなかったっけ、私は霧島マナ、マナって呼んで?」
「………私は山岸マユミです」
自己紹介を促すシンの言葉に僅かに戸惑いを浮かべながら自己紹介するマナとマユミ。シンは二人の言葉に少し考えた後、懐中時計の時間を確認する。そして、
「………次の講義には出席したかったんだが…………まあ良い。で、話って言うのは?」
「……その、私達だけじゃ無いし、それにココじゃあ……」
シンの言葉に辺りを見回しながら応えるマナ。シンはその言葉に首を捻った後、
「…………判った。案内してくれるか?」
「……こっちです……」
言葉と共にマユミはマナと共に、シンを案内する様に歩き出し、シンもその二人の後に続く。と、歩き出したシンの脳裏に、
『……シン、よろしいんですか……恐らく………』
『……だろうな…………まあ良いさ、何時までの接触しないって訳にもいかないからな……』
『……だいじょうぶですか……しん………』
エルの言葉に淡々と返すシン。その言葉を聞き心配そうに言うルイエ。シンは、
『………大丈夫…俺は九重シンだから…』
『『『……マスター(ますたー)………』』』
言葉を詰まらせる三人。シンはそんな三人に気を配りながら、マナとマユミの後を着いて行くのだった。
大学構内 裏庭
マナとマユミに案内されて裏庭まで来たシン。そこには鈴原トウジ、惣流・アスカ・ラングレー、綾波レイ、洞木ヒカリ、の四人が待っていた。マナとマユミはその四人に近づくと、
「……お待たせ、連れてきたわよ!」
「………ありがとう、マナ、マユミ……悪いわね、一応面識がある二人に頼んで方が良いと思ったんだけど……」
「……構いませんよ、アスカさん…私達だって事情を聞いたのですからこの位の事は訳ありません」
アスカの言葉に端的に応えるマユミとその言葉に頷くマナ。
シンはその様子に笑みを浮かべ、その後五人の視線が自分の方に向いたのを見ると軽く肩を竦める。そして、
「…………話は終わったかな?………」
「………ええ…それで、貴方にここまで来て貰った理由なんだけど……」
「…その前に、自己紹介をしないか?霧島さんと山岸さんからはして貰ったが君達とは面識がある訳じゃあないし………まあお互い知っているとは思うのだけれど一応な?」
「「「「…………っ!?」」」」
「「………………」」
シンの言葉に四人はそれぞれ、アスカは眉を顰め、レイ、トウジ、ヒカリの三人は目を見開き驚きの表情を浮かべる。
そんな四人を様子を、「ああ、やっぱり」と言った表情で見るマナとマユミ。
シンはそんな四人の様子に怪訝そうにしながら簡単に自己紹介をする。
「…知ってるとは思うが、俺は九重シンだ…」
「………私は惣流・アスカ・ラングレーよ…」
「………綾波レイ」
「………ワイは鈴原トウジや…」
「………私は洞木ヒカリです…」
シンの言葉に、四人も驚愕を振り払い自己紹介する。シンはそれを聞き満足そうに頷くと、改めて六人の方に視線を向ける。そして、
「………結構……さて、それじゃあ用件に入ってくれるかな?」
「………………単刀直入に聞くわ…ユイさんからアンタがシンジだって聞いたんだけど、それは本当なの?」
先を促すシンの言葉に六人を代表してアスカが問いかける。シンはその問いを聞き苦笑すると、
「…少し違うな……嘗ては碇シンジと名のっていたが、今の俺は九重シンだ…」
「…………どういう事や?お前さんはシンジとちゃうんか?」
「…碇シンジだったのは過去の事だ。そしてその過去は名前や想いと一緒に五年前に捨てたからな…」
「………つまりアンタは、『シンジの記憶を持っている他人』だって言いたいの?」
トウジの問いに答えるシンに、再びアスカが問いかける。シンは少し考えた後、その問いに対し、
「………そうだな……そう取って貰って良いぞ。今の俺にとって碇シンジの記憶はタブリスとの約束以外は記録となっているからな……」
「………タブリスとの約束?…………それは何?」
「………ふっ、それに答える必要は無い。少なくともお前達に関係がある事じゃ無い………それよりこちらも聞きたい。俺が碇シンジだった事を聞いてどうする気だ?」
「「「「「「………っ?!それは………」」」」」」
レイの言葉に笑みを浮かべながら、問いに答える事を断ると逆に六人に向けて問いかけるシン。その問いにアスカ達は逡巡し言葉を詰まらせる。
「……『それは』?………まさかとは思うが、お前達も碇ユイの様にNERV帰属しろと言うんじゃないだろうな?」
「っ!そんな訳ないでしょう!!私達はアイツ等みたいに恥知らずじゃないわ!!!」
「……なら、一体何の用なんだ?さっきの『碇シンジか?』ってのが聞きたい事ならもう用は済んだって事で良いのか?」
そう言って踵を返しその場を去ろうとするシン。それを見たトウジは慌てて声を荒げると、シンを呼び止めようと声を掛ける。
「……待てや!……まだ話は終わっとらん!!」
その言葉を聞きシンは振り返ると再び向き直り、冷め切った視線をトウジに向ける。そして、
「……………で?まだ何かあるのか?」
「………さっき名前も想いも捨てたって言っとったな?それはワイ等の事も含まれとるんか?」
「「「「「………っ!?!………………」」」」」
トウジの問いに彼を除いた五人の女性達に緊張が走る。
シンはその緊張感を感じても特に動揺する事もなく平然としたまま、トウジの問いに冷ややかな視線を向けたまま淡々と答える。
「……タブリスとの約束以外に例外は無い…」
「「「「「「……何でよ!?(…何故?)((…何故ですか?))」」」」」」
シンの言葉に即座に反応し、口々に疑問の言葉を放つ女性陣。シンはその言葉を聞き、
「………判らないか?………簡単な事だ。五年前、NERVから逃亡した俺には選択肢が二つあった……一つはNERVの為にスケープゴートとして吊し上げられる事。もう一つがそれまでの人生を捨てて別人として生きる事だ………そして俺は別人として生きる事を選びそれまでの人生を全て切り捨てたのさ……その俺が今更捨てたものをわざわざ拾って再び元の人間『碇シンジ』に戻ろうと考えると思うか?…」
「「「「「「…………………」」」」」」
告げられた言葉に沈黙を返す事しかできないアスカ達。その心中ではシンを切り捨てたNERV上層部達に対する罵詈雑言、侮蔑の感情が渦巻いている。
シンはそんな内面を気に留める事無くあくまで淡々と言葉を続ける。
「…それに俺にも五年間の間に出来た、恋人、親友、戦友、恩人達がいる。その人達との絆を切るつもりは無いからな……もっとも、碇シンジとしてではなく九重シンとして友好を結びたいと言うのであれば断るつもりは無いが…どうする?」
「「「「「「……………………」」」」」」
シンの言う事も尤もではある。しかしそれでもシンジとの記憶を捨て去る事の出来ないアスカ達は、シンの言葉に沈黙を返す事しかできない。
暫しの間沈黙する両者。
その沈黙の後、再びシンが口を開き黙ったままの六人に問いかける。
「……話は終わり、で良いのか?」
「……一つ教えて……タブリスとの約束だけが例外なのは何故?」
シンの言葉に今度はレイが口を開き問いかける。その問いは彼女達にとっては訊ねて当然といえる内容だった。
シンは少し考えた後、その問いに、
「………………………そうだな、彼が死人だからだな。死者との約束は守るものだ……それに……」
「………それに……何?」
「…彼との約束は別に碇シンジのままでなくても果たせる事だからさ……」
「…………そう………」
シンの言葉に俯き何かを考え込むレイ。と、今度はマナが、
「……私からも聞いて良い?………さっき恋人って言ってたけどそれは?」
「…………そのままの意味、恋人が居ると言う事だが、それがどうかしたか?」
「………それは…………」
あっさりと照れる事もなく答えるシンに言葉を詰まらせるマナ。
その様子を見ていたレイ以外の四人は、その淡泊な反応に五年という歳月の長さとシンの変化を感じとる。
と、シンはそんな周囲の様子を気にする事無く言葉を放つ。
「………意外か?だったら紹介しようか?」
「「「「……!えっ!?!」」」」
その言葉を聞き俯いていたレイを含めた四人は驚きの声を上げる。シンはそんな四人の反応を意に介することなく目を閉じる。そして、
「……エル!…ルイエ!…マリア!」
唐突に、短く呼ばれた名前と共にシンの身体から黒、蒼、白の光球が飛び出す。その様子を、言葉もなく呆然と見守るアスカ達。
と、それぞれの光の球はシンの傍らの空中に留まるとその姿を三人の少女達の姿に変える。
「「「「「「……………っ!?!」」」」」」
あまりに非現実的な光景に驚愕を顕わにし硬直するアスカ達。
「「「お呼びですか(およびですか)マスター(ますたー)?」」」
「……ああ、彼女達にも紹介しておこうと思ってな?」
と、シンは悪戯小僧の様な笑みを浮かべながら固まっているアスカ達を気にする事無く、エルを右手に、マリアを左手に、そしてルイエを身体の前に抱き寄せる。そして、
「………この三人が俺と契約している魔導書の精霊にして俺の恋人達、エセルドレーダ、ルイエ、マリアの三人だ……」
「「「「「「…………魔導書????」」」」」」
「……ああ、それぞれ、ナコト写本、ルルイエ異本、裏死海文書のな……」
「「「「「「………そんな非科学的な物が………」」」」」」
「……目の前で実体化するところを見せただろ………何なら書に戻るところも見せようか?」
端的に疑問の言葉を否定するシンと、そのシンの答えにを慌てて頭を横に振り、断るアスカ達。
そしてアスカ達は考えを纏める様に俯き何事か呟いていたが、暫くして落ち着いたのかシン達四人に視線を合わせる。そしてまずアスカが、
「………その子達が魔導書の精霊とかって言うのは置いておいて…随分と幼いみたいだけど一体何歳なの?」
「……外見は見ての通り、エルとルイエは十二・三歳、マリアは十四・五歳だな………実年齢は……俺より遙かに年上だ……」
「……『実年齢は』って、見た目はどう見ても少女じゃないの…………アンタ、もしかしてロリコン?」
「…さあな………ただ言えるのは俺は、エル達がエル達だから愛してる。外見年齢が幼い事など些細なことだ……」
「……些細なことって………十分問題がある様に見えるわ………」
腕の中の三人を順番に見ながらあっさり答えるシンに呆れた様に漏らすヒカリとその言葉に何度も頷き肯定する他の五人。と、それを聞いたシンはじろりと彼女を見る。そして、
「……『問題がある』ね……ならどんな相手なら相応しいと言えるんだ?」
「………それは……………私達と同じ歳の人とか………」
「………ほ〜、同じ歳か…………なら聞くが、同じ歳の人間が俺の過去、特に碇シンジの事を受け入れることが出来ると思うのか?」
「…………………っ!!……それは…………」
シンの問いに思わず口篭もるヒカリ。いくら彼女でもその件を突きつけられては反論できない。と、今度はマナが、
「………その……本当に恋人同士なの?」
「…ああ、少なくとも俺と彼女達はそう思っている………絶望と孤独に落とされた五年前、犯罪者として追われる俺の手を取ってくれた三人……その温もりにどれほど癒されたか……」
マナの問いに、NERVから逃亡した五年前、その逃避行の中での出会いを思い出しながら言葉を紡ぐシン。と、シンの腕の中で黙っていたエル達がその言葉を引き継ぐ様に、
「…私達もです。両親と自称姉から道具扱いされ、最後にはその命すら利用されそうになる。そんな絶望の中でも生きることを諦めないマスターの強さ……」
「…どうぐとしての『まどうしょ』ではなく、ひとりのしょうじょとしてあつかってくれたますたーのやさしさ……」
「…全てを捨ててまでたった一つの約束のために死地に飛び込む事もいとわないマスターの高潔さ。そんなマスターだからこそ私達も、共にいたい、支えたい、死が私達をわかつまで……」
「…………………………」
胸を張って堂々と答える三人の少女に気圧され沈黙するマナ。と、今度はレイが、
「………裏死海文書と言ったけど、ソレは?」
「……たぶん考えている通りのものだな……ゼーレの残党が死蔵していたのを強奪した…」
「………何故?」
「……必要だったからだ……」
「………そう………」
端的なシンの答えに短く返事を返すレイ。
そして質問が途切れ、今度はシンがアスカ達に向けて言葉を放つ。
「………もう質問は終わりで良いか?…流石に二時間続けて講義をさぼりたくはないし……それに、惣流さん達も考えを纏める時間は必要だろう?」
「…………………そうね……判ったわ。今日はここまでにしましょう……皆も良いわね?」
「「「「「…………………」」」」」
確認を取るアスカに他の五人は無言で縦に頷き了承の返事を返す。その様子を見ていたシンも又満足げに頷く。そして、
「………じゃあ、俺は失礼させて貰う………俺の言った事きちんと理解してくれよ?」
そう言うとシンは踵を返し、アスカ達に背を向け大学構内に向けて歩き出し、エル達三人もそのシンの後に続く。
後には、シンの言葉に考え込むアスカ達六人が残されたのだった。
NERV本部 司令執務室前廊下
シンがアスカ達から質問を受けていた時間のその少し後、松代より戻ったリツコとマヤは、帰還を報告した総務部で司令室に行く様指示を受け、司令室前の廊下を歩いていた。
「………先輩、司令の用件って一体何なんでしょうね?」
「…………判らないわ……只、普通じゃあ考えられない事ね………」
マヤの問いに少し考えた後冷静に答えるリツコ。と、歩く二人の進行方向にリョウジの姿があった。それを見た二人はリョウジに向かって声を掛ける。
「………加持さん?………加持さんも司令に呼ばれたんですか?」
「……ああ、マヤちゃんとリッちゃんもか?」
「そうよ、帰還早々呼び出されたわ………加持君何か聞いてないかしら?」
マヤの質問に問い返すリョウジ。それを聞き、リツコは折り返す様にリョウジに質問する。リョウジはその問いに手を顎にやり少し考え込んだ後、
「……………………そうだな………このメンバーが呼ばれたって事は、もしかしたら彼に関係する事かも知れないな……」
「……っ!彼のですか?………もしかしてそれって……」
「……加持君、例の件、彼には伝えたのよね?…」
「……ああ、………予想より彼の手回しが早かったって事かな?…」
疑問系で考えながら答えるリョウジ。リツコとマヤも考え込むが、その間にも歩は留める事はなく、三人は司令室の前までたどり着く。そしてリョウジは考えるのを止めると、
「………考えても仕方がない……目的地に着いたんだ、答えは呼び出した張本人達にして貰おう……」
「「………そうね(そうですね)」」
リョウジの言葉に返事を返すと顔を上げ司令室の扉を観るリツコとマヤ。リョウジはその様子に一つ頷くと、ドアに備え付けられているインターフォンを押す。そして、
「………加持リョウジ、出頭しました。赤木博士、伊吹一尉も一緒です……」
『………入れ…』
リョウジの言葉に、中からの短い返事と共にロックが解除され扉が開く。
三人はリョウジを先頭にリツコ、マヤの順で司令室に入り、その無駄に広いフロアを真っ直ぐ、奥にある執務机の前まで歩いて行く。そして、
「………赤木博士、伊吹一尉、松代までの出張ご苦労。四号機の搬入は何時になりそうかね?」
「……搬入は今夜遅く、外苑の搬入エレベーターからフィフスが搭乗した状態での搬入になります。その後ケージに拘束、フィフスの着任の挨拶は明日の朝に行う様指示してあります……」
「………判った……」
コウゾウの問いに簡潔に答えるリツコと、そのリツコの答えに短く返事をするゲンドウ。そして簡単に報告が終わったのを見計らってリョウジがゲンドウ達に問いかける。
「……それで、我々を呼んだのは?」
「………うむ………単刀直入に言おう…国連から君達三人に転属命令が出ている。転属先は国連軍第666独立特務連隊DEMONBANE………先日の兼の処分も兼ねているのでNERVとしては拒否権は無い……承諾してくれるかね?」
「………了解しましたわ………それで正式には何時転属となるのですか?」
「………六月末日付けでNERVを退職、その後七月一日付けでDEMONBANEに入隊という形になる……引継に掛けられる日数は一週間……それまでに赤木博士は碇、惣流、両博士にMAGIに関する引継を、加持一佐と伊吹一尉は明日通達する後任の保安諜報部部長と技術部付きのオペレーターにそれぞれ仕事の引継を行ってくれ」
「「「………了解しました」」」
コウゾウの言葉に声を揃えて返事をする三人。コウゾウは通達に不服の無い様子の三人に少しいぶかしむも、
「…………話は以上だ…仕事に戻ってくれたまえ……」
「「「…………………」」」
その言葉に三人は無言で一礼し司令執務室を後にする。そんな三人を見送ったコウゾウはゲンドウに顔を向けると、
「………碇、本当に良かったのか?………特に赤木博士は………」
「………問題ない……MAGIとEVA、共に赤木博士が居なくとも十分に運用は可能だ……」
「……しかし、三人の口から五年前の事が漏れたら拙いのではないか?…」
「………それも問題ない………すでに手は打ってある……」
「………………………」
淡々と問いの答えるゲンドウに何を言っても覆らない事を察したコウゾウは沈黙し、そして執務室は再び静寂に包まれるのだった。
NERV本部 技術部第一課課長執務室
司令室を後にしたリツコ達三人はこれからの事を話し合うため、盗聴の心配のない(リツコがMAGIの監視から外しているため)リツコの執務室まで来ていた。
三人は部屋に入り念のため扉をロックするとそれぞれ適当なところに座る。そして、
「………さて……今後の事だけど……」
「…………………司令達の事だから、まず間違いなく妨害してくるでしょうね……五年前の事も含めて私達はNERVの弱みを握っているも同然だし……」
「………でも、先輩……いくら司令達でも国連からの正式な命令に逆らう様な事するんですか?」
リョウジの言葉を引き継いだリツコの言葉に、マヤは疑問を口にする。と、それを聞いたリツコとリョウジは顔を見合わせると、
「………表向きは指示に従うだろうな…………ただそれはあくまで表向きは、だ……」
「……ええ、恐らく何らかの方法、『私達を事故に見せかけて殺す』位のことは考えているでしょうね……」
「………………そんな…………」
リョウジとリツコの言葉に思わず絶句するマヤ。と、リョウジはそんなマヤの様子にに苦笑を浮かべると、
「……組織の裏なんてそんなものさ……ただ俺はさほど心配していないがね……」
「…………どういう事?」
そのリョウジの言葉に今度はリツコが問い返す。リョウジは、
「……おいおい、少し考えれば判るだろう?……………シン君達さ。ここまで用意周到に手を打っているんだ、恐らく妨害に対する対策だってしているはずだろう?」
「……そうね………なら、私達が気を付けなきゃいけないのは………」
「……………葛城二佐ですね……」
リョウジの言葉に納得し、自分の考えを口にするリツコとマヤ。リョウジもそれに頷くと、
「………そうだな……今は独房で謹慎しているが……」
「………運が悪いことに出てくるのが丁度私達がNERVから去る、その日………」
「…………葛城二佐の事ですから、話を聞けば間違いなく暴走しますね……」
その様子を頭の中で思い浮かべながら三人は溜息混じりの言葉を放つ。そして嫌な沈黙が三人の間に落ちる。
暫しの時間が流れた後、その沈黙を振り切る様にリョウジが、
「……………まあ、その事も彼なら予想しているだろ……なら心配はいらないさ……」
「……彼に頼りきりなのは心苦しいけど………」
「………私達に手の打ち用はありませんし………」
「「「…………はぁ〜〜〜」」」
苦笑を浮かべながら言葉を放つリョウジと、苦い顔をしてその言葉を引き継ぐリツコとマヤ。そして三人の深い溜息と共に、室内に再び沈黙が落ちたのだった。
シンのマンション リビング
時刻は夜。昼間、アスカ達に呼び出され話をした意外は特に変わった事も無く過ごし、シンはそのまま何事もなく帰宅した。
そして今、シンはエル、ルイエ、マリアの三人が入浴している間にリビングのテーブルで愛銃P7M13の分解整備をしている。
『カチャカチャ』と、無機質な音を発て部品の摩耗を確認し可動部にオイルを注し、流れる様な動作で銃を組み立てていくシン。
そして最後に、組上がった銃本体に装弾したマガジンを差し込み、遊底を引き初弾を薬室に送り込む。そのままその銃を手の中でと回転させると壁に向けて構える。
シンは暫くの間鋭い目で壁に向けて狙いを付けていたが、静かに息を吐いた後、安全装置を掛けながら銃を降ろす。
そして、そのままホルスターの中に銃を戻すとそれを持ち、立ち上がるとリビングを後にしたのだった。
シンのマンション 洗面所兼脱衣所
リビングを後にしたシンはホルスターと銃を部屋に置き、手に着いたガンオイルを落とすため洗面所で手を洗っている。
すると、曇りガラス一枚隔てた浴室からエル達三人の話す声が洗面所まで聞こえてくる。
『………それにしてもマリア……一番年下の貴女がどうして、見た目は一番年上なんでしょうね?』
『…………たしかに………ふこうへい……』
『……エル姉様、ルイエ姉様………何時もは気にしてないのにどうしたんですか?……』
『…ひるまいってたことをきにしてるの………』
『…シンがロリコン呼ばわりされるのはちょっと……』
そんな三人の会話に苦笑を浮かべるシン。そして、
「……………二人とも気にしすぎだぞ……」
『『『……シン(しん)(様)!!』』』
シンの告げた言葉に驚いた様に三人の返事が返ってくる。シンはその様子に苦笑を深めると、
「…………俺は今のままでも十分幸せだぞ……………それにこれ以上魅力的になられたら俺の身が保たないからな……」
『『『………………っ!?!?』』』
シンの言葉に三人の気配がが明らかに動揺する。シンはそれを感じ取り笑いを押し殺している。と、
『…………ありがとう、しん…………ところでどうせだからいっしょにはいらない?』
『……ルイエ姉様?!?』
『………それは良いですね。シン、一緒にどうですか?』
ルイエの提案に驚くマリアと同じように誘いの言葉を告げるエル。シンはそれを聞き、
「…………良いのか?……ならご一緒させて貰うが?」
『…………ちょっ!?!シン様??』
『…べつにてれることないよまりあ………みられるのだってみるのだってはじめてじゃあないんだから……』
『……そうですね、今更ですよマリア。それに一度シンの背中を流してみたかったんです……と、言う訳ですんで構いませんよ、シン…』
『……それはそうですけど…………うぅぅ〜〜〜』
エルとルイエの正論と言えば正論に唸り声を上げ沈黙するマリア。シンはそんなマリアの様子に僅かに微笑むと、
「………わかった……着替えを取ってくるから少し待っていてくれ……」
『『………はい!!』』
沈黙したマリアを余所に、エルとルイエはシンの言葉に明るい返事を返す。シンはその返事を聞きながら、着替えを取りに自室に向かうのだった。
そうしてこの日の夜、シンが過去と対面した日の夜は暗く沈む事無く明るい雰囲気で過ぎていくのだった。
第四章・再会と離別・前編 了
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